無限ラジオドラマ脚本集

2014年10月頃から放送を開始した、無限ラジオ(メインMC:ねねさん、サブMC:コエモンさん)で展開しているラジオドラマの脚本集です。

つたない脚本ですが、音響効果担当のコエモンさんの尽力により、その後コンスタンスに新作を発表し続けています。

素材は、UOで船を操っているとときたまNPCの船頭がつぶやく言葉です。

数行の言葉から、妄想を膨らませていくわけですが、第1シーズンとなる9作は、月に3本を3ヶ月でたたき出したという無謀工程でしたw

いやほんと、よくやったものです。

声優も最初は4人。

そのあと抜けたり、新期参加いただける方をねねちゃんが勧誘しまくったりと、裏のわたわたもありまして、たくさんの皆様のご協力、ご尽力のたまもので、第2シーズンにまで発展していきました。

しかし、ラジオ放送時のみの公開であり、再放送のご希望を承っているとはいえ、なにを基準にお選びいただいたらよりスムーズにリクエストが集まるのか。

タイトルのみの紹介では、足りないのではないか。

ということで、脚本の公開と相成りました。

つたない脚本で、見直しても尚、修正されていない誤字脱字など、おみぐるしい点も多々ありますが、そこはほら、素人だからっ。

あんまり厳しいことはいわないようにっ。

新作ができましたら、こちらの記事で追加をしてまいりたいと思います。

お暇つぶしにご利用いただければ幸いです。
                                        2015.8.13 ジニー記

******************************************

船頭の話 第二シーズン のUPをぼちぼち始めます。

あわせて、小説版もこつこつUPします。

この記事があがっていたら、どこかに更新があったりします。

引き続き、暇つぶしにご利用いただければ幸いです。

2015.8.15 ジニー記 


******************************************


船頭の話 第1シーズン

船頭の話 第一話 「船乗は良い酒が好き」/小説版「船員は良い酒を好む」

船頭の話 第二話 「魔女の真珠」

船頭の話 第三話 「死者の国へ」

船頭の話 第四話 「たたずむ女」

船頭の話 第五話 「 女海賊船秘話 」

船頭の話 第六話 「旅立ち」

船頭の話 第七話 「しゃべる犬」

船頭の話 第八話 「月光」

船頭の話 第九話 「歌って恋して」

********************************************************

船頭の話 第二シーズン

船頭の話 第十話 「シーサーペントになった男」

船頭の話第十一話 「忍者に襲われた男」

船頭の話第十二話 「侍に口説かれた女」

********************************************************

スポンサーサイト

船頭の話第十二話 「侍に口説かれた女」

船頭の話第十二話 「侍に口説かれた女」
          原作:しば
          脚本:ジニー

****************************************


あー!バッカニアーズ・デンであっしが出会った女の話をしましたっけ?立派な侍に口説かれた人のことを。
なに、つまらん話でさ。

************************************






バッカニアーズ・デンは、海賊、盗人、人殺したちが集まる無法の町、と他の町の人はいう。

間違ってはいないね、たしかに犯罪者は多い。

ところがね、実は犯罪は少ないんだ。

だってね、彼らは、バッカニアーズ・デンにいられなくなったら、くつろげる町がなくなっちゃうんだから。

評判にくらべて、案外住みやすいのがバッカニアーズ・デンなのさ。

他の町で殺伐としたか暮らしをしている反動なのか、バッカニアーズ・デンでは、のんびりした海釣りが大人気でね。

あたしはそんな客相手の船頭なのさ。

自分でいうのもなんだけど、長い間やってるからね、いい釣り場も知っているし、結構たよりにされているんだよ。

港の近くに、こじんまりとした釣具やがあってね。

そこのおやじとあたしは幼馴染なものだから、おやじの紹介で客が途切れることはなかったよ。

おやじには年頃の一人娘がいてね。

なくなったかみさんにそっくりの、ちゃきちゃきした美人さんだ。

温厚でお人よしのおやじの手伝いを、幼い頃からしてきたせいか、気が強いながらも気配りができて、おまけにとても面倒見がよかった。

娘と仲良くなりたくて、釣りを始める男もいるようだったよ。

マリ父
「マリ、このお客さんは釣りが始めてなんだそうだよ。」

マリ
「わかったわ、お父さん。さあお客さん、餌はこうやって針につけるのよ。竿はこうふってね。基本を覚えたら、おばさんの船にのせてもらってね。」

女船頭
「あいよ、カワマスあたりの釣り場がいいかね。」

まあ、こんな調子さ。

マリにとっては釣りをするのはただのお客さま、浮いた話ひとつありゃしない。

マリ父
「おまえもそろそろ年頃なんだから、所帯をもってもいいんじゃないのか」

マリ
「いい男がいたら私だってそうしたいわよ、お父さん。」

マリがいういい男の条件っていうのが、酒がいくらでも飲めるってことだった。

酒屋の娘だったかみさんの血筋なのか、マリはいくら飲んでも酔わないうわばみで、先に酔いつぶれてしまう男なんかは、恋愛対象にならないという言い分だった。

マリ
「わたしと飲み比べて勝ったら、お付き合いを考えるわよ」

冗談半分、あるいは本気で、マリと酒の飲み比べに挑んだ男たちは、軒並み玉砕していた。

ユーノ
「マリ、リベンジだ、おれと勝負しようぜ」

マリ
「ユーノ、またあんたなの。もう何回目なのよ」

何度も勝負を挑み、そのつど負けて、酒代を払わされていてもなおもあきらめない男もいたが、マリは愛想よく相手をしながらも、決して恋人にすることはなかった。


*******************************************************

ある日、桟橋で船の手入れをしていると、男に声をかけられた。

左近
「船頭殿、釣りをしたいのだが、船を出してはもらえぬか」

地味だけれどよく見れば上等な藍色の着物に編み笠を目深にかぶり、手には新品の釣り竿をびくをもっている。

しかし、目を引くのは腰に下げられた立派な日本刀だ。

少々くたびれた衣服にくらべて、つか、つば、さや共に見事が細工が施された日本刀は、よく手入れがされているようだった。

女船頭
「あいよ、なにが狙いだい。お好みの釣り場に連れて行ってあげるよ」

左近
「いや、釣りは初めてでな。行き先は船頭殿にお任せしよう。」

女船頭
「釣りが初めてで、海釣りをするつもりなのかい?餌はなにをもってきたんだい、みせてごらん」

左近
「餌? 釣りには餌が必要なのか、これはうかつであった」

よく晴れた日の桟橋で、長身の男が空にむかって豪快に笑ったあと、ピシッと背筋を伸ばすと、きちっと私に一礼して言った。

左近
「船頭殿、すまぬが釣りの指南もお願いできるか」

そして編み笠をずらすと、目を合わせてにこっと笑った。

愛嬌のある男でね、つられたあたしもにこっと笑ったよ。

わたしは男をマリに紹介したよ。

マリは、男が別の釣具屋で購入したという釣り竿をみておこりだした。

マリ
「これ、遠洋用の釣り竿じゃないの。初心者に扱えるわけないわ。

なんですって?そんな値段で買わされたの?ぼったくりもいいとこだわ」

左近
「そうなのか。ゼントにくらべると、物価が高いなと思うてはいたが」

男はまたも豪快に笑った。

女船頭
「あんた、気持ちがいい男だね。この町にはなにしにきたんだい」

左近
「それがしはゼントのさむらい道場で修業をしている左近と申す。

こたびは武者修行のたびでな、荒くれ者の町、バッカニアーズ・デンにはなかなかの使い手がいるという噂をきいて訪れたのだ。

この町では、釣りが男のたしなみと聞きおよんだのでな。

たしなみをないがしろにしては、まっとうな勝負は挑めぬからな、それがしも釣りを極めねばならんと思ってな。」

マリも左近には好感をもったようで、いつものようになにくれと釣りの世話をするようになった。

左近
「マリ殿、餌をつけてみたのだが、これでよいだろうか」

マリ
「ぜんぜん違う、これじゃすぐ餌だけとられちゃうわ」

マリがいうのには、左近は手先が不器用で、餌をつけるのが壊滅的に苦手なんだそうだった。

しかし釣り竿を振ると、針はありえないほど遠くまで飛んでいく。

マリ
「もうちょっと手加減して飛ばしてよ。

勢いがありすぎて、ほら、針が水に入る前に、えさが外れてどっかに飛んじゃってるわ」

左近
「ううむ、手加減か、難しいのう」

なかなか上達しない左近にマリはつきっきりになって世話をしていた。

小柄なマリにきゃんきゃんといわれながら、長身の背中を丸めて、針に餌をつけている左近の姿は、町の人の笑いを誘った。

マリ父
「マリ、大の男にあそこまでぎゃんぎゃんいうのはどうかと思うが」

マリ
「だって仕方ないじゃない、なかなか覚えないんだもの」

女船頭
「おやじさん、マリはいつもそうじゃないか。それでも憎まれないのは、マリが本当に親身にやっているからだよ」

左近
「うむ、マリ殿には感謝しておる。できのわるい弟子で申し訳ない」

左近はマリに一礼した後、マリと目を合わせてにっこりと笑った。

左近
「もうしばらくご指南をお願い申す。マリ殿」

マリがめずらしく、口ごもった。

マリ
「わ、わかってるわよ。一度ひきうけたからには見捨てたりしないわよ」

そして左近に背をむけたのだが、その頬がほんのり桃色に染まっているのを、わたしは見逃さなかったよ。


***************************************************************


マリの教えと左近の努力の結果、左近は海釣りにでられるようになった。

マリ
「おばさん、マグロの釣り場にいってくれる?」

女船頭
「おや、マリも一緒にいくのかい。」

マリ
「だって、左近はまだ餌をつけるのがへたなんだもの。

わたしがみてないと餌が無駄になるばっかりだわ。」

左近
「てすうをかけるな、マリ殿」

マグロはなかなか釣れず、びく一杯の小魚と靴が釣れた。

左近
「マリ殿、なぜこんなに靴が釣れるのだろう」

マリ
「みんなが靴を海に捨てるからよ」

左近
「なぜ海に捨てるのだ」

マリ
「まじないよ。古い靴を海に捨てて、新しい靴をはいて新しい人生を歩むためよ」

マリはそういうと、靴を脱いで海に放り投げた。

それをみて、左近もはいているぞうりを脱ぐと海に放り投げた。

左近
「人生はいつでも新しく始められるものだな、マリ殿」

マリはなにもいわなかった。

女船頭
「左近さん、釣り竿、ひいてる、ひいてるよ」

左近
「おお、これはおおきいぞ」

