2015.8.26 サイコロ宝くじ

ゼントの六の市にて、ひさしぶりにサイコロ宝くじを開催しました。

今回は、婚姻の記念として、天ぷら粉大放出&ルニックほぼ全種ご用意でした。


参加されたのはいつもの(w)方々でしたが、楽しんでいただけたのなら幸いです。


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今回は、夫・ヴァルが手伝ってくれたので、楽でした。ありがとう、だんな様^^


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2015.8.25 トリンシック受難(PECイベント)

2015.8.25 22時

トラメルトリンシックにおいて、トリンシック首長とムーングロウ首長の主導による、PECイベントが行われました。

☆。.:*:・'゜★。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜★。.:*:・'゜
Val「トリンシック首長宛てに、ムーングロウ首長より緊急の親書がきました。」

・親愛なるトリンシック首長殿。
・ムーングロウ首長のneneです。
・我がムーングロウの魔道師組合より、不穏な魔力の流れを感知したと
・先程報告がありました。
・その流れの先はトリンシックの東門付近になっており、
・トリンシックにおいては、十分な注意を行っておくべきとの事でした。
・Sheera首長の権限で、騎士団若しくは冒険者の方々の助力を得て
・防衛ラインを敷いておいた方がよさそうな気配です。
・何かありましたら、またご連絡致します。
・ムーングロウ首長 nene

Sheera「ありがたい事ですね。nene首長は。」
Sheera「騎士団長、この事を皆に告知願います」
Sheera「トリンシック東門付近に不穏な動きあり」
Sheera「十分な武装及び防衛ラインを敷き、トリンシックを守って下さい!」
Sheera「よろしくお願い致します。」

☆。.:*:・'゜★。.:*:・'゜☆。.:*:・'゜★。.:*:・'゜
(トリンシック首長シェーラ様、転載させていただきました)

夫が役職があり当然参加とういことなので、必然的にわたしも参加。


開始前↓

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侵攻してきたモンスは、特別に強いということはなく、ほぼ、出現と同時に退治されていました。

戦闘中のSSありません。

侵攻終了後↓

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終了後にPECのなにわさんが現れてしばし歓談。

今回PECイベントのテスト運用的な感じで、プレイヤーの戦力とモンスの戦力のバランスを知るいい機会だったとのことです。

どんどんPECを利用してください、イベント依頼してください! と、営業してました。



結婚しました




8月18日、わたくしことジニーは、ヴァル・グレイスと婚姻の誓いを結び、ジニー・グレイスと改名いたしました。

一部の友人のみなさまにはすでに報告をさせていただいております。


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なれそめやプロポーズ、誓いの言葉とキスは、割愛させていただいてですね・・・・・・。

IGAのギルマスになったときに、青ネームがPKギルドのギルマスとかなんなの、という声もありましたが、それはギルドの内部事情なので気にしていません。

今回は、PKギルドのギルマスが結婚とかなんなの、とう声がおこっても当然だと思いますが、それに関しては個人の事情です。

夫・ヴァルが ギルドIGAに入隊する予定も意思もありませんし、お互いに望んでいません。

また、IGAメンからヴァルが特別な扱いを受けることもありません。

わたしはギルマスを続けますし、活動がかなり縮小されているとはいえ、IGAの活動の根源は変わっていません。



ちなみに、夫を尻に敷く妻、とういう定評がすでにできあがっているようですが、夫の名誉のためにあえて言います。

ヴァルは黙って尻に敷かれているような夫じゃありませんから(^^) むしろ・・・・・いえ、あとは夫婦の問題ですので、ひ・み・つ・♪

お祝いの言葉を下さった皆様、ありがとうございます。

この婚姻が末永く幸せに続くことを、私自身がもっとも望んでいます。

見守っていただければ幸いです。

無限ラジオドラマ脚本集

2014年10月頃から放送を開始した、無限ラジオ(メインMC:ねねさん、サブMC:コエモンさん)で展開しているラジオドラマの脚本集です。

つたない脚本ですが、音響効果担当のコエモンさんの尽力により、その後コンスタンスに新作を発表し続けています。

素材は、UOで船を操っているとときたまNPCの船頭がつぶやく言葉です。

数行の言葉から、妄想を膨らませていくわけですが、第1シーズンとなる9作は、月に3本を3ヶ月でたたき出したという無謀工程でしたw

いやほんと、よくやったものです。

声優も最初は4人。

そのあと抜けたり、新期参加いただける方をねねちゃんが勧誘しまくったりと、裏のわたわたもありまして、たくさんの皆様のご協力、ご尽力のたまもので、第2シーズンにまで発展していきました。

しかし、ラジオ放送時のみの公開であり、再放送のご希望を承っているとはいえ、なにを基準にお選びいただいたらよりスムーズにリクエストが集まるのか。

タイトルのみの紹介では、足りないのではないか。

ということで、脚本の公開と相成りました。

つたない脚本で、見直しても尚、修正されていない誤字脱字など、おみぐるしい点も多々ありますが、そこはほら、素人だからっ。

あんまり厳しいことはいわないようにっ。

新作ができましたら、こちらの記事で追加をしてまいりたいと思います。

お暇つぶしにご利用いただければ幸いです。
                                        2015.8.13 ジニー記

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船頭の話 第二シーズン のUPをぼちぼち始めます。

あわせて、小説版もこつこつUPします。

この記事があがっていたら、どこかに更新があったりします。

引き続き、暇つぶしにご利用いただければ幸いです。

2015.8.15 ジニー記 


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船頭の話 第1シーズン

船頭の話 第一話 「船乗は良い酒が好き」/小説版「船員は良い酒を好む」

船頭の話 第二話 「魔女の真珠」

船頭の話 第三話 「死者の国へ」

船頭の話 第四話 「たたずむ女」

船頭の話 第五話 「 女海賊船秘話 」

船頭の話 第六話 「旅立ち」

船頭の話 第七話 「しゃべる犬」

船頭の話 第八話 「月光」

船頭の話 第九話 「歌って恋して」

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船頭の話 第二シーズン

船頭の話 第十話 「シーサーペントになった男」

船頭の話第十一話 「忍者に襲われた男」

船頭の話第十二話 「侍に口説かれた女」

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船頭の話第十二話 「侍に口説かれた女」

船頭の話第十二話 「侍に口説かれた女」
          原作:しば
          脚本:ジニー

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あー!バッカニアーズ・デンであっしが出会った女の話をしましたっけ?立派な侍に口説かれた人のことを。
なに、つまらん話でさ。

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バッカニアーズ・デンは、海賊、盗人、人殺したちが集まる無法の町、と他の町の人はいう。

間違ってはいないね、たしかに犯罪者は多い。

ところがね、実は犯罪は少ないんだ。

だってね、彼らは、バッカニアーズ・デンにいられなくなったら、くつろげる町がなくなっちゃうんだから。

評判にくらべて、案外住みやすいのがバッカニアーズ・デンなのさ。

他の町で殺伐としたか暮らしをしている反動なのか、バッカニアーズ・デンでは、のんびりした海釣りが大人気でね。

あたしはそんな客相手の船頭なのさ。

自分でいうのもなんだけど、長い間やってるからね、いい釣り場も知っているし、結構たよりにされているんだよ。

港の近くに、こじんまりとした釣具やがあってね。

そこのおやじとあたしは幼馴染なものだから、おやじの紹介で客が途切れることはなかったよ。

おやじには年頃の一人娘がいてね。

なくなったかみさんにそっくりの、ちゃきちゃきした美人さんだ。

温厚でお人よしのおやじの手伝いを、幼い頃からしてきたせいか、気が強いながらも気配りができて、おまけにとても面倒見がよかった。

娘と仲良くなりたくて、釣りを始める男もいるようだったよ。

マリ父
「マリ、このお客さんは釣りが始めてなんだそうだよ。」

マリ
「わかったわ、お父さん。さあお客さん、餌はこうやって針につけるのよ。竿はこうふってね。基本を覚えたら、おばさんの船にのせてもらってね。」

女船頭
「あいよ、カワマスあたりの釣り場がいいかね。」

まあ、こんな調子さ。

マリにとっては釣りをするのはただのお客さま、浮いた話ひとつありゃしない。

マリ父
「おまえもそろそろ年頃なんだから、所帯をもってもいいんじゃないのか」

マリ
「いい男がいたら私だってそうしたいわよ、お父さん。」

マリがいういい男の条件っていうのが、酒がいくらでも飲めるってことだった。

酒屋の娘だったかみさんの血筋なのか、マリはいくら飲んでも酔わないうわばみで、先に酔いつぶれてしまう男なんかは、恋愛対象にならないという言い分だった。

マリ
「わたしと飲み比べて勝ったら、お付き合いを考えるわよ」

冗談半分、あるいは本気で、マリと酒の飲み比べに挑んだ男たちは、軒並み玉砕していた。

ユーノ
「マリ、リベンジだ、おれと勝負しようぜ」

マリ
「ユーノ、またあんたなの。もう何回目なのよ」

何度も勝負を挑み、そのつど負けて、酒代を払わされていてもなおもあきらめない男もいたが、マリは愛想よく相手をしながらも、決して恋人にすることはなかった。


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ある日、桟橋で船の手入れをしていると、男に声をかけられた。