釣れたのはマグロではなく、グレートバラクーダーだった。。

マリ
「すごいわ、レアフィッシュが釣れるなんて、左近はもう一人前ね」

左近
「そうか、一人前か。マリ殿のおかげだな。」

左近の豪快な笑い声が晴れた海に響き渡った。


**************************************************************

桟橋に戻って荷物のかたずけをしていると、置いてあったびくが左近にむかってぶつかった。

女船頭
「ユーノ、なにするんだい」

ユーノ
「ああ、すまねえな、通り道にあったんでつい蹴っ飛ばしちまった」

ひっくりかえったびくからこぼれた小魚が、左近の足元に散らばっていた。ユーノが左近めがけてびくを蹴っ飛ばしたのはわかりきったことだった。

左近
「いや、きにするな。邪魔な場所においたそれがしが悪かった」

左近は気にもせず、小魚を拾い集めるとまたびくにもどした。

ユーノ
「よう、マリ。雑魚しかつれないやつの世話は大変だろう。」

マリ
「あんただって最初はそうだったでしょ。」

マリに冷たくあしらわれたユーノは、舌打ちをして立ち去った。


女船頭
「きにすることはないよ。ユーノはマリに勝負で負けっぱなしなうえ、最近マリが左近さんにつきっきりなのでやきもちをやいているんだよ」

不機嫌にあちこちにおいてあるものを蹴飛ばしながら立ち去るユーノの後姿をみながら、左近が聞いた。

左近
「船頭殿、マリ殿とユーノ殿の勝負とはなんなのだ」

*****************************************************


マリ父
「えー、お集まりのみなさん、これより20回、いや30回目だったかな。娘、マリとの酒飲み対決を始めます。」

釣具屋のおやじがいつものように、海賊の略奪亭で飲み比べ開始の挨拶をした。

中央のテーブルにはマリと左近が向かい合って座っている。

マリ父
「ルールはふたつ。マリが先に酔いつぶれたらマリの負け。酒場の酒蔵が空になっても勝負がつかなかったらマリの負け。いいな、マリ、左近さん」

マリは無言でうなずいた。

左近
「あいわかった、マリ殿、いざ勝負」

ふたりの前に次々に酒瓶が置かれていくが、ふたりはまわりではやし立てる野次馬の声援を聞きながら、無言で飲み干していく。

マリが酒を飲むピッチははやいのだが、左近も同じくらいの速度で杯を空にしていく。

女船頭
「ねえねえ、おやじさん」

腕組みをくんでふたりをみているおやじの袖をわたしは引っ張った。

女船頭
「わたしには、あのふたり、好きあってるようにみえるんだけど」

おやじ
「おれもそう思うわ。」

女船頭
「だったらこの勝負、酒の無駄じゃないの」

おやじ
「それがなあ、左近さんがいうんだよ。飲み比べ勝負がマリの流儀なら従うのが礼儀だってね。」

女船長
「おやまあ、左近さんは結構頑固なんだね。」

おやじ
「マリも頑固なところがあるからなあ。まったくお似合いだよ。」

野次馬がふたりをはやしたてるのに疲れた頃になっても、勝負はつかなかった。

マリは顔色もかえず、少々飲む速度は遅くなったもののまだ平気そうだ。

左近は顔が赤くはなっていたが、まだ笑みをたやさず、酒を飲み続けている。

酒場の店主が、おやじに耳打ちをした。

おやじがうなずいて、ふたりに言った。

おやじ
「ふたりとも、今度のたるで酒蔵が空っぽになってしまうそうだよ。」

野次馬たちが、とうとうマリが負けるのかと一気に盛り上がった。

**************************************************

盛り上がる野次馬の中からユーノが抜け出し、店の外へでていった。

その暗い表情が気になって、わたしは追いかけてユーノの肩をつかんだ。

女船頭
「ユーノ、最後まで見届けないのかい。」

ユーノ
「マリが負けるなんて許さない。こんな勝負、中止にさせてやる。」

ユーノは桟橋に向かうと小船にのって漕ぎ出した。

女船頭
「ユーノ、なにをするつもりなんだい」

桟橋から叫ぶと、ユーノがなにかを持ち上げてみせた。

月明かりに輝くそれは、魔物を呼び出すという純白の投網だった。

*************************************************

魔物の咆哮と、桟橋がバリバリと破壊される音が響いた。

わたしは海賊の略奪亭に駆け込んだ。

女船頭
「たいへんだ、ユーノがスカリスを呼び出した」

酒場にいた全員がマヒ魔法にかかったように一瞬動きをとめたあと、悲鳴をあげた。

最後の酒樽はまだ空にはなっていなかったようだ。

マリが持っていたグラスを落として割れる音が店内に響いた。

左近はグラスに残っている酒を飲み干すと立ち上がった。

左近
「ユーノ殿はご無事か」

女船頭
「わからないよ、それより逃げないとここも危ないよ。」

左近
「ユーノ殿の無事を確かめねばなるまい」

左近はさすがに酔っているのだろう、おぼつかない足で酒場から桟橋にむかった。

酒場の全員が、左近を追った。

桟橋では、スカリスが腕を振り回し暴れていた。

腕の1本に、ユーノがつかまれていた。

ぐったりとしていて、生きているのかどうかわからない。

左近がスカリスに向かって、朗々と叫んだ。

左近
「これ、スカリスとやら、ユーノ殿をはなし、海にかえらぬか。大事な勝負の邪魔にもなっておるでな。」

マリ
「言葉が通じるわけないでしょ。左近、酔ってるの?」

マリが左近を後ろに引っ張ろうと着物の袖をつかんでひっぱったが、左近は制していった。

左近
「酔ってはおるが、つぶれてはおらぬ。

言葉が通じぬとなればやむを得ぬ。

成敗させていただく。」

左近は両手を着物の袖に引っ込めると、袂をわけて同時にだした。

着物がはだけて、無駄のない筋肉におおわれた、均整のとれた上半身があらわになった。

腰の長剣を引き抜くと、左近は鞘をマリに手渡した。

左近
「もっておれ。傷つけとうないからな、マリ殿に託す。」

するどい眼光はマリではなく、威嚇するようにスカリスに向けられていた。

マリは鞘をうけとると、ぎゅっと胸に抱きしめた。

抜き身の長剣を正眼にかまえると、左近は足摺をしながらスカリスにちかよりつつ間合いをはかった。

暴れていたスカリスは、左近の気合に気がつき、その凶暴な腕を左近に伸ばした。

左近は横に飛びずさるとすかさずスカリスの腕にたちを振り下ろした。

刀の残像が、銀色の光にみえた。

腕を1本切り落とされたスカリスは怒り狂い、別の腕で左近を捕まえようと襲い掛かった。

左近は伸びてきた腕に飛び乗るとそのまま駆け上り、スカリスの片目に、たちをつきさしつぶし、すばやく移動すると、ユーノをつかんだままの反対の腕も切り落とした。

腕ごと桟橋に放り落とされたユーノが、うめき声をあげた。

スカリスが手当たり次第に振り回す残りの腕が、左近の胸にふれた。

左近の胸から鮮血が飛び散ったが、動きは鈍ることなく、スカリスの腕を次々に切り落とし、本体と正面から向き合った。

左近が低い声で言った。

左近
「ユーノ殿が生きておるのなら、そなたを殺すいわれはない。海に帰れ。」

左近とスカリスは動きをとめ、眼光を飛ばしあった。

スカリスは、町中が震えるほどの咆哮を一度あげると、外洋に向かってしりぞいていった。

左近は中段に構えたまま、スカリスを見送った。

*****************************************************

スカリスの姿がすっかり海に消えてしまうと、左近は構えをとき、マリに歩み寄った。

マリは震える手で、鞘を左近に差し出した。

左近はにっこりと笑うと、長剣を2度ほどふり、鞘に収めるといつのもように腰にさした。

左近
「マリ殿、勝負の続きといこうか」

マリは首をふった。

マリ
「怪我を・・・・・怪我をしてるじゃない」

左近
「たいしたことはない、それよりもマリ殿との勝負のほうが大事であろう」

マリ
「ムリ! 飲めるわけないでしょ!」

左近は両手を、ぽんっとあわせた。

左近
「もう飲めぬとあらば・・・・・勝負はせっしゃの勝ちということか」

マリは一瞬たじろいだが、はっきりといった。

マリ
「そうよ、左近の勝ちよ!」

野次馬が歓声をあげた。

左近はいつものように豪快に笑い、そして大の字になってひっくりかえった。

びっくりして駆け寄ると、左近は目をつぶり、満面の笑みを浮かべて、もぞもぞとつぶやいた。

左近
「祝言はゼントであげようぞ・・・・・。」

そして、ごうごうといびきをかいて・・・・・寝ていた。

おやじ
「マリ、おまえの負けだな。」

マリ
「お父さん、負けたわ。

わたしこの人に酔って、酔いつぶれちゃったわ。」

そのときのマリの笑顔のかわいいことといったらなかったわ。


*************************************************


意識を取り戻したユーノは、こっそり町を抜け出し、2度と戻ることはなかった。

あいつは悪党としては小物だし、どこかでちょっとした悪さをしながら、生きているんだろう。


マリはゼントへいって、左近と所帯をもったよ。

このあいだ、おやじといっしょに遊びにいったけれどね。

ゼントの日本酒、あれは美味しいねえ。

かわいい3人の子供を寝かしつけたあと、日本酒で晩酌をするのが、マリと左近夫婦の日課なんだってさ。

左近は、ゼントの師匠から免許皆伝をもらって、あたらしいサムライ道場の師範になったそうだよ。


左近の道場では、釣りの道も剣の道に通じるものがあるといって、弟子は釣りの修行もするそうでね。

そっちはマリが、面倒をみているそうだよ。


左近
「さむらいの師範より、釣りの師範のほうが厳しいといわれておる」

左近はそういって、豪快に笑っていたよ。



************************************************************************

(あとがき)

第十二話も、十一話と同じ作家さんからの投稿を原作としています。

今回は語りもお願いしましたが、安定感のある、とても素敵な語りとなりました。

いつも脚本にはト書きはなく、それぞれの役の方が、それぞれの解釈で声を入れてくださるのですが、左近役の方はいつも、とてもいい感じに仕上げてくださいます。

また、今回のマリ役は、いわゆる北島マヤが降臨する方なので、理想のマリになってます。
あまりの可愛らしさに、萌えファンがすさまじいことになっているという噂。ただ、残念なことにマリ役の方はしばらく出演は難しいということでした。
復帰をてぐすね引いて・・・・・じゃなくて、純粋にお待ちしておりますw

ユーノ役をお願いした方は、ご自分でも音声でのラジオ放送をしていて、そちらでも人気ですが、熱心に役作りをしていただいて感謝しきれません。

今回、実は、スカリスの設定がいい加減でした。腕の数とか深く考えちゃいけません。演出上、増えていても気にしちゃだめですからねっ?