左近
「船頭殿、釣りをしたいのだが、船を出してはもらえぬか」

地味だけれどよく見れば上等な藍色の着物に編み笠を目深にかぶり、手には新品の釣り竿をびくをもっている。

しかし、目を引くのは腰に下げられた立派な日本刀だ。

少々くたびれた衣服にくらべて、つか、つば、さや共に見事が細工が施された日本刀は、よく手入れがされているようだった。

女船頭
「あいよ、なにが狙いだい。お好みの釣り場に連れて行ってあげるよ」

左近
「いや、釣りは初めてでな。行き先は船頭殿にお任せしよう。」

女船頭
「釣りが初めてで、海釣りをするつもりなのかい?餌はなにをもってきたんだい、みせてごらん」

左近
「餌? 釣りには餌が必要なのか、これはうかつであった」

よく晴れた日の桟橋で、長身の男が空にむかって豪快に笑ったあと、ピシッと背筋を伸ばすと、きちっと私に一礼して言った。

左近
「船頭殿、すまぬが釣りの指南もお願いできるか」

そして編み笠をずらすと、目を合わせてにこっと笑った。

愛嬌のある男でね、つられたあたしもにこっと笑ったよ。

わたしは男をマリに紹介したよ。

マリは、男が別の釣具屋で購入したという釣り竿をみておこりだした。

マリ
「これ、遠洋用の釣り竿じゃないの。初心者に扱えるわけないわ。

なんですって?そんな値段で買わされたの?ぼったくりもいいとこだわ」

左近
「そうなのか。ゼントにくらべると、物価が高いなと思うてはいたが」

男はまたも豪快に笑った。

女船頭
「あんた、気持ちがいい男だね。この町にはなにしにきたんだい」

左近
「それがしはゼントのさむらい道場で修業をしている左近と申す。

こたびは武者修行のたびでな、荒くれ者の町、バッカニアーズ・デンにはなかなかの使い手がいるという噂をきいて訪れたのだ。

この町では、釣りが男のたしなみと聞きおよんだのでな。

たしなみをないがしろにしては、まっとうな勝負は挑めぬからな、それがしも釣りを極めねばならんと思ってな。」

マリも左近には好感をもったようで、いつものようになにくれと釣りの世話をするようになった。

左近
「マリ殿、餌をつけてみたのだが、これでよいだろうか」

マリ
「ぜんぜん違う、これじゃすぐ餌だけとられちゃうわ」

マリがいうのには、左近は手先が不器用で、餌をつけるのが壊滅的に苦手なんだそうだった。

しかし釣り竿を振ると、針はありえないほど遠くまで飛んでいく。

マリ
「もうちょっと手加減して飛ばしてよ。

勢いがありすぎて、ほら、針が水に入る前に、えさが外れてどっかに飛んじゃってるわ」

左近
「ううむ、手加減か、難しいのう」

なかなか上達しない左近にマリはつきっきりになって世話をしていた。

小柄なマリにきゃんきゃんといわれながら、長身の背中を丸めて、針に餌をつけている左近の姿は、町の人の笑いを誘った。

マリ父
「マリ、大の男にあそこまでぎゃんぎゃんいうのはどうかと思うが」

マリ
「だって仕方ないじゃない、なかなか覚えないんだもの」

女船頭
「おやじさん、マリはいつもそうじゃないか。それでも憎まれないのは、マリが本当に親身にやっているからだよ」

左近
「うむ、マリ殿には感謝しておる。できのわるい弟子で申し訳ない」

左近はマリに一礼した後、マリと目を合わせてにっこりと笑った。

左近
「もうしばらくご指南をお願い申す。マリ殿」

マリがめずらしく、口ごもった。

マリ
「わ、わかってるわよ。一度ひきうけたからには見捨てたりしないわよ」

そして左近に背をむけたのだが、その頬がほんのり桃色に染まっているのを、わたしは見逃さなかったよ。


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マリの教えと左近の努力の結果、左近は海釣りにでられるようになった。

マリ
「おばさん、マグロの釣り場にいってくれる?」

女船頭
「おや、マリも一緒にいくのかい。」

マリ
「だって、左近はまだ餌をつけるのがへたなんだもの。

わたしがみてないと餌が無駄になるばっかりだわ。」

左近
「てすうをかけるな、マリ殿」

マグロはなかなか釣れず、びく一杯の小魚と靴が釣れた。

左近
「マリ殿、なぜこんなに靴が釣れるのだろう」

マリ
「みんなが靴を海に捨てるからよ」

左近
「なぜ海に捨てるのだ」

マリ
「まじないよ。古い靴を海に捨てて、新しい靴をはいて新しい人生を歩むためよ」

マリはそういうと、靴を脱いで海に放り投げた。

それをみて、左近もはいているぞうりを脱ぐと海に放り投げた。

左近
「人生はいつでも新しく始められるものだな、マリ殿」

マリはなにもいわなかった。

女船頭
「左近さん、釣り竿、ひいてる、ひいてるよ」

左近
「おお、これはおおきいぞ」

釣れたのはマグロではなく、グレートバラクーダーだった。。

マリ
「すごいわ、レアフィッシュが釣れるなんて、左近はもう一人前ね」

左近
「そうか、一人前か。マリ殿のおかげだな。」

左近の豪快な笑い声が晴れた海に響き渡った。


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桟橋に戻って荷物のかたずけをしていると、置いてあったびくが左近にむかってぶつかった。

女船頭
「ユーノ、なにするんだい」

ユーノ
「ああ、すまねえな、通り道にあったんでつい蹴っ飛ばしちまった」

ひっくりかえったびくからこぼれた小魚が、左近の足元に散らばっていた。ユーノが左近めがけてびくを蹴っ飛ばしたのはわかりきったことだった。

左近
「いや、きにするな。邪魔な場所においたそれがしが悪かった」

左近は気にもせず、小魚を拾い集めるとまたびくにもどした。

ユーノ
「よう、マリ。雑魚しかつれないやつの世話は大変だろう。」

マリ
「あんただって最初はそうだったでしょ。」

マリに冷たくあしらわれたユーノは、舌打ちをして立ち去った。


女船頭
「きにすることはないよ。ユーノはマリに勝負で負けっぱなしなうえ、最近マリが左近さんにつきっきりなのでやきもちをやいているんだよ」

不機嫌にあちこちにおいてあるものを蹴飛ばしながら立ち去るユーノの後姿をみながら、左近が聞いた。

左近
「船頭殿、マリ殿とユーノ殿の勝負とはなんなのだ」

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マリ父
「えー、お集まりのみなさん、これより20回、いや30回目だったかな。娘、マリとの酒飲み対決を始めます。」

釣具屋のおやじがいつものように、海賊の略奪亭で飲み比べ開始の挨拶をした。

中央のテーブルにはマリと左近が向かい合って座っている。

マリ父
「ルールはふたつ。マリが先に酔いつぶれたらマリの負け。酒場の酒蔵が空になっても勝負がつかなかったらマリの負け。いいな、マリ、左近さん」

マリは無言でうなずいた。

左近
「あいわかった、マリ殿、いざ勝負」

ふたりの前に次々に酒瓶が置かれていくが、ふたりはまわりではやし立てる野次馬の声援を聞きながら、無言で飲み干していく。

マリが酒を飲むピッチははやいのだが、左近も同じくらいの速度で杯を空にしていく。

女船頭
「ねえねえ、おやじさん」

腕組みをくんでふたりをみているおやじの袖をわたしは引っ張った。

女船頭
「わたしには、あのふたり、好きあってるようにみえるんだけど」

おやじ
「おれもそう思うわ。」

女船頭
「だったらこの勝負、酒の無駄じゃないの」

おやじ
「それがなあ、左近さんがいうんだよ。飲み比べ勝負がマリの流儀なら従うのが礼儀だってね。」

女船長
「おやまあ、左近さんは結構頑固なんだね。」

おやじ
「マリも頑固なところがあるからなあ。まったくお似合いだよ。」

野次馬がふたりをはやしたてるのに疲れた頃になっても、勝負はつかなかった。

マリは顔色もかえず、少々飲む速度は遅くなったもののまだ平気そうだ。

左近は顔が赤くはなっていたが、まだ笑みをたやさず、酒を飲み続けている。

酒場の店主が、おやじに耳打ちをした。

おやじがうなずいて、ふたりに言った。

おやじ
「ふたりとも、今度のたるで酒蔵が空っぽになってしまうそうだよ。」

野次馬たちが、とうとうマリが負けるのかと一気に盛り上がった。

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盛り上がる野次馬の中からユーノが抜け出し、店の外へでていった。

その暗い表情が気になって、わたしは追いかけてユーノの肩をつかんだ。

女船頭
「ユーノ、最後まで見届けないのかい。」

ユーノ
「マリが負けるなんて許さない。こんな勝負、中止にさせてやる。」

ユーノは桟橋に向かうと小船にのって漕ぎ出した。

女船頭
「ユーノ、なにをするつもりなんだい」

桟橋から叫ぶと、ユーノがなにかを持ち上げてみせた。

月明かりに輝くそれは、魔物を呼び出すという純白の投網だった。

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魔物の咆哮と、桟橋がバリバリと破壊される音が響いた。

わたしは海賊の略奪亭に駆け込んだ。

女船頭
「たいへんだ、ユーノがスカリスを呼び出した」

酒場にいた全員がマヒ魔法にかかったように一瞬動きをとめたあと、悲鳴をあげた。

最後の酒樽はまだ空にはなっていなかったようだ。

マリが持っていたグラスを落として割れる音が店内に響いた。

左近はグラスに残っている酒を飲み干すと立ち上がった。

左近
「ユーノ殿はご無事か」

女船頭
「わからないよ、それより逃げないとここも危ないよ。」

左近
「ユーノ殿の無事を確かめねばなるまい」

左近はさすがに酔っているのだろう、おぼつかない足で酒場から桟橋にむかった。

酒場の全員が、左近を追った。

桟橋では、スカリスが腕を振り回し暴れていた。

腕の1本に、ユーノがつかまれていた。

ぐったりとしていて、生きているのかどうかわからない。

左近がスカリスに向かって、朗々と叫んだ。

左近
「これ、スカリスとやら、ユーノ殿をはなし、海にかえらぬか。大事な勝負の邪魔にもなっておるでな。」

マリ
「言葉が通じるわけないでしょ。左近、酔ってるの?」

マリが左近を後ろに引っ張ろうと着物の袖をつかんでひっぱったが、左近は制していった。

左近
「酔ってはおるが、つぶれてはおらぬ。

言葉が通じぬとなればやむを得ぬ。

成敗させていただく。」

左近は両手を着物の袖に引っ込めると、袂をわけて同時にだした。

着物がはだけて、無駄のない筋肉におおわれた、均整のとれた上半身があらわになった。

腰の長剣を引き抜くと、左近は鞘をマリに手渡した。

左近
「もっておれ。傷つけとうないからな、マリ殿に託す。」

するどい眼光はマリではなく、威嚇するようにスカリスに向けられていた。

マリは鞘をうけとると、ぎゅっと胸に抱きしめた。

抜き身の長剣を正眼にかまえると、左近は足摺をしながらスカリスにちかよりつつ間合いをはかった。

暴れていたスカリスは、左近の気合に気がつき、その凶暴な腕を左近に伸ばした。

左近は横に飛びずさるとすかさずスカリスの腕にたちを振り下ろした。

刀の残像が、銀色の光にみえた。

腕を1本切り落とされたスカリスは怒り狂い、別の腕で左近を捕まえようと襲い掛かった。

左近は伸びてきた腕に飛び乗るとそのまま駆け上り、スカリスの片目に、たちをつきさしつぶし、すばやく移動すると、ユーノをつかんだままの反対の腕も切り落とした。

腕ごと桟橋に放り落とされたユーノが、うめき声をあげた。

スカリスが手当たり次第に振り回す残りの腕が、左近の胸にふれた。

左近の胸から鮮血が飛び散ったが、動きは鈍ることなく、スカリスの腕を次々に切り落とし、本体と正面から向き合った。

左近が低い声で言った。

左近
「ユーノ殿が生きておるのなら、そなたを殺すいわれはない。海に帰れ。」

左近とスカリスは動きをとめ、眼光を飛ばしあった。

スカリスは、町中が震えるほどの咆哮を一度あげると、外洋に向かってしりぞいていった。

左近は中段に構えたまま、スカリスを見送った。

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スカリスの姿がすっかり海に消えてしまうと、左近は構えをとき、マリに歩み寄った。

マリは震える手で、鞘を左近に差し出した。

左近はにっこりと笑うと、長剣を2度ほどふり、鞘に収めるといつのもように腰にさした。

左近
「マリ殿、勝負の続きといこうか」

マリは首をふった。

マリ
「怪我を・・・・・怪我をしてるじゃない」

左近
「たいしたことはない、それよりもマリ殿との勝負のほうが大事であろう」

マリ
「ムリ! 飲めるわけないでしょ!」

左近は両手を、ぽんっとあわせた。

左近
「もう飲めぬとあらば・・・・・勝負はせっしゃの勝ちということか」

マリは一瞬たじろいだが、はっきりといった。

マリ
「そうよ、左近の勝ちよ!」

野次馬が歓声をあげた。

左近はいつものように豪快に笑い、そして大の字になってひっくりかえった。

びっくりして駆け寄ると、左近は目をつぶり、満面の笑みを浮かべて、もぞもぞとつぶやいた。

左近
「祝言はゼントであげようぞ・・・・・。」

そして、ごうごうといびきをかいて・・・・・寝ていた。

おやじ
「マリ、おまえの負けだな。」

マリ
「お父さん、負けたわ。

わたしこの人に酔って、酔いつぶれちゃったわ。」

そのときのマリの笑顔のかわいいことといったらなかったわ。


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意識を取り戻したユーノは、こっそり町を抜け出し、2度と戻ることはなかった。

あいつは悪党としては小物だし、どこかでちょっとした悪さをしながら、生きているんだろう。


マリはゼントへいって、左近と所帯をもったよ。

このあいだ、おやじといっしょに遊びにいったけれどね。

ゼントの日本酒、あれは美味しいねえ。

かわいい3人の子供を寝かしつけたあと、日本酒で晩酌をするのが、マリと左近夫婦の日課なんだってさ。

左近は、ゼントの師匠から免許皆伝をもらって、あたらしいサムライ道場の師範になったそうだよ。


左近の道場では、釣りの道も剣の道に通じるものがあるといって、弟子は釣りの修行もするそうでね。

そっちはマリが、面倒をみているそうだよ。


左近
「さむらいの師範より、釣りの師範のほうが厳しいといわれておる」

左近はそういって、豪快に笑っていたよ。



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(あとがき)

第十二話も、十一話と同じ作家さんからの投稿を原作としています。

今回は語りもお願いしましたが、安定感のある、とても素敵な語りとなりました。

いつも脚本にはト書きはなく、それぞれの役の方が、それぞれの解釈で声を入れてくださるのですが、左近役の方はいつも、とてもいい感じに仕上げてくださいます。

また、今回のマリ役は、いわゆる北島マヤが降臨する方なので、理想のマリになってます。
あまりの可愛らしさに、萌えファンがすさまじいことになっているという噂。ただ、残念なことにマリ役の方はしばらく出演は難しいということでした。
復帰をてぐすね引いて・・・・・じゃなくて、純粋にお待ちしておりますw

ユーノ役をお願いした方は、ご自分でも音声でのラジオ放送をしていて、そちらでも人気ですが、熱心に役作りをしていただいて感謝しきれません。

今回、実は、スカリスの設定がいい加減でした。腕の数とか深く考えちゃいけません。演出上、増えていても気にしちゃだめですからねっ?