尚、この記事の掲載に関しては、原作者の許可を頂いております。

******************************************************

再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

******************************************************

船頭の話第十一話 「忍者に襲われた男」

船頭の話第十一話 「忍者に襲われた男」
            原作:しば
            脚本:ジニー

******************************************


あー!
ベスパーであっしが会った男の話をしましたっけ?
忍者に襲われた奴の話を。なにつまらん話でさ。

******************************************




ベスパーでは船頭が暇ってことはまずはない。

ゴンドラで水路をゆっくり進みながら街をめぐる観光が人気だからだ。

特にニジェルムで結婚式をあげたあとに、新婚旅行で訪れるカップルも多いですしね。

わしがその日に乗せていたのも、結婚式のためにニジェルムに向かう途中でベスパーに寄ったというカップルだった。

ただいつもと違ったのは、結婚式直前のカップルというのは幸せそうにべったりくっついてくつろいでいるのが普通なのに、そのふたりはいやに緊張した面持ちだった。


特にだんなのほうが顔色が悪いのが気になった。

嫁さんのほうは、そんなだんなを気遣いつつ、あたりに気を配ってきつい目をしていた。

だんなは、ブリティンで働いている学者さんという話で、なるほど、あまり外を歩かないのか日に焼けていない顔色で、体の線も細くって、そのかわりといってはなんですが、えらいあたまのよさそうな、インテリっぽい顔つきでした。

一方の嫁さんは、だんなよりかっぷくがよいくらいで、子供を何人でも埋めそうな、健康そうな女でした。

ふたりはムーングロウ出身で、結婚式をあげたら、故郷のムーングロウへ帰るという話でした。

ふたりの会話を聞き耳をたてて聞いていたわけではないのですが、ときおり嫁さんが声を大きくしているのがいやでも聞こえました。


「だいじょうぶよ、あなた。いくらなんでも船にちかづいてくればすぐわかるもの。」

だんな

「でも、・・・・・今までのことを考えるともう恐ろしくて・・・・・」


「わたしが守るから絶対に大丈夫よ」

およそ恋人同士とは思えない会話にびっくりはしましたけどね。

だからといってこちらから事情を聞くのもはばかれましたので黙って船を操っていましたよ。

効果音:船ぶつかる

水路から街並みを観光するいつものコースですが、橋の下をぬけようとしたら、船がなにかに引っかったようで動かなくなりました。

丁度大きな橋の下で、陸にいる人間からは見えないので助けも呼べません。

船頭
「お客さん、ちょっと待ってください。船がなにかにひっかかったようなんで。障害物をはずしますんで、ちょっと船が揺れるかもしれません。動かないで待っていてくださいよ。」


「船頭さん、こういうことってよくあるの?」

船頭
「めったに無いですね、ベスパーの水路はいつもきれいにされてますからね。」

嫁さんの表情が、さらにきつく緊張するのがわかったが、船が揺れるのがこわいのだろうくらいに思っていた。

船先の水面をのぞくと、なにやら流木のようなものが浮かんでいて、そのために前に進めなくなっているようだった。

船頭
「お客さんに頼むのは申し訳ないんですが、これはひとりではムリですわ。だんなさん、手伝ってもらえますか?」

うなずくだんなを制して、嫁さんがすっと立ち上がった。



「わたしが手伝うわ。あなたはじっとしていてね」

だんなは顔色をさらに悪くして、こくんと一度うなずいた。

姉さん女房かな、とわしは思いましたよ。

嫁「流木かしら。船を後退させることはできるかしら?」

船頭
「はい、そりゃ簡単なことです。」


「少し船をさげてちょうだい。障害物はわたしが消してあげるわ。」

船を後ろに進めると、水面に浮かぶ障害物にむかって、嫁さんが呪文と共に炎を発射しました。

効果音:FA1発

障害物は強い炎をうけてこなごなになり、みなもへ沈んでいきました。。

船頭
「こりゃまた驚いた。嫁様は魔法使いでしたか。」


「ムーングロウの女のたしなみよ。

嫁さんはにっこりと笑った。

そう美人でもないと思っていたが、笑うと存外愛らしい。

効果音:船揺れる



だんな
「た、たすけ・・・・!!」

だんなのくぐもった悲鳴が聞こた。

効果音:だんな暴れる

船がたいそう揺れて、必死に船べりにつかまってだんなのほうを見てみると、複数の男がだんなを押さえ込んでいた。


「あなた、目をつぶって!」

嫁は叫ぶと、すごいはやさで呪文を唱えて、小さな魔法の炎を不埒者たちに順番に発射した。

効果音:MA6発+消える音5発

炎にあたると男たちの姿は煙のように消えていき、最後に残った男は、炎があたった瞬間にまゆをひそめると、無言のまま水面に落ちてそのまま見えなくなった。

効果音:水に落ちる

*****************************************************




「あなた、だいじょうぶ?」

嫁はますます青ざめて震えているだんなを、豊満な胸にしっかりと抱いた。



だんな
「こんな船の上で襲ってくるなんて・・・もうむりだよ。ニジェルムでの結婚式ははあきらめて、ムーングロウに帰ろう。僕はもう一歩も家の外にはでたくない。」


怖い思いをしたのはわしも一緒ですからね、事情を聞く権利もあるってものです。

船頭
「いったいなにごとなんです。あの男はなにものなんです」



「迷惑をかけて悪かったわ。夫はあの忍者に狙われているの。」


船頭

「忍者なんてものは、旅人に聞いたことはありましたが、実物は初めてみましたよ。上から下まで真っ黒な服装で、頭巾から見えた目が、妙にぎらぎらしてたのが怖ろしかったですよ。それが6人もいるなんて、なんておっかない。」


「そのうち5人は忍者の分身よ。炎をぶつけたら消えてしまったでしょう?」

嫁さんがいうには、結婚式の資金を稼ぐために、ゼントへ講師として出向していただんなが戻ってから、おかしなことが続いたそうなんです。

ゼントでの仕事が終わっていないからもどれという手紙が、だんなが住んでいる家のポストに届いたり、夜遅くに同僚と一緒にだんなが帰宅途中に、誰かにつけられている気配をよく感じたりしたそうです。


ニジェルムパレスで結婚式をあげるために、ブリティンからベスパーへ、陸路で旅をしている間も、なんどかこういった襲撃があったそうです。


「わたしが全部、撃退したけれどね。」

嫁さんはなかなかの魔法の使い手のようでした。

だんな
「じかに襲ってきたとなっては、君まで危険だよ。いくら君が腕のいい魔法使いだといっても、女なんだから・・・・・。怪我でもしたら僕は一生後悔するよ。ムーングロウにひきかえそう。」