尚、この記事の掲載に関しては、原作者の許可を頂いております。

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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船頭の話第十一話 「忍者に襲われた男」

船頭の話第十一話 「忍者に襲われた男」
            原作:しば
            脚本:ジニー

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あー!
ベスパーであっしが会った男の話をしましたっけ?
忍者に襲われた奴の話を。なにつまらん話でさ。

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ベスパーでは船頭が暇ってことはまずはない。

ゴンドラで水路をゆっくり進みながら街をめぐる観光が人気だからだ。

特にニジェルムで結婚式をあげたあとに、新婚旅行で訪れるカップルも多いですしね。

わしがその日に乗せていたのも、結婚式のためにニジェルムに向かう途中でベスパーに寄ったというカップルだった。

ただいつもと違ったのは、結婚式直前のカップルというのは幸せそうにべったりくっついてくつろいでいるのが普通なのに、そのふたりはいやに緊張した面持ちだった。


特にだんなのほうが顔色が悪いのが気になった。

嫁さんのほうは、そんなだんなを気遣いつつ、あたりに気を配ってきつい目をしていた。

だんなは、ブリティンで働いている学者さんという話で、なるほど、あまり外を歩かないのか日に焼けていない顔色で、体の線も細くって、そのかわりといってはなんですが、えらいあたまのよさそうな、インテリっぽい顔つきでした。

一方の嫁さんは、だんなよりかっぷくがよいくらいで、子供を何人でも埋めそうな、健康そうな女でした。

ふたりはムーングロウ出身で、結婚式をあげたら、故郷のムーングロウへ帰るという話でした。

ふたりの会話を聞き耳をたてて聞いていたわけではないのですが、ときおり嫁さんが声を大きくしているのがいやでも聞こえました。


「だいじょうぶよ、あなた。いくらなんでも船にちかづいてくればすぐわかるもの。」

だんな

「でも、・・・・・今までのことを考えるともう恐ろしくて・・・・・」


「わたしが守るから絶対に大丈夫よ」

およそ恋人同士とは思えない会話にびっくりはしましたけどね。

だからといってこちらから事情を聞くのもはばかれましたので黙って船を操っていましたよ。

効果音:船ぶつかる

水路から街並みを観光するいつものコースですが、橋の下をぬけようとしたら、船がなにかに引っかったようで動かなくなりました。

丁度大きな橋の下で、陸にいる人間からは見えないので助けも呼べません。

船頭
「お客さん、ちょっと待ってください。船がなにかにひっかかったようなんで。障害物をはずしますんで、ちょっと船が揺れるかもしれません。動かないで待っていてくださいよ。」


「船頭さん、こういうことってよくあるの?」

船頭
「めったに無いですね、ベスパーの水路はいつもきれいにされてますからね。」

嫁さんの表情が、さらにきつく緊張するのがわかったが、船が揺れるのがこわいのだろうくらいに思っていた。

船先の水面をのぞくと、なにやら流木のようなものが浮かんでいて、そのために前に進めなくなっているようだった。

船頭
「お客さんに頼むのは申し訳ないんですが、これはひとりではムリですわ。だんなさん、手伝ってもらえますか?」

うなずくだんなを制して、嫁さんがすっと立ち上がった。



「わたしが手伝うわ。あなたはじっとしていてね」

だんなは顔色をさらに悪くして、こくんと一度うなずいた。

姉さん女房かな、とわしは思いましたよ。

嫁「流木かしら。船を後退させることはできるかしら?」

船頭
「はい、そりゃ簡単なことです。」


「少し船をさげてちょうだい。障害物はわたしが消してあげるわ。」

船を後ろに進めると、水面に浮かぶ障害物にむかって、嫁さんが呪文と共に炎を発射しました。

効果音:FA1発

障害物は強い炎をうけてこなごなになり、みなもへ沈んでいきました。。

船頭
「こりゃまた驚いた。嫁様は魔法使いでしたか。」


「ムーングロウの女のたしなみよ。

嫁さんはにっこりと笑った。

そう美人でもないと思っていたが、笑うと存外愛らしい。

効果音:船揺れる



だんな
「た、たすけ・・・・!!」

だんなのくぐもった悲鳴が聞こた。

効果音:だんな暴れる

船がたいそう揺れて、必死に船べりにつかまってだんなのほうを見てみると、複数の男がだんなを押さえ込んでいた。


「あなた、目をつぶって!」

嫁は叫ぶと、すごいはやさで呪文を唱えて、小さな魔法の炎を不埒者たちに順番に発射した。

効果音:MA6発+消える音5発

炎にあたると男たちの姿は煙のように消えていき、最後に残った男は、炎があたった瞬間にまゆをひそめると、無言のまま水面に落ちてそのまま見えなくなった。

効果音:水に落ちる

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「あなた、だいじょうぶ?」

嫁はますます青ざめて震えているだんなを、豊満な胸にしっかりと抱いた。



だんな
「こんな船の上で襲ってくるなんて・・・もうむりだよ。ニジェルムでの結婚式ははあきらめて、ムーングロウに帰ろう。僕はもう一歩も家の外にはでたくない。」


怖い思いをしたのはわしも一緒ですからね、事情を聞く権利もあるってものです。

船頭
「いったいなにごとなんです。あの男はなにものなんです」



「迷惑をかけて悪かったわ。夫はあの忍者に狙われているの。」


船頭

「忍者なんてものは、旅人に聞いたことはありましたが、実物は初めてみましたよ。上から下まで真っ黒な服装で、頭巾から見えた目が、妙にぎらぎらしてたのが怖ろしかったですよ。それが6人もいるなんて、なんておっかない。」


「そのうち5人は忍者の分身よ。炎をぶつけたら消えてしまったでしょう?」

嫁さんがいうには、結婚式の資金を稼ぐために、ゼントへ講師として出向していただんなが戻ってから、おかしなことが続いたそうなんです。

ゼントでの仕事が終わっていないからもどれという手紙が、だんなが住んでいる家のポストに届いたり、夜遅くに同僚と一緒にだんなが帰宅途中に、誰かにつけられている気配をよく感じたりしたそうです。


ニジェルムパレスで結婚式をあげるために、ブリティンからベスパーへ、陸路で旅をしている間も、なんどかこういった襲撃があったそうです。


「わたしが全部、撃退したけれどね。」

嫁さんはなかなかの魔法の使い手のようでした。

だんな
「じかに襲ってきたとなっては、君まで危険だよ。いくら君が腕のいい魔法使いだといっても、女なんだから・・・・・。怪我でもしたら僕は一生後悔するよ。ムーングロウにひきかえそう。」