「怪我なんかしないわ。ニジェルムパレスで結婚式をするのが、ずっと夢だったのに、引き返すなんて絶対にイヤよ」


だんな
「でも僕は本当に、君の安全が心配なんだよ。」

ひょろっとしてまったく弱そうなだんなだが、嫁さんの心配だけをしているあたりなかなかに良い男だと思ったものだ。

嫁さんも、だんなの気遣いをとてもうれしく思っているように表情をやわらげた。


「わかったわ。じゃあ、わたしが危なくないように、解決しましょう。船頭のおじさん、迷惑ついでに協力してもらえるかしら。」

わしはこのカップルにかなり好感をもってしまったので、危ないことはしないという条件で手伝うことにした。


****************************************************

効果音:人ごみ、ざわざわ


数日後に、ふたりが泊まる宿屋に人だかりができた。

宿屋の中から、激しく言い争う声が聞こえている。


「もうイヤ!あなたなんかと結婚なんかできない!」

だんな
「ぼ、ボクだってごめんだ。君は気が強すぎるんだ!ボクのほうだって結婚なんかできないよ!」


結婚式直前のカップルの大喧嘩を宿屋の人間も、近所の住人も、ひやかすように聞いていたのだ。


「あなたなんか大嫌い!もうこんなところいられない。ムーングロウに帰るわ!」

効果音:ドアが乱暴にしまる

しばらく言い合ったあとで、嫁さんのほうは宿を飛び出していってしまった。


******************************************************

嫁さんにでていかれただんなは、ひとり部屋で泣いていた。

効果音:ノック、ドアがあくわしは騒ぎを聞いて、だんなの部屋を訪れてだんなを慰めた。

犬の散歩の途中だったので、犬も一緒に慰めるように、だんなの頬を流れる涙をなめとっていた。

犬:きゅーん


船頭
「だんな、だいじょうぶですか?」

だんな
「だいじょうぶじゃないよ。でもしょうがないんだ・・・・・・」


猫:鳴き声

船頭
「おや、宿屋で飼っている猫でしょうかね?」

猫はドアの隙間から、部屋に入ってくると、だんなの足元にすりよった。

猫:鳴き声

犬がいるというのに、まったく気にする様子もない。

犬のほうも、猫を無視していた。

船頭
「だんなさん、いきなり一人寝もさびしいでしょう。猫でも抱いて、今日は寝るといいですよ」

だんなは猫を抱き上げて膝にのせた。

だんな
「猫は好きだよ。暖かくて、やわらかくて、まるで彼女のようだ・・・・・」

猫はだんなの顔をまじまじと見上げると、だんなの両肩に前足を伸ばしてつかまった。

そして男の声でしゃべった。

忍者
「われと一緒にこい。」




だんながびっくりして猫を掘り投げようとしたが、猫はつめをだしてだんなにしがみついた。

だんな
「イタイイタイ!」

忍者
「じっとしていれば怪我はしない」

わしはびっくりして腰を抜かしてしまったわ。

効果音:変身解除

猫は白い煙と共に、黒装束の忍者の姿になった。

手に持った短剣が、だんなの首筋にあてられていた。

わしの犬は、腰を抜かしたわしの後ろに隠れて、尻尾をまいて震えていた。

船頭
「あんた、なんのためにそんなことを・・・・」

忍者
「おやかたさまの勅命だ」

男は冷酷な声で言うと、だんなを立たせた。

忍者
「一緒に来い」

だんなは恐ろしさからまともに経っていられないようだった。

船頭
「まってくれ、縁あってその人の嫁になる人も知っている。その人がどうにかなるのなら、わしは顛末をおしえてやりたい。」

だんなは震える声で忍者に聞いた。

だんな
「ボク、殺されちゃうの?」

忍者はだんなとわしを交互にみると、一瞬思案したようだったがこたえた。

忍者
「殺しはせん。よかろう、おまえも一緒に来い。

あの女がこいつを完全にあきらめられるように、どうなったかを教えてやれ。」

男は、ふらつくだんなを手早く縛り上げると、丸めたじゅうたんを担ぐように背にのせた。

忍者
「このほうが早い。おまえは歩けるな?」

わしはなんとか立ち上がると、尻尾をまいて震えている犬を抱き上げた。

忍者
「犬も連れて行く気か」

船頭
「おいていったら宿屋が迷惑だろう」

忍者
「そいつは犬としては使い物にならんな」

忍者の目が笑ったような気がした。

人目につかないような路地を選んで忍者が目指したのは、ベスパーで一番高級な宿屋だった。

その宿屋でも一番いい部屋に、忍者は入っていった。

*****************************************************


忍者
「高貴な方がおられる。そそうの無いようにせよ。」

部屋の中には、香水とは違うお香の香りが漂っていた。

忍者はだんなを丁寧に椅子に座らせると、拘束をといた。

わしも犬を床におろしたが、犬はあいかわらず尻尾を丸めたまま、わしの後ろに隠れてしまった



部屋の奥のカーテンに仕切られた向こうから、ゆったりとした女の声がした。


「だれぞ、もどったのかえ?」

忍者は床に膝と、右手のこぶしをつき、頭を下げていった。。

忍者
「おやかたさま、わたくしにございます。

おいいつけの人物、ともなってまいりました。」


「ようやった。仕切りをあけよ。顔を見たい。」

仕切りのカーテンがしずしずと開いた。

開ききる前に、カーテンをひるがえして、若く小柄な娘が飛び出してきた。


「先生!やっとお会いできたのね」


着ている服装も装飾品も、高貴な人が身につける上等なものだった。

奥には娘の母親と思われる女性が、数名の次女を従えて座しいた。

奥に座っている娘とよく似た、母親と思われる女性は、背筋をぴんと伸ばし、りんとしていた。

手には煙が一筋のぼるキセルを構えていた。



「ひかえよ!なんとはしたない!」



効果音:キセルを叩く音

母親はキセルをキセル箱にあてて音をたてた。

母親の一喝で、だんなに駆け寄って抱きつかんばかりの勢いだった娘がびくっとたちどまり、おずおずと母親を振り返った。



「娘よ、まだまだ思慮が足りないようですね。」

母親は、視線を娘からだんなにうつした。



「ゼントでは娘が世話になったようですね。思ったよりも頼りない風体の男だこと。さて先生、聞かせていただきましょうか。娘と約束をしながら、いっこうにゼントにもどらぬとは、どういう了見なのです」


忍者の目も怖ろしいと思ったが、この母親の眼光はもっと怖ろしかった。

だんなはびくっとしたものの、母親から目をそらすことなく、震える声ではっきりといった。

だんな
「ゼント滞在中は、お世話になりました。しかしお嬢さんとはなんの約束もありません。」

母親は眉間にしわをよせて、不快感をあらわした。

キセルを口にあてると、ゆっくりと吸い込み、すーっと一筋の煙をはいた。

それをみただんながまた、びくっと身体を震わせた。



忍者
「このもの、他の女と結婚しようとしておりました。

姫様にふさわしき人物とは到底思えませぬ。」

忍者が顔を伏せたまま言った。


「うそよ!」

娘が、叫んだ。

母親の目がさらにつりあがったが、娘は気がつかずにだんなに駆け寄ると抱きついた。

どうやら、母親の厳しいしつけにもかかわらず、はしたないことをしてしまう娘のようだ。


「婚約者がいるなんて、うそよね、先生。お母様がこわいから、うそをいって私から去ったのでしょう?」

娘の言葉を聞いた母親が、さらに目をつり上げたが、なにもいわずにキセルを口にあてた。

ゆっくりと上品に、観察をしているようだった。

だんな
「ボクはもうすぐ、大好きな人と結婚するんだよ。君の気持ちにはこたえられないよ。」

だんながよわよわしく、娘を遠ざけようとしたが、娘が抱きつく力のほうが強かったようでどうにもできない。

娘は興奮して涙を流しながらだんなを抱きしめた。


「もう、うそはいわなくていいのよ。わたしに優しくしてくれるのは先生しかいないの。先生はわたしのそばにいなくちゃだめなのよ。」

わしはなんとなく事情がわかってきた。

だんなは娘をふりほどけないまでも、自分は幼馴染と結婚するんだと、力ないながらも繰り返していた。

母親は、キセルをふかしながら、無表情にふたりのやり取りを見ていた。

やがてだんなが抗議するのをあきらめたのか黙ったために、娘の、だんなの言葉を無視した、うれし泣きの声だけが室内に静かに響いていた。

そのとき、忍者が言った。

忍者
「姫様、そのもの姫様に相応しいとは思えませぬ」

その声が、さっきよりも若干弱弱しく、懇願しているように聞こえたのは気のせいではなかったろう。

忍者の気持ちに娘はまったく気がついていないようだった。


「うるさい!おまえに何がわかるの!たかが、やとわれの忍者のくせに!」

効果音:犬一声吼える

わしの後ろに隠れていた犬が、一声吼えると娘にむかって突進した。

だが、たどり着く前に、だんなが精一杯腕を突っぱねて娘を引き剥がした。

だんなの背筋が、しゃんと伸びていた。

だんなに拒絶されたと感じた娘が、すがるようにだんなを見つめていた。

だんな
「ボクもやとわれの講師にすぎません。あなたには、ひとにはやさしく、上下無く接するべきだと、ボクは教えたはずです。あなたはそれを、ありがたい教えですと、受け入れたのではなかったのですか。」

大きな声ではなかったが、しっかりとした口調でだんなはいった。

それは生徒を教え諭す、教師の口調だった。

犬がだんなの顔をみあげて激しく尻尾を振った。

諭された娘は、ひるむことなく、むしろうれしそうに言った。


「先生、先生だけが、やさしくわたしを叱ってくれる。もっとわたしに教えてください。わたしの夫になってください。」


「だめよ」

しゃべったのは犬だった。

効果音:変身解除

犬は魔法の呪文をとなえると、嫁さんの姿に戻っていった。




「おやかたさま、おわかりになったでしょう?あなたの娘の狂言に、私たちは迷惑しています。」

嫁さまは娘にキっと視線を合わせた。

娘は大柄な嫁の姿に驚き、嫁さんのきついまなざしにたえかね、助けを求めるように母親に視線を送った。

しかし、母親もまた、娘をにらみつけていたのだった。

母親をだまして、横恋慕した男を手に入れようとした娘が、へなへなと床に座り込もうとしたところを支えたのは忍者だった。

忍者
「姫様、じかにお座りになるなどなりません。」

その手を払いのけようとした娘の手は、空を切って、忍者の頬に強くあたった。

効果音:ビンタの音

忍者は動じることなく、むしろかなしそうは目で、そっと娘を支えていた。

効果音:キセルを叩く音



「娘を退出させよ。」

母は冷たく侍女に命じた。

ふたりの侍女が母親の側をはなれ、忍者が支える娘を流れるような動作で受け取ると、静かに退出していった。


忍者
「おやかたさまはごぞんじだったのですか」

忍者が意外そうにたずねると、母は嫁さんをじっとみつめて淡々といった。



「そこな にょしょう が、わらわをたずねて進言したのじゃ。真実を知ってほしいとな。」

忍者があらわれたということは、ゼントでなにかがあったのだろうというのが嫁さんの推理だった。

わしは嫁さんに頼まれて、ベスパーの宿屋をあたり、ゼントからの客を洗い出したのだ。

そして、だんながゼントで滞在していたという武家の母子が宿泊していると聞き、あたりをつけてみたのだ。

娘はだんなを物陰からこっそりと見るために外出してばかりだったので、嫁さんは宿に残っている母親に事情を話した。

娘の話と違うという母親を納得させるために、嫁さんはわざと、忍者にだんなを捕まえさせたのだ。

力なくうなだれる娘が連れ出されたあと、静かになった部屋で母親がいった。



「ふさわしきしつけようとしても、ままならず、ましてや娘の言葉を鵜呑みにする親ばかであったとは、われながらふがいないことじゃ。なんともわびのしようもない。」


眼光は鋭いままだし、あたまも下げなかったが、謝罪はしているようだった。


「お嬢さんには、まだまだおやかたさまの教育が必要なようですね。」

丁寧に話しているが、嫌味をいっているのだろうなとはわかった。

おやかた様とやらもおっかないが、この嫁さんもなかなかにおっかないわ。





「そのものたちを宿まで安全に送るがよい。そなたからのわびも忘れずにな。」

忍者
「御意」


母親は立ちあがり、さらに奥の部屋に移ろうとするのを、嫁さんがひきとめた。


「まってください。わたしの夫になる人は、頼りなくなんてありません。やさしくて芯が強いんです。訂正してください。」

母親は振り返り、嫁さんとだんなの顔を交互にみると、ふっと笑った。

そして、嫁さんにむかってまっすぐに向き直り、黙って一礼すると、無言のまま侍女を従えて、さらに奥の部屋に去っていった。

なんとも優雅なお辞儀であった。

高貴な女性というのはそういうしぐさが違うのだろうなと、感心したものだ。


******************************************************************

忍者は無言のまま、わしらと宿まで歩いていった。

忍者の黒装束の頭巾姿は、道行く人をびっくりさせたようだが、本人は気にしていないようだった。

宿に着くと、忍者はやはり、かた膝と右こぶしを地につけて目を伏せると謝罪の言葉をのべた。

忍者
「命じられたこととはいえ、理不尽な襲撃であった。もうしわけない。」

おやかたさまの無言の一礼にはなにも言わなかった嫁さんが言った。


「おかしいと思った命令とか、きいちゃうから、あの子がどんどんわがままになるのよ。だいたいあなた、謝るのに顔もみせないってどういうこと?」

だんな
「かわいそうだよ。この人にだっていろいろ立場があるんだよ。」


「あなたがやさしいのはうれしいけど、これはけじめよ」

忍者
「もっともだ。失礼をした。」

忍者は立ち上がり頭巾をとった。

その顔をみて、嫁さんがふきだし笑い出し、だんなとわしはあぜんとした。

忍者はわけがわからず、むっとしている。

忍者
「われの顔はそんなにもおかしいだろうか・・・・・」

それなりに傷ついたのだろう、素顔の忍者が、気まずそうに目線を泳がせた。


「頭巾をとって、あの子を叱ればきっということを聞くわよ」

だんな
「ど、どうだろうなあ。」

髪と目の色は違うが、双子かと思うくらい、だんなと忍者の素顔はそっくりだったのだ。

船頭
「あんたは鏡をみたことがないのかね?だんなさんに顔がそっくりだ。その顔であのお嬢さんにちゃんと必要なことをいってやれば、聞き入れてくれるかもしれないよ。」

忍者の表情が少し明るくなった。


「気持ちを伝えるなら、ありのままが一番よ。

この人も昔、大柄で醜いで、いじめられていたわたしに、ありのままで笑顔でいるのが大事なんだよっていつもいってくれたわ。」

だんな
「君は醜くなんかないよ。とっても、その、かわいいよ・・・・・。」

嫁さんはこれ以上はないという笑顔で、だんなを抱きしめると熱烈な口づけをした。

今度はわしと忍者があぜんとする番だった。

強烈な抱擁から、やっと開放されただんなの手をとって、忍者が言った。


忍者
「そこもとは一見なさけないほど弱そうだが、ほんとうは立派な男だ。

おやかた様と姫様に、はっきりものを言えるなど、そうそうできることではない。」

これには嫁さんはひとことありそうだったが、ひきぎみのだんなの手をしっかりと握る忍者の姿に、なにかいうのは控えた様子だった。


*********************************************



問題が解決したのもあり、ふたりは船に乗って、ニジェルムに向かうことになった。

港へいくと、新造船と思われるトクノ船の上から、手招きをするものがいる。

船員の格好をした男は、だんなと同じ顔の忍者だった。


忍者
「この船は、おやかた様からのわびの品だ。われ・・・じゃなくて、オレが操船をするので、好きにつかうがいい。」

ふたりは複雑な顔をしていたが、忍者しょんぼりと言ったので、ありがたく好意をうけることにした。

忍者
「ふたりを無事に送れと、おやかた様に命じられている。そのあとは、暇をやるから好きに生きろといわれてしまった。」



船頭
「それは・・・・・クビをきられたのか? 忍者は廃業か?」

やはりしょんぼりと、忍者は言った。

忍者
「おやかた様から、姫様のためにも、甘やかしてしまうオレは、しばらく離れていたほうが良いといわれてしまった。姫様の教育はおやかた様がするが、オレの教育はオレ自身でどうにかしろと、いわれてしまったのだ。」


嫁さまが、また笑い出した。

「よかったわね、未来は明るいわ。」

忍者

「よかった、のだろうか。」

だんな

「ボクも、よかった、だと思うよ。」

だんなも笑い出した。

忍者も慣れない様子で、笑おうと努力した結果、とても面白い顔をしていた。

そうして3人は、ニジェルムに向かった。

わしも結婚式に参列するように誘われたのだが、おやかた様は、わしにも船を用意してくれていた。

高貴な人というのは、おわびの感覚が庶民とはまったく違うようだ。

新しい船がまたすばらしくて、操船したくてたまらなかったので、一緒にいくのは断ったのだ。

結婚式が終わったら、またベスパーに立ち寄るといっていたので、そのときは新しい船でまた観光案内をしてやろう。

もちろん、あの忍者も一緒にだ。

************************************************************************

(あとがき)

第十一話は、恋愛小説に定評がある方からの投稿作品を元に脚本化しました。

想う男を手に入れるために、良家の娘が忍者を放つ、というコンセプトですが、残念ながら娘の恋心は実りません。なぜなら男には最愛の婚約者がいるからです。この婚約者は原作には登場しないのですが、失恋の理由つけのためにも活躍させることにしました。

襲われる男役からは、「ボクなんて言ったこと生涯一回もねえっ」と、抗議が届いていましたが、スルー。監督権限で全スルー。言っていただきましたともっ。ありがとうございましたっ。
ちなみに、甘いセリフは吹き出しそうになりながら演じていただいたようです。ムリを聞いていただいて、重ねて感謝です。

原作者の方にも、嫁役として声の参加をしていただきました。芯の強い、魅力的なキャラに出来上がりました。


娘役には「上目遣いで、思いっきり甘えてください」と、お願いしました。ウィスパーボイスで上目遣いチラッとか、最強じゃないですか?(^^)

そしておやかた様。「素ですよね?」と、にやにやしながらギルメンに言われたのは・・・・・素直に喜べない。喜べないが、にやにやしていただけたのならよしとしよう・・・・・。

尚、この記事の掲載に関しては、原作者の許可を頂いております。

******************************************************

再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

******************************************************










船頭の話 第十話 「シーサーペントになった男」

船頭の話 第十話 「シーサーペントになった男」
                原作脚本:むらさきうに

******************************************************

あー
サーペンツホールドであっしが出会った男の話をしましたっけ?
シーサーペントになったやつなんですぜ。
なに。つまらん話でさぁ。

*******************************************


(酒場のにぎわい)

男「・・・なんだい爺さん。俺の顔になんかついてるかい?」

老船頭「お前さん、きれいな青い瞳じゃなぁ」

男「ああ・・ははは」「おかげで酒場の女たちにはモテモテさ」

老船頭「ほほほっ!」「まるでシーサーペントの瞳じゃな」

男「シーサーペントって・・・瞳が青いのか?」

老船頭「ああ、そうとも」「船乗りなら誰でも知ってることじゃよ」

(ハープの音)

男「爺さん、吟遊詩人かい?」

老船頭「いや、わしゃただの音楽好きの船頭じゃよ」「もっとも、吟遊詩人になれるくらい沢山

の物語に出会ってきたがの」

男「へえー」「それじゃなにかひとつ聞かせてくれよ」

老船頭「一杯おごってくれたらの」

男「ちゃっかりしてやがるぜ」

(酒を注ぐ音)

老船頭「そうじゃの・・・」「では、青い瞳にまつわる古い話をしてやろう」

(ハープの音)

(波の音)

青い瞳のセニック少年は、ブリティンの近郊の海辺に住んでおった。

家族は漁師の父親にお針子の母親、そして、幼いのにとても美しいと評判の妹、キャロン。

キャロンはやさしい兄セニックが大好きじゃった。
大好きといっても、大人が考えるような恋愛的なものではなく、子供の純粋な友情のようなものじゃて。

キャロンは海が好きで、いつも浜辺で遊んでおった。
健康的に焼けた小麦色の肌が、キャロンの美しさを引き立てておった。

セニックはというと、漁師の父親の仕事を手伝わされておって、あまり海が好きではなかったようじゃ。
自分の生れついた家の貧しさも、セニックには不満のようじゃった。

キャロンは大きくなったらさぞ美しい娘になるだろうと噂されておってな。
気の早い貴族たちが自分の息子と結婚させようと贈り物を持って家に押しかけるほどじゃった。

貧しかった両親は、なんとなくその贈り物を受け取っているうちに断り切れなくなり、とうとうある貴族の息子と婚約させられてしまったんじゃ。
キャロンはまだ11才だったそうじゃ。
相手がまた・・・底意地の悪いいじめっ子で有名なドラ息子じゃったんじや・・・

嫌がって泣き崩れる妹を見て、セニックは決意した。

妹を連れて逃げることにしたのじゃ。

ふたつの月が輝く夜、兄妹は窓から家を抜け出し、海辺に沿って走り続けた。
しかし、そこは子供の浅はかさで、どこへ逃げるかも決めておらんかった。
それでも、探しに来た大人たちから姿を隠し、浜辺で貝や海藻を拾って食べながら、10日近く逃げ回ったそうな。

(静かな波の音)

キャロン「お兄ちゃん、ごめんね。」「あたしのためにこんなことになって・・・」

長い逃亡劇のせいで、衣服も顔も汚れてしまったが、それでもキャロンは美しかった。
セニックはそんな妹を愛おしく思っておった。

セニック「お前が悪いんじゃないよ。父さんと母さんがいけないんだ。」

セニックは顔を曇らせてつぶやいた。

セニック「貧乏に負けてお前を貴族に売り渡そうとするなんて、親のすることじゃないよ!」

キャロン「そんなこと・・・ないと思うな」「父さんも母さんも、家族みんなが幸せになること

を考えたんだと思う・・・」

自分の境遇を悲しんでも、人を恨むことを知らないキャロンじゃった・・・

キャロン「もし、みんなが幸せになれるのなら・・・あたしは・・・」

そう言ってキャロンは物憂げに月を見上げた

キャロン「・・・あ!」

(神秘的な音)

セニックも思わず月を見上げた。

二つの月が、今まさに重なってひとつになろうとしておった。

神秘的な光景に圧倒されて、ふたりはただ茫然と月を見つめた。

一つになった月は、モンスターの充血した眼玉のように赤みを帯びていた

(草をかき分ける音)(足音)