「怪我なんかしないわ。ニジェルムパレスで結婚式をするのが、ずっと夢だったのに、引き返すなんて絶対にイヤよ」


だんな
「でも僕は本当に、君の安全が心配なんだよ。」

ひょろっとしてまったく弱そうなだんなだが、嫁さんの心配だけをしているあたりなかなかに良い男だと思ったものだ。

嫁さんも、だんなの気遣いをとてもうれしく思っているように表情をやわらげた。


「わかったわ。じゃあ、わたしが危なくないように、解決しましょう。船頭のおじさん、迷惑ついでに協力してもらえるかしら。」

わしはこのカップルにかなり好感をもってしまったので、危ないことはしないという条件で手伝うことにした。


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効果音:人ごみ、ざわざわ


数日後に、ふたりが泊まる宿屋に人だかりができた。

宿屋の中から、激しく言い争う声が聞こえている。


「もうイヤ!あなたなんかと結婚なんかできない!」

だんな
「ぼ、ボクだってごめんだ。君は気が強すぎるんだ!ボクのほうだって結婚なんかできないよ!」


結婚式直前のカップルの大喧嘩を宿屋の人間も、近所の住人も、ひやかすように聞いていたのだ。


「あなたなんか大嫌い!もうこんなところいられない。ムーングロウに帰るわ!」

効果音:ドアが乱暴にしまる

しばらく言い合ったあとで、嫁さんのほうは宿を飛び出していってしまった。


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嫁さんにでていかれただんなは、ひとり部屋で泣いていた。

効果音:ノック、ドアがあくわしは騒ぎを聞いて、だんなの部屋を訪れてだんなを慰めた。

犬の散歩の途中だったので、犬も一緒に慰めるように、だんなの頬を流れる涙をなめとっていた。

犬:きゅーん


船頭
「だんな、だいじょうぶですか?」

だんな
「だいじょうぶじゃないよ。でもしょうがないんだ・・・・・・」


猫:鳴き声

船頭
「おや、宿屋で飼っている猫でしょうかね?」

猫はドアの隙間から、部屋に入ってくると、だんなの足元にすりよった。

猫:鳴き声

犬がいるというのに、まったく気にする様子もない。

犬のほうも、猫を無視していた。

船頭
「だんなさん、いきなり一人寝もさびしいでしょう。猫でも抱いて、今日は寝るといいですよ」

だんなは猫を抱き上げて膝にのせた。

だんな
「猫は好きだよ。暖かくて、やわらかくて、まるで彼女のようだ・・・・・」

猫はだんなの顔をまじまじと見上げると、だんなの両肩に前足を伸ばしてつかまった。

そして男の声でしゃべった。

忍者
「われと一緒にこい。」




だんながびっくりして猫を掘り投げようとしたが、猫はつめをだしてだんなにしがみついた。

だんな
「イタイイタイ!」

忍者
「じっとしていれば怪我はしない」

わしはびっくりして腰を抜かしてしまったわ。

効果音:変身解除

猫は白い煙と共に、黒装束の忍者の姿になった。

手に持った短剣が、だんなの首筋にあてられていた。

わしの犬は、腰を抜かしたわしの後ろに隠れて、尻尾をまいて震えていた。

船頭
「あんた、なんのためにそんなことを・・・・」

忍者
「おやかたさまの勅命だ」

男は冷酷な声で言うと、だんなを立たせた。

忍者
「一緒に来い」

だんなは恐ろしさからまともに経っていられないようだった。

船頭
「まってくれ、縁あってその人の嫁になる人も知っている。その人がどうにかなるのなら、わしは顛末をおしえてやりたい。」

だんなは震える声で忍者に聞いた。

だんな
「ボク、殺されちゃうの?」

忍者はだんなとわしを交互にみると、一瞬思案したようだったがこたえた。

忍者
「殺しはせん。よかろう、おまえも一緒に来い。

あの女がこいつを完全にあきらめられるように、どうなったかを教えてやれ。」

男は、ふらつくだんなを手早く縛り上げると、丸めたじゅうたんを担ぐように背にのせた。

忍者
「このほうが早い。おまえは歩けるな?」

わしはなんとか立ち上がると、尻尾をまいて震えている犬を抱き上げた。

忍者
「犬も連れて行く気か」

船頭
「おいていったら宿屋が迷惑だろう」

忍者
「そいつは犬としては使い物にならんな」

忍者の目が笑ったような気がした。

人目につかないような路地を選んで忍者が目指したのは、ベスパーで一番高級な宿屋だった。

その宿屋でも一番いい部屋に、忍者は入っていった。

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忍者
「高貴な方がおられる。そそうの無いようにせよ。」

部屋の中には、香水とは違うお香の香りが漂っていた。

忍者はだんなを丁寧に椅子に座らせると、拘束をといた。

わしも犬を床におろしたが、犬はあいかわらず尻尾を丸めたまま、わしの後ろに隠れてしまった



部屋の奥のカーテンに仕切られた向こうから、ゆったりとした女の声がした。


「だれぞ、もどったのかえ?」

忍者は床に膝と、右手のこぶしをつき、頭を下げていった。。

忍者
「おやかたさま、わたくしにございます。

おいいつけの人物、ともなってまいりました。」


「ようやった。仕切りをあけよ。顔を見たい。」

仕切りのカーテンがしずしずと開いた。

開ききる前に、カーテンをひるがえして、若く小柄な娘が飛び出してきた。


「先生!やっとお会いできたのね」


着ている服装も装飾品も、高貴な人が身につける上等なものだった。

奥には娘の母親と思われる女性が、数名の次女を従えて座しいた。

奥に座っている娘とよく似た、母親と思われる女性は、背筋をぴんと伸ばし、りんとしていた。

手には煙が一筋のぼるキセルを構えていた。



「ひかえよ!なんとはしたない!」



効果音:キセルを叩く音

母親はキセルをキセル箱にあてて音をたてた。

母親の一喝で、だんなに駆け寄って抱きつかんばかりの勢いだった娘がびくっとたちどまり、おずおずと母親を振り返った。



「娘よ、まだまだ思慮が足りないようですね。」

母親は、視線を娘からだんなにうつした。



「ゼントでは娘が世話になったようですね。思ったよりも頼りない風体の男だこと。さて先生、聞かせていただきましょうか。娘と約束をしながら、いっこうにゼントにもどらぬとは、どういう了見なのです」


忍者の目も怖ろしいと思ったが、この母親の眼光はもっと怖ろしかった。

だんなはびくっとしたものの、母親から目をそらすことなく、震える声ではっきりといった。

だんな
「ゼント滞在中は、お世話になりました。しかしお嬢さんとはなんの約束もありません。」

母親は眉間にしわをよせて、不快感をあらわした。

キセルを口にあてると、ゆっくりと吸い込み、すーっと一筋の煙をはいた。

それをみただんながまた、びくっと身体を震わせた。



忍者
「このもの、他の女と結婚しようとしておりました。

姫様にふさわしき人物とは到底思えませぬ。」

忍者が顔を伏せたまま言った。


「うそよ!」

娘が、叫んだ。

母親の目がさらにつりあがったが、娘は気がつかずにだんなに駆け寄ると抱きついた。

どうやら、母親の厳しいしつけにもかかわらず、はしたないことをしてしまう娘のようだ。


「婚約者がいるなんて、うそよね、先生。お母様がこわいから、うそをいって私から去ったのでしょう?」

娘の言葉を聞いた母親が、さらに目をつり上げたが、なにもいわずにキセルを口にあてた。

ゆっくりと上品に、観察をしているようだった。

だんな
「ボクはもうすぐ、大好きな人と結婚するんだよ。君の気持ちにはこたえられないよ。」

だんながよわよわしく、娘を遠ざけようとしたが、娘が抱きつく力のほうが強かったようでどうにもできない。

娘は興奮して涙を流しながらだんなを抱きしめた。


「もう、うそはいわなくていいのよ。わたしに優しくしてくれるのは先生しかいないの。先生はわたしのそばにいなくちゃだめなのよ。」

わしはなんとなく事情がわかってきた。

だんなは娘をふりほどけないまでも、自分は幼馴染と結婚するんだと、力ないながらも繰り返していた。

母親は、キセルをふかしながら、無表情にふたりのやり取りを見ていた。

やがてだんなが抗議するのをあきらめたのか黙ったために、娘の、だんなの言葉を無視した、うれし泣きの声だけが室内に静かに響いていた。

そのとき、忍者が言った。

忍者
「姫様、そのもの姫様に相応しいとは思えませぬ」

その声が、さっきよりも若干弱弱しく、懇願しているように聞こえたのは気のせいではなかったろう。

忍者の気持ちに娘はまったく気がついていないようだった。


「うるさい!おまえに何がわかるの!たかが、やとわれの忍者のくせに!」

効果音:犬一声吼える

わしの後ろに隠れていた犬が、一声吼えると娘にむかって突進した。

だが、たどり着く前に、だんなが精一杯腕を突っぱねて娘を引き剥がした。

だんなの背筋が、しゃんと伸びていた。

だんなに拒絶されたと感じた娘が、すがるようにだんなを見つめていた。

だんな
「ボクもやとわれの講師にすぎません。あなたには、ひとにはやさしく、上下無く接するべきだと、ボクは教えたはずです。あなたはそれを、ありがたい教えですと、受け入れたのではなかったのですか。」