ふと、セニックは気配を感じて我に返った。


村人「おーい!キャローン!セニックー!」

村人「出ておいで―!!」

セニック「キャロン!行こう!」

(走る音)

セニックはキャロンの手を引いて、ひとつに重なった月のうすら赤い光に照らされながら、海辺を走り続けた。
じゃが・・・

セニック「しまった!」

ふたりは最果ての岬に追い詰められてしまったんじゃ。
岬の崖は高く、下にはごつごとした岩礁が白波を立てておった。

左右の海岸線に沿って、松明の明かりがだんだん近づいてくるのが見えた。

キャロン「お兄ちゃん。もういいよ。」「迷子になったふりをして出ていこうよ」

セニック「あきらめちゃダメだっ!」「お前を貴族のところへなんかやるもんかっ!」

キャロン「でも・・・このままじゃ、お兄ちゃんが・・・」

(迫ってくる足音)

その時じゃった

海の女神「キャロン・・・美しき人間の子」

ふたりが振り向くと、一つになった月を背負うように、細身の美しい女性が立っていた。
・・・いや、立っていたのではなく、その女性は宙に浮かんでいたんじゃ
緑色の長い髪をしたその女性は、きらきらと輝く水色のドレスを纏っていた
とても美しいが、どこか恐ろしげな威厳に満ちあふれておった・・・・

伝説の、海の女神じゃよ。

セニック「お前は・・・誰だ!!」

海の女神は、セニックの問いかけに答えず、目を細めてキャロンをじっと見つめておった。
口元は微かに微笑んでいるように見えた。

海の女神「お前が海を愛したように、海もお前を愛している・・・」

キャロンの表情から恐怖が消え、夕凪の海のようにおだやかになった。

海の女神「さあ・・・おいで」

女神がそういうと、キャロンは静かに目を閉じて、何かに取り憑かれたように、ふらふらと女神の方に歩き出した。

セニック「だめだ!キャロン!」

キャロンの腕を掴もうとしたセニックの手は空を切った。
キャロンの体は淡い光に包まれ、引き寄せられるように宙に浮かぶ女神の元へ向かった。
キャロンもまた、宙を歩いておった。
女神がキャロンの手を取ると、キャロンの体はまぶしい光を放ち、光は形を変えていったんじゃ。

(イルカの声)

セニック「キャロン!!」

なんと、キャロンは白いイルカの姿になった。
イルカは一鳴きすると、女神の元から勢いよく海に飛び込んでいったんじゃ。

(海に飛び込む音)

女神はイルカになったキャロンを見送ると、またうっすらと微笑みを浮かべて、霞のように消えていった。
セニックは、あまりのことになにも出来ずに立ちすくんでおった・・・

・・・・それからのセニックの境遇は悲惨じゃった。

妹を連れ去ったことを大人たちに咎められ、挙句の果てには殺したのではないかと疑われた。
事の次第を説明しても、嘘つきとののしられ、村人からも嫌われるようになった。
婚約がご破算になったことを貴族に責められた父親は酒に溺れ、母親は心労のあまり病に倒れた。

そして・・・・

(戦乱の音)

(悲鳴)

(火災の音)

暗黒の魔女が起こしたブリティン侵攻の戦乱に巻き込まれて、家は焼け落ち、両親も、貴族も、村人もみな死んでしまったのじゃ・・・

(波の音)

セニック「キャロン・・・・」

セニックはひとりぼっちになった。
唯一の肉親は、白いイルカになったキャロンだけじゃった。

セニックはブリタニアの港町を渡り歩いた。
そして、船員や荷役の仕事をしながら、海の女神に会う方法を聞いて回ったんじゃ。

じゃが、その方法を知るものなどおらんかった・・・。
時にはバカにされ、時には騙されて金品を巻き上げられた。

セニック「なぜ・・・、なぜ俺だけがこんな目に遭わなければならないんだ・・・」

セニックの心は大人たちへの不信感であふれだした。
セニックは働くのをやめ、盗みを働くようになった。
稚拙じゃが、大人への反逆だったのかもしれんのう・・・

・・・数年が過ぎた。
セニックは青年になった。
そして、お尋ね者にもなっておった。
あちこちで盗みを働き、人を危めた結果じゃった。


(酒場の喧騒)

男「ふーん。」

老船頭「なにがふーんじゃ!」

男「まあ、よくあるおとぎ話だよな」

老船頭「おとぎ話じゃないぞ」「わしは、そのセニックとやらに遭ったことがあるんじゃ」

男「ホントか?!」

老船頭「サーペンツホールドでな」「わしを後ろからこん棒で殴って、財布を奪って行きおった・・・」

男「そりゃ、ひどい目に遭ったの間違いだろ・・・」

老船頭「逃げながらあやつが振り向いた時、わしゃ確かにあの青い瞳を見たんじゃ」「いや・・・見たような気がする」

男「おいおい・・・」


(街の賑わい)

セニックは、他の無法者と同じく、バッカニアーズ・デンに流れ着いていた。
無法者が集まる街には、賞金稼ぎもやってくる。
ここもセニックにとって安住の地ではなかった。
夜の闇にまぎれ、すり切れたアンブラローブのフードを深々とかぶり、目立たぬように桟橋の隅の木箱の間に身を隠した。

(波の音)

セニックは海を見つめた。
今やキャロンとの再会だけが、セニックの唯一の希望じゃった。
妹の笑いさざめく声と、幸せそうな笑顔が思い浮かぶ瞬間だけが、セニックの幸福な時間じゃった。

ふと、人の気配を感じ、セニックは隠し持ったダガーに手をかけた。

謎の老人「・・・おぬし、海の女神に会いたいのか」

灰色のローブを着た老人がセニックの前に立っておった。

セニック「なに?!知ってるのか!?」

謎の老人「会ってどうする?」

セニック「妹を返してもらう!」

謎の老人「無駄なことだ」

セニック「無駄だとっ!?」「俺は・・・」

謎の老人「お前の妹は自ら望んで海に還ったのだ」「海の女神は、それを助けたに過ぎぬ」

セニック「お前・・・何者だ!」

謎の老人「命はみな、海で生まれて海に還る」

老人はそういうと、桟橋の先に向かって歩き始めた。

セニック「まっ、待て!!」

セニックは老人を捕まえようと転がるように木箱の間から飛び出した。
老人はどんどん桟橋の先へと歩いて行く。
その先は、海じゃった。

老人はそのまま歩き続けた。
そう、老人は海の上を歩いておったんじゃ。
10メートルほど海の上を歩いた老人は、呆然として見つめるセニックの方へ向き直った。

謎の老人「明日の夜、あの夜と同じく月が一つになる」「あの岬に行ってみるがよい」

老人はそういうと、ゆっくりと海の中に沈んでいった。

セニックは走った。
明日の夜までに、あの岬にたどり着かねばならん。
魔法も使えず、ムーンゲートを通ることも出来ない犯罪者のセニックにとって、ブリティン近郊のあの岬はあまりにも遠すぎる。
セニックは港で小舟を奪った。
そこでまた、何人かの人を危めてしまったが、気にしている暇はなかった。
一晩中オールをこぎ続けてセニックはやっとの思いで大陸へと渡った。
そして、ひたすら走った。
女神が現れたあの岬。
キャロンが白いイルカになったあの岬へ・・・

セニックが岬にたどり着いたのは、夕暮れ時じゃった。

セニック「月は・・・」

薄暗くなり始めた空に、少しずつ近づくふたつの月が浮かんでおった。
セニックはじっと月を見つめ続けた。

どのくらいの時間が流れたのじゃろう。
ふたつの月はついにひとつに重なり合った。

薄赤く染まった月の光の中に、ぼんやりと霞がかかったかと思うと、やがて人の形が現れてきた。

セニック「海の・・・女神」

女神はセニックに目をやった。
じゃが、その目はキャロンを見た時のやさしげな目ではなかった。

海の女神「醜き人間。汚れた魂のけもの・・・」

セニック「妹を・・・妹を返せ!!」

海の女神「あの子は海に還ることを望んだ」「だから迎え入れた」

セニック「そんなはずはない!」

海の女神「わからぬのか」「あの子はお前に迷惑をかけまいと海に還る道を選んだのだ」

セニック「でたらめを言うな!」「それで俺がどんな目に遭ったか・・・」「妹を返せ!」「返せーっ!!」

セニックはわめき散らしてダガーを振り回した。

海の女神「愚かなけものよ・・・」「あの子を追い詰めたのは己自身だというのがわからんのか・・・」

女神は眉をひそめて目線をそらしたが、なにかに気づいたらしく、また、セニックを見つめ始めた。

海の女神「けものの魂に・・・・一筋の光が見える」

セニック「なっ・・なに?」

女神は目を細めた。

海の女神「妹を愛する兄の心の、やさしさの光・・・」

女神は、そっとセニックを指さした。

海の女神「機会を与えようぞ」「お前も海に還るがよい」「そして自分で探すがよかろう」

セニック「俺を・・・イルカにするのか?」

海の女神「お前の心は醜い」「その汚れた魂では美しき姿で海には還れぬ」

セニック「・・・それでも」「キャロンを探せるのなら・・・」

女神は一瞬の笑みを浮かべると、セニックを招き寄せた。
セニックの体は淡い光に包まれ、女神の元へと歩み寄った。
女神はセニックに触れた。
その瞬間・・・

セニック「うわぁぁぁ1!」

セニックの体は黒ずみ、何度も歪んで変形していった。
やがて醜いシルエットを浮かび上がらせ、吠えた。

ぐぉぉぉー(シーサーペントの吠え声)

海の女神「なんと醜いけものであろう・・・」

セニックはシーサーペントに姿を変えた。
そして、女神の元から海へと落下していった。

(重量物が海に落下した音)

シーサーペントはしばらくあたりを狂ったように泳ぎ回っていたが、やがて沖の方へと去って行った。

女神は空しげにうつむくと、霞が散るように次第に姿を消していった・・・


(シーサーペントの吠え声)

シーサーペントになったセニックは、喜んでおった。

醜い姿でも構わない。
自由に海を泳ぎ回れる。
これでキャロンを探すことができる。

じゃが、広い海原で二人が出会うのは奇跡に近かった。
セニックはそれでも必死で白いイルカの姿を求めて彷徨った。

どすっ(矢の刺さる音)

セニックは背中に痛みを感じた。
水上に目をやると、そこには一艘の船が浮かんでいた。
船の上にはふたりの男が立ち、弓を構えてこちらを狙っていた。

ぐぉぉぉー(シーサーペントの吠え声)

セニックの怒りの炎は燃え上がった。
矢を射られたことへの怒りではなく、妹を探すのを邪魔された怒りじゃった。
人間はいつも彼の邪魔をする。彼の言うことに耳を貸さず、彼を疑い、彼を騙し、彼をバカにした。
人間は彼の敵以外の何者でもなかった。

(シーサーペントの吠え声)
(船の破壊音)
(悲鳴)

セニックは、身も心もモンスターになってしまった。
セニックは行く先々で船に襲い掛かり、殺りくを繰り返した・・・

(神秘的な音)

桟橋でセニックが出会った老人と海の女神は、空の上からその惨劇を見つめておった。

謎の老人「・・・やはりこのようなことになりもうした」

海の女神「一筋の光の輝きに希望を託したが・・・やはりけものであったか」

謎の老人「このまま闇の底に落ち込めば、あやつは妹までも食い殺すでしょうな」

海の女神「あの子は肉体も魂も清らか」「だから美しい姿で海に還ることができたのだ」

謎の老人「御意」

海の女神「その兄は、あらゆる怨念と確執を腹に溜め込んで魂を腐敗させた」「生きていれば楽

しいこともあったはずなのに・・・」

謎の老人「生きるものにとって最大の不幸は、自分を不幸だと決めつけることに他なりませぬ」


(イルカの鳴き声)

・・・それからまもなく、ニュジェルムパレスの池に、白く美しいイルカが現れた。
愛を成就させる不思議な力を持つイルカじゃった。
言うまでもなく、セニックの妹キャロンじゃ。

一方、シーサーペントになったセニックは、女神の力で引き離されたとも知らず、いまでも妹キャロンを探して海を彷徨っているそうな・・・・


(酒場の喧騒)

老船頭「・・・どうじゃ」「悲しい物語じゃろ?」

男「ぐー・・・」

老船頭「なんじゃい!寝とるんかい!!」「・・・それじゃ、残りの酒はもらって行くぞ」「うへへへへ」


(ドアの開閉音)

(波の音)

(足音)

遠くから(シーサーペントの鳴き声)

老船頭「・・・お?」

******************************************

(あとがき)

船頭の話第二シーズンは、投稿作品を提供していただくことになり、その1作目となります。

作者はUO漫画界でもっとも有名といえるあの方。切なくも無情な物語となっています。

今回は、子供役の女性の声を思いっきり加工し、幼女の声として表現しています。この声には萌えファンが多くついたという噂も・・・・・・もちろん一回限りではもったいないので、後日この幼女声は復活するのですが。

尚、この記事の掲載に関しては、作者の許可を頂いております。

******************************************************

再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

******************************************************

小説版 「船員は良い酒を好む」

*****************************
「船員は良い酒を好む」 作:ジニー
*****************************

「今日はもう店じまいだよ、でてってくんな」
まだ1杯しかのんでいないというのに、酒場の親父が男を追い出しにかかったのはまだ宵の口だった。
「なんだよ、さっき座ったばっかりだぞ。まだ椅子も温まっちゃいないじゃないか」
「悪いねお客さん、外がちょっと物騒になってきたようなんでね。お客さんも早く船にもどったほうがいいよ」
確かに日が暮れているというのに、店の外をなんども軍馬が通ったり、鎧と剣が触れ合うがちゃがちゃという音が気になっていたりはしていた。
「今夜は大きな戦いが起こるかもしれない。こわくって店なんか開けていられないよ。頼むから帰っておくれ」
「ラヴァ戦か・・・・・・仕方ないな。引き上げるとしよう」
「戦争が落ち着いたら、ゆっくりきておくれな」
男が酒代をテーブルにおいて店をでると、店主はそそくさと看板を下ろして明かりを落とした。
初夏の暖かい夜で、霧のような雨が街を覆っていた。ぼんやりとした街路灯の明かりが、ラヴァの戦場に向かって走る軍馬に乗った戦士の一団を照らしていた。
「やれやれ、物騒なときにきちまったな」

男がサーペンツーホールドの港に着いたのはその日の午後だった。
積んできた荷物を降ろす作業で、他の船員は船に残っていた。
男は、食料やらの必要物資の手配のために、一人上陸したのだが、仕事を終えてさあ酒場で楽しもうと思ったところで早々に追い出されてしまったのだ。
「まだ飲み足りないな。船には大して酒は残っていなかったから、もう全部飲まれちまっただろうなあ」
男がサーペンツホールドにくるのは初めてではなかった。
確か城壁の外にも、小さな酒場や宿屋があったのを思い出し、そちらの方向へ向かってみた。
軍馬の一団は、さっきのが最後だったのか、もうすれ違うこともなかった。もう戦闘が始まっているのかもしれないが、男にはどうでもいいことだった。
記憶にあった酒場も宿屋も、明かりが消えてしんとしていた。
中の明かりは外にもれないように、そして余計な音を立てないように気を使っているのだろう。戦争という嵐は、隠れてやり過ごすのが一番なのだ。
霧のような雨は、男を不快にさせるどころか、むしろなにかに包まれているような、ほっとしたような感覚にさせていた。
思い当たる場所をしばらく歩いて、あきらめようかと思った頃、集落の一番はずれに明かりがついている窓をみつけた。
看板らしき板が入り口にかかっているので、宿屋か酒場だろうと、男は近寄っていった。
以前に来た覚えは無いが、窓から中をのぞくと、酒場のようなつくりだった。
背の低い娘がひとり、後姿で立っているのがみえた。客はひとりもいないようだった。
あるいはここも、すでに客を追い出して閉めるところなのだろうかと男は思ったが、ためしに声をかけてみようと入り口に手を伸ばした。
ドアは内側から開けられた。
「おかえりなさい、遅かったのね」
窓越しにみた背の低い娘がドアを開けたのだった。
娘は目の前に男が立っているのを見て、うれしそうに見上げて顔を見て、そしてがっかりしたようだった。
「待ち人じゃなくて悪いな」
男がいうと、
「ううん、いいの」
と、微笑んだ。
年のころは17,8というところだろうか。
女というよりは、まだまだ少女らしい愛らしい娘だ。
「ここは酒場かい?」
「ううん、酒場はだいぶまえにやめてしまったの。でも人を待っているので、明かりはともしているのよ」
男が店内をみまわすと、今にも営業できそうなくらいこぎれいにされていたし、カウンターのむこうには酒瓶も並んでいた。
「せっかくきたんだから、飲ませてもらえないかね」
娘は一瞬きょとんとして、それからくすくすと笑った。
「お酒がすきなのね。いいわ、ひとりで待っているのも暇だし、話相手をしてくれるなら飲ませてあげるわ」
つまみは何もないけれど、といってついでくれた酒は、すっきりとした飲み口で、なかなかいいものらしかった。
「この酒はうまいな」
娘はにっこりと笑った。
「お父さんはお酒の銘柄にはこだわっていたから。わたしはお酒は飲めないけれど、きっと美味しいわよ」
「おやじさんがいるのかい。今日はでてこないのかい?」
「お父さんは、でかけているの。もう何日も帰ってこないの」
娘はくったくなく笑顔で言うのだが、男は不安を感じた。
この街では、たまに戦争にまきこまれたり、または戦士に面白がってもてあそばれたあげくに、殺される市民がいたという噂も先の酒場で聞いたのだ。
こんな若い娘をひとり残して、何日も戻らないというのが不吉なことがあったのではないかと男は思った。
「何日もひとりで待っているのはあぶなかろう。身を寄せられる親戚は近くにいないのか」
娘はむっとした顔をした。
「子供あつかいしないで。私は一人前よ」
男は素直な娘に可笑しくなった。ぷっとほほを膨らませて不満げにしている娘は、子供にしか見えなかったからだ。
「そうか、あんたは一人前の女だって言いたいんだな」
「そうよ、ちゃんと恋人もいるんですからね」
かわいい娘だと男は思った。あくまでもかわいいのであって、男にとってはまだまだ子供であったのだが。
「あんたの恋人というのはどんな男なんだ」
娘はうれしそうに話し始めた。
「彼はね、腕のいい漁師なの。お父さんの酒場に魚をおろしていたのよ。それでね、この街は物騒になったから、よその島にいこうって、私とお父さんを連れていってくれるって約束してくれたの。お父さんと彼は、私たちを乗せてくれる船を捜しにいったのよ。こんなご時勢だから、乗せてくれる船がなかなか見つからないのかもしれないわ」
変な話だな、と男は思った。
こんなご時勢だからこそ、島を脱出する客を断る船は少ない。いくらでも高値を請求できるから、そういった客は美味しいのだ。
船に客を乗せる余裕が無い限りは受け入れるはずだ。
ましてやこの島は、生産物がほとんどないので、帰りの荷はほとんどない。
ぼったくれる客を断る船はまずないはずだ。客がよほどの貧乏人であっても、いくばくかの乗船料と船での労働を条件に運んでやったほうが、あがりになる。
「お父さんたち、早く帰ってこないかなあ」
娘は父親と恋人の帰宅を信じて疑わないようだったが、男は彼らはもう戻ってこないのではないかと思った。

酒瓶を5,6本空けると、男も酒に満足してきた。いつもならひとりで3本も飲めばいいくらいなのだが、いい酒というのはいくらでも飲めるらしい。
男の航海での与太話を、面白そうに娘は聞いていた。いい気持ちになって辞するときに、男が娘を抱きしめようとすると、娘はするりとよけて笑った。
「いやよ、おじさんたらものすごくお酒臭いんだもの」
「そうか、俺はおじさんか」
男は笑い、まだ小雨が降っている外へ出た。
「おじさん、港にお父さんか彼みたいな人がいたら、一度戻るように伝えてね」
「ああ、わかったよ」
男は軽く手を振って、娘の酒場をあとにしたものの、娘の父親も恋人も、もう生きてはいないだろうと思っていた。
なんといっても、小一時間歩けば港には着くのだ。
たとえ乗せてくれる船が見つからないとしても、何日も帰らないはずがない。
「気の毒にな」
まだ消えない窓の明かりを振り返って男はつぶやいた。
しかし、そんな不幸な娘はどこにでもいる。男にはどうしてやることもできなかったし、どうにかしてやる気もなかった。