大きな声ではなかったが、しっかりとした口調でだんなはいった。

それは生徒を教え諭す、教師の口調だった。

犬がだんなの顔をみあげて激しく尻尾を振った。

諭された娘は、ひるむことなく、むしろうれしそうに言った。


「先生、先生だけが、やさしくわたしを叱ってくれる。もっとわたしに教えてください。わたしの夫になってください。」


「だめよ」

しゃべったのは犬だった。

効果音:変身解除

犬は魔法の呪文をとなえると、嫁さんの姿に戻っていった。




「おやかたさま、おわかりになったでしょう?あなたの娘の狂言に、私たちは迷惑しています。」

嫁さまは娘にキっと視線を合わせた。

娘は大柄な嫁の姿に驚き、嫁さんのきついまなざしにたえかね、助けを求めるように母親に視線を送った。

しかし、母親もまた、娘をにらみつけていたのだった。

母親をだまして、横恋慕した男を手に入れようとした娘が、へなへなと床に座り込もうとしたところを支えたのは忍者だった。

忍者
「姫様、じかにお座りになるなどなりません。」

その手を払いのけようとした娘の手は、空を切って、忍者の頬に強くあたった。

効果音:ビンタの音

忍者は動じることなく、むしろかなしそうは目で、そっと娘を支えていた。

効果音:キセルを叩く音



「娘を退出させよ。」

母は冷たく侍女に命じた。

ふたりの侍女が母親の側をはなれ、忍者が支える娘を流れるような動作で受け取ると、静かに退出していった。


忍者
「おやかたさまはごぞんじだったのですか」

忍者が意外そうにたずねると、母は嫁さんをじっとみつめて淡々といった。



「そこな にょしょう が、わらわをたずねて進言したのじゃ。真実を知ってほしいとな。」

忍者があらわれたということは、ゼントでなにかがあったのだろうというのが嫁さんの推理だった。

わしは嫁さんに頼まれて、ベスパーの宿屋をあたり、ゼントからの客を洗い出したのだ。

そして、だんながゼントで滞在していたという武家の母子が宿泊していると聞き、あたりをつけてみたのだ。

娘はだんなを物陰からこっそりと見るために外出してばかりだったので、嫁さんは宿に残っている母親に事情を話した。

娘の話と違うという母親を納得させるために、嫁さんはわざと、忍者にだんなを捕まえさせたのだ。

力なくうなだれる娘が連れ出されたあと、静かになった部屋で母親がいった。



「ふさわしきしつけようとしても、ままならず、ましてや娘の言葉を鵜呑みにする親ばかであったとは、われながらふがいないことじゃ。なんともわびのしようもない。」


眼光は鋭いままだし、あたまも下げなかったが、謝罪はしているようだった。


「お嬢さんには、まだまだおやかたさまの教育が必要なようですね。」

丁寧に話しているが、嫌味をいっているのだろうなとはわかった。

おやかた様とやらもおっかないが、この嫁さんもなかなかにおっかないわ。





「そのものたちを宿まで安全に送るがよい。そなたからのわびも忘れずにな。」

忍者
「御意」


母親は立ちあがり、さらに奥の部屋に移ろうとするのを、嫁さんがひきとめた。


「まってください。わたしの夫になる人は、頼りなくなんてありません。やさしくて芯が強いんです。訂正してください。」

母親は振り返り、嫁さんとだんなの顔を交互にみると、ふっと笑った。

そして、嫁さんにむかってまっすぐに向き直り、黙って一礼すると、無言のまま侍女を従えて、さらに奥の部屋に去っていった。

なんとも優雅なお辞儀であった。

高貴な女性というのはそういうしぐさが違うのだろうなと、感心したものだ。


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忍者は無言のまま、わしらと宿まで歩いていった。

忍者の黒装束の頭巾姿は、道行く人をびっくりさせたようだが、本人は気にしていないようだった。

宿に着くと、忍者はやはり、かた膝と右こぶしを地につけて目を伏せると謝罪の言葉をのべた。

忍者
「命じられたこととはいえ、理不尽な襲撃であった。もうしわけない。」

おやかたさまの無言の一礼にはなにも言わなかった嫁さんが言った。


「おかしいと思った命令とか、きいちゃうから、あの子がどんどんわがままになるのよ。だいたいあなた、謝るのに顔もみせないってどういうこと?」

だんな
「かわいそうだよ。この人にだっていろいろ立場があるんだよ。」


「あなたがやさしいのはうれしいけど、これはけじめよ」

忍者
「もっともだ。失礼をした。」

忍者は立ち上がり頭巾をとった。

その顔をみて、嫁さんがふきだし笑い出し、だんなとわしはあぜんとした。

忍者はわけがわからず、むっとしている。

忍者
「われの顔はそんなにもおかしいだろうか・・・・・」

それなりに傷ついたのだろう、素顔の忍者が、気まずそうに目線を泳がせた。


「頭巾をとって、あの子を叱ればきっということを聞くわよ」

だんな
「ど、どうだろうなあ。」

髪と目の色は違うが、双子かと思うくらい、だんなと忍者の素顔はそっくりだったのだ。

船頭
「あんたは鏡をみたことがないのかね?だんなさんに顔がそっくりだ。その顔であのお嬢さんにちゃんと必要なことをいってやれば、聞き入れてくれるかもしれないよ。」

忍者の表情が少し明るくなった。


「気持ちを伝えるなら、ありのままが一番よ。

この人も昔、大柄で醜いで、いじめられていたわたしに、ありのままで笑顔でいるのが大事なんだよっていつもいってくれたわ。」

だんな
「君は醜くなんかないよ。とっても、その、かわいいよ・・・・・。」

嫁さんはこれ以上はないという笑顔で、だんなを抱きしめると熱烈な口づけをした。

今度はわしと忍者があぜんとする番だった。

強烈な抱擁から、やっと開放されただんなの手をとって、忍者が言った。


忍者
「そこもとは一見なさけないほど弱そうだが、ほんとうは立派な男だ。

おやかた様と姫様に、はっきりものを言えるなど、そうそうできることではない。」

これには嫁さんはひとことありそうだったが、ひきぎみのだんなの手をしっかりと握る忍者の姿に、なにかいうのは控えた様子だった。


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問題が解決したのもあり、ふたりは船に乗って、ニジェルムに向かうことになった。

港へいくと、新造船と思われるトクノ船の上から、手招きをするものがいる。

船員の格好をした男は、だんなと同じ顔の忍者だった。


忍者
「この船は、おやかた様からのわびの品だ。われ・・・じゃなくて、オレが操船をするので、好きにつかうがいい。」

ふたりは複雑な顔をしていたが、忍者しょんぼりと言ったので、ありがたく好意をうけることにした。

忍者
「ふたりを無事に送れと、おやかた様に命じられている。そのあとは、暇をやるから好きに生きろといわれてしまった。」



船頭
「それは・・・・・クビをきられたのか? 忍者は廃業か?」

やはりしょんぼりと、忍者は言った。

忍者
「おやかた様から、姫様のためにも、甘やかしてしまうオレは、しばらく離れていたほうが良いといわれてしまった。姫様の教育はおやかた様がするが、オレの教育はオレ自身でどうにかしろと、いわれてしまったのだ。」


嫁さまが、また笑い出した。

「よかったわね、未来は明るいわ。」

忍者

「よかった、のだろうか。」

だんな

「ボクも、よかった、だと思うよ。」

だんなも笑い出した。

忍者も慣れない様子で、笑おうと努力した結果、とても面白い顔をしていた。

そうして3人は、ニジェルムに向かった。

わしも結婚式に参列するように誘われたのだが、おやかた様は、わしにも船を用意してくれていた。

高貴な人というのは、おわびの感覚が庶民とはまったく違うようだ。

新しい船がまたすばらしくて、操船したくてたまらなかったので、一緒にいくのは断ったのだ。

結婚式が終わったら、またベスパーに立ち寄るといっていたので、そのときは新しい船でまた観光案内をしてやろう。

もちろん、あの忍者も一緒にだ。

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(あとがき)

第十一話は、恋愛小説に定評がある方からの投稿作品を元に脚本化しました。

想う男を手に入れるために、良家の娘が忍者を放つ、というコンセプトですが、残念ながら娘の恋心は実りません。なぜなら男には最愛の婚約者がいるからです。この婚約者は原作には登場しないのですが、失恋の理由つけのためにも活躍させることにしました。

襲われる男役からは、「ボクなんて言ったこと生涯一回もねえっ」と、抗議が届いていましたが、スルー。監督権限で全スルー。言っていただきましたともっ。ありがとうございましたっ。
ちなみに、甘いセリフは吹き出しそうになりながら演じていただいたようです。ムリを聞いていただいて、重ねて感謝です。

原作者の方にも、嫁役として声の参加をしていただきました。芯の強い、魅力的なキャラに出来上がりました。


娘役には「上目遣いで、思いっきり甘えてください」と、お願いしました。ウィスパーボイスで上目遣いチラッとか、最強じゃないですか?(^^)

そしておやかた様。「素ですよね?」と、にやにやしながらギルメンに言われたのは・・・・・素直に喜べない。喜べないが、にやにやしていただけたのならよしとしよう・・・・・。

尚、この記事の掲載に関しては、原作者の許可を頂いております。

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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船頭の話 第十話 「シーサーペントになった男」

船頭の話 第十話 「シーサーペントになった男」
                原作脚本:むらさきうに

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あー
サーペンツホールドであっしが出会った男の話をしましたっけ?
シーサーペントになったやつなんですぜ。
なに。つまらん話でさぁ。

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(酒場のにぎわい)

男「・・・なんだい爺さん。俺の顔になんかついてるかい?」

老船頭「お前さん、きれいな青い瞳じゃなぁ」

男「ああ・・ははは」「おかげで酒場の女たちにはモテモテさ」

老船頭「ほほほっ!」「まるでシーサーペントの瞳じゃな」

男「シーサーペントって・・・瞳が青いのか?」

老船頭「ああ、そうとも」「船乗りなら誰でも知ってることじゃよ」

(ハープの音)

男「爺さん、吟遊詩人かい?」

老船頭「いや、わしゃただの音楽好きの船頭じゃよ」「もっとも、吟遊詩人になれるくらい沢山

の物語に出会ってきたがの」

男「へえー」「それじゃなにかひとつ聞かせてくれよ」

老船頭「一杯おごってくれたらの」

男「ちゃっかりしてやがるぜ」

(酒を注ぐ音)

老船頭「そうじゃの・・・」「では、青い瞳にまつわる古い話をしてやろう」

(ハープの音)

(波の音)

青い瞳のセニック少年は、ブリティンの近郊の海辺に住んでおった。

家族は漁師の父親にお針子の母親、そして、幼いのにとても美しいと評判の妹、キャロン。

キャロンはやさしい兄セニックが大好きじゃった。
大好きといっても、大人が考えるような恋愛的なものではなく、子供の純粋な友情のようなものじゃて。

キャロンは海が好きで、いつも浜辺で遊んでおった。
健康的に焼けた小麦色の肌が、キャロンの美しさを引き立てておった。

セニックはというと、漁師の父親の仕事を手伝わされておって、あまり海が好きではなかったようじゃ。
自分の生れついた家の貧しさも、セニックには不満のようじゃった。

キャロンは大きくなったらさぞ美しい娘になるだろうと噂されておってな。
気の早い貴族たちが自分の息子と結婚させようと贈り物を持って家に押しかけるほどじゃった。

貧しかった両親は、なんとなくその贈り物を受け取っているうちに断り切れなくなり、とうとうある貴族の息子と婚約させられてしまったんじゃ。
キャロンはまだ11才だったそうじゃ。
相手がまた・・・底意地の悪いいじめっ子で有名なドラ息子じゃったんじや・・・

嫌がって泣き崩れる妹を見て、セニックは決意した。

妹を連れて逃げることにしたのじゃ。

ふたつの月が輝く夜、兄妹は窓から家を抜け出し、海辺に沿って走り続けた。
しかし、そこは子供の浅はかさで、どこへ逃げるかも決めておらんかった。
それでも、探しに来た大人たちから姿を隠し、浜辺で貝や海藻を拾って食べながら、10日近く逃げ回ったそうな。

(静かな波の音)

キャロン「お兄ちゃん、ごめんね。」「あたしのためにこんなことになって・・・」

長い逃亡劇のせいで、衣服も顔も汚れてしまったが、それでもキャロンは美しかった。
セニックはそんな妹を愛おしく思っておった。

セニック「お前が悪いんじゃないよ。父さんと母さんがいけないんだ。」

セニックは顔を曇らせてつぶやいた。

セニック「貧乏に負けてお前を貴族に売り渡そうとするなんて、親のすることじゃないよ!」

キャロン「そんなこと・・・ないと思うな」「父さんも母さんも、家族みんなが幸せになること

を考えたんだと思う・・・」

自分の境遇を悲しんでも、人を恨むことを知らないキャロンじゃった・・・

キャロン「もし、みんなが幸せになれるのなら・・・あたしは・・・」

そう言ってキャロンは物憂げに月を見上げた

キャロン「・・・あ!」

(神秘的な音)

セニックも思わず月を見上げた。

二つの月が、今まさに重なってひとつになろうとしておった。

神秘的な光景に圧倒されて、ふたりはただ茫然と月を見つめた。

一つになった月は、モンスターの充血した眼玉のように赤みを帯びていた

(草をかき分ける音)(足音)

ふと、セニックは気配を感じて我に返った。


村人「おーい!キャローン!セニックー!」

村人「出ておいで―!!」

セニック「キャロン!行こう!」

(走る音)

セニックはキャロンの手を引いて、ひとつに重なった月のうすら赤い光に照らされながら、海辺を走り続けた。
じゃが・・・

セニック「しまった!」

ふたりは最果ての岬に追い詰められてしまったんじゃ。
岬の崖は高く、下にはごつごとした岩礁が白波を立てておった。

左右の海岸線に沿って、松明の明かりがだんだん近づいてくるのが見えた。

キャロン「お兄ちゃん。もういいよ。」「迷子になったふりをして出ていこうよ」

セニック「あきらめちゃダメだっ!」「お前を貴族のところへなんかやるもんかっ!」

キャロン「でも・・・このままじゃ、お兄ちゃんが・・・」

(迫ってくる足音)

その時じゃった

海の女神「キャロン・・・美しき人間の子」

ふたりが振り向くと、一つになった月を背負うように、細身の美しい女性が立っていた。
・・・いや、立っていたのではなく、その女性は宙に浮かんでいたんじゃ
緑色の長い髪をしたその女性は、きらきらと輝く水色のドレスを纏っていた
とても美しいが、どこか恐ろしげな威厳に満ちあふれておった・・・・

伝説の、海の女神じゃよ。

セニック「お前は・・・誰だ!!」

海の女神は、セニックの問いかけに答えず、目を細めてキャロンをじっと見つめておった。
口元は微かに微笑んでいるように見えた。

海の女神「お前が海を愛したように、海もお前を愛している・・・」

キャロンの表情から恐怖が消え、夕凪の海のようにおだやかになった。

海の女神「さあ・・・おいで」

女神がそういうと、キャロンは静かに目を閉じて、何かに取り憑かれたように、ふらふらと女神の方に歩き出した。

セニック「だめだ!キャロン!」

キャロンの腕を掴もうとしたセニックの手は空を切った。
キャロンの体は淡い光に包まれ、引き寄せられるように宙に浮かぶ女神の元へ向かった。
キャロンもまた、宙を歩いておった。
女神がキャロンの手を取ると、キャロンの体はまぶしい光を放ち、光は形を変えていったんじゃ。

(イルカの声)

セニック「キャロン!!」

なんと、キャロンは白いイルカの姿になった。
イルカは一鳴きすると、女神の元から勢いよく海に飛び込んでいったんじゃ。

(海に飛び込む音)

女神はイルカになったキャロンを見送ると、またうっすらと微笑みを浮かべて、霞のように消えていった。
セニックは、あまりのことになにも出来ずに立ちすくんでおった・・・

・・・・それからのセニックの境遇は悲惨じゃった。

妹を連れ去ったことを大人たちに咎められ、挙句の果てには殺したのではないかと疑われた。
事の次第を説明しても、嘘つきとののしられ、村人からも嫌われるようになった。
婚約がご破算になったことを貴族に責められた父親は酒に溺れ、母親は心労のあまり病に倒れた。

そして・・・・

(戦乱の音)

(悲鳴)

(火災の音)

暗黒の魔女が起こしたブリティン侵攻の戦乱に巻き込まれて、家は焼け落ち、両親も、貴族も、村人もみな死んでしまったのじゃ・・・

(波の音)

セニック「キャロン・・・・」

セニックはひとりぼっちになった。
唯一の肉親は、白いイルカになったキャロンだけじゃった。

セニックはブリタニアの港町を渡り歩いた。
そして、船員や荷役の仕事をしながら、海の女神に会う方法を聞いて回ったんじゃ。

じゃが、その方法を知るものなどおらんかった・・・。
時にはバカにされ、時には騙されて金品を巻き上げられた。

セニック「なぜ・・・、なぜ俺だけがこんな目に遭わなければならないんだ・・・」

セニックの心は大人たちへの不信感であふれだした。
セニックは働くのをやめ、盗みを働くようになった。
稚拙じゃが、大人への反逆だったのかもしれんのう・・・

・・・数年が過ぎた。
セニックは青年になった。
そして、お尋ね者にもなっておった。
あちこちで盗みを働き、人を危めた結果じゃった。


(酒場の喧騒)

男「ふーん。」

老船頭「なにがふーんじゃ!」

男「まあ、よくあるおとぎ話だよな」

老船頭「おとぎ話じゃないぞ」「わしは、そのセニックとやらに遭ったことがあるんじゃ」

男「ホントか?!」

老船頭「サーペンツホールドでな」「わしを後ろからこん棒で殴って、財布を奪って行きおった・・・」

男「そりゃ、ひどい目に遭ったの間違いだろ・・・」

老船頭「逃げながらあやつが振り向いた時、わしゃ確かにあの青い瞳を見たんじゃ」「いや・・・見たような気がする」

男「おいおい・・・」


(街の賑わい)

セニックは、他の無法者と同じく、バッカニアーズ・デンに流れ着いていた。
無法者が集まる街には、賞金稼ぎもやってくる。
ここもセニックにとって安住の地ではなかった。
夜の闇にまぎれ、すり切れたアンブラローブのフードを深々とかぶり、目立たぬように桟橋の隅の木箱の間に身を隠した。

(波の音)

セニックは海を見つめた。
今やキャロンとの再会だけが、セニックの唯一の希望じゃった。
妹の笑いさざめく声と、幸せそうな笑顔が思い浮かぶ瞬間だけが、セニックの幸福な時間じゃった。