船に戻ると、案の定酒は飲みつくされていた。船に残された船員たちには到底足りない量だったので、いつもの倍は飲んだという男は仲間にうらやましがられた。
男は、翌日の夜には仲間を案内するからといって落ち着かせたのだった。
「飲みすぎで二日酔いになりやがれ」
船員は嫌味がましく責めたのだが、翌日男はすっきりとした気分で目がさめた。上等の酒は悪酔いも二日酔いもしないのだろと、男はとても得をした気分だった。
翌朝、前日に男が手配した物資が運び込まれると、数日滞在の予定を変えて、船長は早々に出航をきめた。
戦争の様子がかなり危険だと判断したからだった。
出港準備であわただしくしながらも、男は港に娘の父親や恋人らしい男を探してはみたのだが、やはりみつからなかった。

男の船は次の寄港地に到着した。
潮の良い航海のあとだったので、船員はみんなで機嫌よく酒場に繰り出した。
「そういえば、サーペンツホールドでは約束を反故にされたな」
ひとりの船員が男にいった。
「仕方ないだろう、船長が出航をきめちまったんだから。次に寄ったら連れて行ってやるよ。もっともそのときにその娘がいるとは限らないがな」
男は娘が島をでるつもりで父親と恋人を待っているのだと話した。
「でもお前の考えだと、父親と恋人はもう死んでいるんだろう。だったらいつまでもその娘は待っているんじゃないのか」
「そうかもしれないな、でもだったらなおさら、俺はあの娘には会いたくないなあ」
「お前がいかなくても俺はいってみたいな。場所はどこになるんだい」
仕方なく男が娘の酒場の場所への道順を説明していると、グラスと酒瓶が床におちて割れる音が響いた。
男たちの後ろのテーブルのかたづけをしていた給仕ががたがたと震えながらひさまずいていた。
「どうしたんだ、なにかの発作か」
男たちが給仕を支えて椅子に座らせた。
中年の給仕の左腕は、肘のしたで切断されていて、義手がついていた。
給仕は義手で、男をさすと、青ざめた顔をむけた。
「その娘、自分の名は名乗ったか」
「いや、名は聞かなかったな」
給仕は、娘のなりを詳しく話せと、つかみかかった。
「落ち着けよ、あんたあの娘を知っているのか」
娘の背が低かったことや、髪の色、目の色、覚えている限りを男が話すと、給仕はがっくりと椅子に倒れこむように腰をかけた。
給仕はぶつぶつと、同じ言葉を繰り返していた。
「死んだはずだ。死んだはずだ。死んだはずだ・・・・」
「なにを言っているんだ」
男が給仕の両肩に手をかけると、給仕は男に顔をむけた。その目はかっと見開かれていた。
「その娘は俺の目の前で死んだはずだ」
男はもしや、と思いついた。
この給仕は、娘を残してあの島から抜け出した父親なのではないかと思ったのだ。
だが、給仕はさらにつぶやいたのだ。
「あれから30年経っているというのに、あの娘はまだ、自分が死んだことに気がついていないのだな」
急に給仕が笑い出した。狂気にみちた笑い声だった。
酒場の客が全員、なにごとかと集まってきた。
酒場のおやじが慌てて、給仕を裏に連れて行ってしまった。
「なんだったんだ」
「わからん、あいつは頭がおかしいんじゃないのか」
客たちはそれぞれに元のテーブルに戻って、また飲み始めた。

酒場の親父が戻ってきて、給仕が粗相したあとをかたずけはじめたので、男は声をかけた。
「おやじ、あいつはどうしちまったんだ」
「ああ、お客さん、気分を壊してしまってすみませんでした」
「いや、いいよ、あいつのことを教えてくれないか」
男も他の船員も、おやじを責めないどころか興味深々だったので、おやじも気をよくしたようだった。
「いえね、あの男は、サーペンツホールドの出身なんですよ。30年ほど前にでてきたって話なんですけどね。なんでも、恋人とその父親と一緒に、こっちへ渡ってくるはずだったそうで。あんたたちは若いから知らないでしょうけど、30年前のあそこの戦争もひどいもんだったんですよ。なにしろ街のなかだろうが港だろうがお構いなしに荒れてましてね、船を港の桟橋につけられないほどだったそうですよ。
あいつは連れと一緒に小船を出して、沖に泊めた船に向かったそうなんですが、途中で恋人が揺れた小船から海に落ちましてね。海蛇に飲まれちまったそうなんですよ。娘の父親は、娘を助けようと海に飛び込んでやはり海蛇に食われてしまったそうで。
あいつは海蛇に半分食われた娘に、左腕にしがみつかれたそうでね。そりゃね、引っ張ったって、娘は半分食われちまってたんだから、助けることはできないどころか、やつ自身も一緒に飲み込まれちまったろうってのは、わかりますよ。
あの男は恋人を見捨てたわけなんですよ。このままじゃ自分も引きずり込まれちまうってね、自分で腕を叩き切って逃げてきたそうですよ。
ひどい痛みに耐えながらも、あいつは目当ての船にたどり着き、こっちに渡ってきたんですよ」

「それが30年も前の話だって言うのか」
男はおやじに言った。
「俺が会った娘は、17、8の若い娘だったぞ。話もしたし、酒も飲ませてもらった」
船員のひとりがむっとして親父にいった。
「いくらなんでもひどい作り話だ。気がそがれたわ」
他の船員も言った。
「そうだな、おおよそあいつに捨てられた娘が、よく似た娘を産んだんじゃないのか」
客の機嫌が悪くなってきたと見て、親父が慌ててとりなそうとした。
「まあまあ、あの男はちっと頭がおかしいのかもしれませんね。もとは漁師だって聞きましたけど、船に乗るともどすようになっちまってね。それでおいらの店で給仕をしてるってわけなんですよ。きっと心のどっかが壊れてるんですよ。なにしろいつも夢の中にその恋人があらわれて、早く帰ってきてと訴えるとおびえるんですからね。」
騒ぎのお詫びにと、酒代をだいぶんまけてもらって男たちは酒場を後にした。

船に戻ってしまえば、一度会っただけの娘や給仕のことなどはどうでもよくなるもので、男もそんなことはすっかり忘れて日々を過ごしていた。
思い出したのは10年も経って、やっと戦争が落ち着いたサーペントホールドに立ち寄ったときだった。
真冬だったので、話を覚えていたほかの船員はいたものの、わざわざ遠い場所までは行きたがらなかった。
男は、娘がもういなくなっているか、もしまだ居るのなら所帯を持って子供の何人かも生んでいることだろうと、どちらにせよ軽い好奇心で娘の酒場に向かった。
寒い夜だったが、雪が降るほどではなかった。ほろ酔いの気分で、頬に当たる冷気を楽しみながら男は歩いた。
道のりは覚えていたので、目当ての窓の明かりはすぐにみつかった。
10年前と変わらないように見える窓の向こうに、後姿の女が立っているのが見えた。
背格好は、あの娘のように思えた。
男はドアを開けようと、入り口に回った。
ドアは中から開けられ、女が顔を出して言った。
「おかえりなさい、遅かったのね」
男は全身が、魔法にかけられたかのように動けなくなるのを感じた。
娘は10年前と同じ、17,8の幼い姿だったのだ。その顔も着ている服も、そして何よりも涼やかな声が、10年前の記憶とまったく同じだったのだ。
男はからからに乾いた喉に、なんとか生唾を飲み込むと「すまんが家をまちがったようだ」と言うと逃げるように背をむけた。
そして振り返ることなど怖くてできないままに、船に戻って震えながら、寝付けないままに朝を迎えたのだ。

朝になり、ひどい顔色の男をみて船員たちがびっくりして聞いた。
「どうしたっていうんだ。まるで生気を抜かれたようじゃないか」
男は昨夜の出来事と、10年前のあの給仕の話をした。
船員の中にはそのとき一緒に飲んでいたものもいたので、これからその娘の酒場にいってみようということになった。

男は寝不足で、おまけに昨夜の寒さのせいかあちこち痛む身体で、仲間を案内した。
娘の酒場、いやたぶん酒場だった場所は、もはや家とはいえない廃屋が残っているだけだった。
何本かの柱と傾いた屋根、半分崩れ落ちた壁、かつてここには建築物があったのだとわかるだけの囲いのなかに、テーブルと椅子らしきものがあった。
テーブルの上には、かけたグラスが置いてあり、たまった雨水が凍って、朝の光に輝いていた。
男たちは唖然とし、しばらくお互いに顔を見合わせたあとに笑い出した。
「おまえ、雨水を酒だと思って飲んだのかよ」
「どうやらそうらしい、どうりで二日酔いにもならないはずだ」
「次の日に腹を壊さなかったか」
「特にそんなことはなかったな」

船員たちは笑いながら船に戻り、雨水を酒といつわって幽霊娘に飲まされた間抜けな男を、しばらくは酒場の与太話として楽しんだ。

                                                    (了)


*************************************
(あとがき)

こちらは脚本版のあとに、こうだったほうが良かった、と思いながら書いてみたものです。
読んでいただきありがとうございます。
暇つぶしになったでしょうか?

ラジオドラマの脚本は、時間に追われることがあったり、放送時間が何分くらいになるかとか、声優は何人確保できるとかで作っていくので、とにかく登場人物の制限がっ、きっつっ、という事情があるんです。

そのストレスをこのような形で発散するんですね。

全部ではありませんが、こういった形で別バージョンもお楽しみいただければと(え?楽しくない? あっ、石投げないでっw)思います。

つか、趣味、ただの趣味だから。またジニーがなんかやってるよ・・・・・と、生暖かく見守っていただけるとありがたいです。

皆様の忍耐に感謝します^^ノ

*********************************************************

プロフィール

慈仁[Ginney&ginney]

Author:慈仁[Ginney&ginney]
FC2ブログへようこそ!

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

FC2カウンター
最新コメント
リンク
最新トラックバック
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
検索フォーム