ふと、人の気配を感じ、セニックは隠し持ったダガーに手をかけた。

謎の老人「・・・おぬし、海の女神に会いたいのか」

灰色のローブを着た老人がセニックの前に立っておった。

セニック「なに?!知ってるのか!?」

謎の老人「会ってどうする?」

セニック「妹を返してもらう!」

謎の老人「無駄なことだ」

セニック「無駄だとっ!?」「俺は・・・」

謎の老人「お前の妹は自ら望んで海に還ったのだ」「海の女神は、それを助けたに過ぎぬ」

セニック「お前・・・何者だ!」

謎の老人「命はみな、海で生まれて海に還る」

老人はそういうと、桟橋の先に向かって歩き始めた。

セニック「まっ、待て!!」

セニックは老人を捕まえようと転がるように木箱の間から飛び出した。
老人はどんどん桟橋の先へと歩いて行く。
その先は、海じゃった。

老人はそのまま歩き続けた。
そう、老人は海の上を歩いておったんじゃ。
10メートルほど海の上を歩いた老人は、呆然として見つめるセニックの方へ向き直った。

謎の老人「明日の夜、あの夜と同じく月が一つになる」「あの岬に行ってみるがよい」

老人はそういうと、ゆっくりと海の中に沈んでいった。

セニックは走った。
明日の夜までに、あの岬にたどり着かねばならん。
魔法も使えず、ムーンゲートを通ることも出来ない犯罪者のセニックにとって、ブリティン近郊のあの岬はあまりにも遠すぎる。
セニックは港で小舟を奪った。
そこでまた、何人かの人を危めてしまったが、気にしている暇はなかった。
一晩中オールをこぎ続けてセニックはやっとの思いで大陸へと渡った。
そして、ひたすら走った。
女神が現れたあの岬。
キャロンが白いイルカになったあの岬へ・・・

セニックが岬にたどり着いたのは、夕暮れ時じゃった。

セニック「月は・・・」

薄暗くなり始めた空に、少しずつ近づくふたつの月が浮かんでおった。
セニックはじっと月を見つめ続けた。

どのくらいの時間が流れたのじゃろう。
ふたつの月はついにひとつに重なり合った。

薄赤く染まった月の光の中に、ぼんやりと霞がかかったかと思うと、やがて人の形が現れてきた。

セニック「海の・・・女神」

女神はセニックに目をやった。
じゃが、その目はキャロンを見た時のやさしげな目ではなかった。

海の女神「醜き人間。汚れた魂のけもの・・・」

セニック「妹を・・・妹を返せ!!」

海の女神「あの子は海に還ることを望んだ」「だから迎え入れた」

セニック「そんなはずはない!」

海の女神「わからぬのか」「あの子はお前に迷惑をかけまいと海に還る道を選んだのだ」

セニック「でたらめを言うな!」「それで俺がどんな目に遭ったか・・・」「妹を返せ!」「返せーっ!!」

セニックはわめき散らしてダガーを振り回した。

海の女神「愚かなけものよ・・・」「あの子を追い詰めたのは己自身だというのがわからんのか・・・」

女神は眉をひそめて目線をそらしたが、なにかに気づいたらしく、また、セニックを見つめ始めた。

海の女神「けものの魂に・・・・一筋の光が見える」

セニック「なっ・・なに?」

女神は目を細めた。

海の女神「妹を愛する兄の心の、やさしさの光・・・」

女神は、そっとセニックを指さした。

海の女神「機会を与えようぞ」「お前も海に還るがよい」「そして自分で探すがよかろう」

セニック「俺を・・・イルカにするのか?」

海の女神「お前の心は醜い」「その汚れた魂では美しき姿で海には還れぬ」

セニック「・・・それでも」「キャロンを探せるのなら・・・」

女神は一瞬の笑みを浮かべると、セニックを招き寄せた。
セニックの体は淡い光に包まれ、女神の元へと歩み寄った。
女神はセニックに触れた。
その瞬間・・・

セニック「うわぁぁぁ1!」

セニックの体は黒ずみ、何度も歪んで変形していった。
やがて醜いシルエットを浮かび上がらせ、吠えた。

ぐぉぉぉー(シーサーペントの吠え声)

海の女神「なんと醜いけものであろう・・・」

セニックはシーサーペントに姿を変えた。
そして、女神の元から海へと落下していった。

(重量物が海に落下した音)

シーサーペントはしばらくあたりを狂ったように泳ぎ回っていたが、やがて沖の方へと去って行った。

女神は空しげにうつむくと、霞が散るように次第に姿を消していった・・・


(シーサーペントの吠え声)

シーサーペントになったセニックは、喜んでおった。

醜い姿でも構わない。
自由に海を泳ぎ回れる。
これでキャロンを探すことができる。

じゃが、広い海原で二人が出会うのは奇跡に近かった。
セニックはそれでも必死で白いイルカの姿を求めて彷徨った。

どすっ(矢の刺さる音)

セニックは背中に痛みを感じた。
水上に目をやると、そこには一艘の船が浮かんでいた。
船の上にはふたりの男が立ち、弓を構えてこちらを狙っていた。

ぐぉぉぉー(シーサーペントの吠え声)

セニックの怒りの炎は燃え上がった。
矢を射られたことへの怒りではなく、妹を探すのを邪魔された怒りじゃった。
人間はいつも彼の邪魔をする。彼の言うことに耳を貸さず、彼を疑い、彼を騙し、彼をバカにした。
人間は彼の敵以外の何者でもなかった。

(シーサーペントの吠え声)
(船の破壊音)
(悲鳴)

セニックは、身も心もモンスターになってしまった。
セニックは行く先々で船に襲い掛かり、殺りくを繰り返した・・・

(神秘的な音)

桟橋でセニックが出会った老人と海の女神は、空の上からその惨劇を見つめておった。

謎の老人「・・・やはりこのようなことになりもうした」

海の女神「一筋の光の輝きに希望を託したが・・・やはりけものであったか」

謎の老人「このまま闇の底に落ち込めば、あやつは妹までも食い殺すでしょうな」

海の女神「あの子は肉体も魂も清らか」「だから美しい姿で海に還ることができたのだ」

謎の老人「御意」

海の女神「その兄は、あらゆる怨念と確執を腹に溜め込んで魂を腐敗させた」「生きていれば楽

しいこともあったはずなのに・・・」

謎の老人「生きるものにとって最大の不幸は、自分を不幸だと決めつけることに他なりませぬ」


(イルカの鳴き声)

・・・それからまもなく、ニュジェルムパレスの池に、白く美しいイルカが現れた。
愛を成就させる不思議な力を持つイルカじゃった。
言うまでもなく、セニックの妹キャロンじゃ。

一方、シーサーペントになったセニックは、女神の力で引き離されたとも知らず、いまでも妹キャロンを探して海を彷徨っているそうな・・・・


(酒場の喧騒)

老船頭「・・・どうじゃ」「悲しい物語じゃろ?」

男「ぐー・・・」

老船頭「なんじゃい!寝とるんかい!!」「・・・それじゃ、残りの酒はもらって行くぞ」「うへへへへ」


(ドアの開閉音)

(波の音)

(足音)

遠くから(シーサーペントの鳴き声)

老船頭「・・・お?」

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(あとがき)

船頭の話第二シーズンは、投稿作品を提供していただくことになり、その1作目となります。

作者はUO漫画界でもっとも有名といえるあの方。切なくも無情な物語となっています。

今回は、子供役の女性の声を思いっきり加工し、幼女の声として表現しています。この声には萌えファンが多くついたという噂も・・・・・・もちろん一回限りではもったいないので、後日この幼女声は復活するのですが。

尚、この記事の掲載に関しては、作者の許可を頂いております。

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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小説版 「船員は良い酒を好む」

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「船員は良い酒を好む」 作:ジニー
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「今日はもう店じまいだよ、でてってくんな」
まだ1杯しかのんでいないというのに、酒場の親父が男を追い出しにかかったのはまだ宵の口だった。
「なんだよ、さっき座ったばっかりだぞ。まだ椅子も温まっちゃいないじゃないか」
「悪いねお客さん、外がちょっと物騒になってきたようなんでね。お客さんも早く船にもどったほうがいいよ」
確かに日が暮れているというのに、店の外をなんども軍馬が通ったり、鎧と剣が触れ合うがちゃがちゃという音が気になっていたりはしていた。
「今夜は大きな戦いが起こるかもしれない。こわくって店なんか開けていられないよ。頼むから帰っておくれ」
「ラヴァ戦か・・・・・・仕方ないな。引き上げるとしよう」
「戦争が落ち着いたら、ゆっくりきておくれな」
男が酒代をテーブルにおいて店をでると、店主はそそくさと看板を下ろして明かりを落とした。
初夏の暖かい夜で、霧のような雨が街を覆っていた。ぼんやりとした街路灯の明かりが、ラヴァの戦場に向かって走る軍馬に乗った戦士の一団を照らしていた。
「やれやれ、物騒なときにきちまったな」

男がサーペンツーホールドの港に着いたのはその日の午後だった。
積んできた荷物を降ろす作業で、他の船員は船に残っていた。
男は、食料やらの必要物資の手配のために、一人上陸したのだが、仕事を終えてさあ酒場で楽しもうと思ったところで早々に追い出されてしまったのだ。
「まだ飲み足りないな。船には大して酒は残っていなかったから、もう全部飲まれちまっただろうなあ」
男がサーペンツホールドにくるのは初めてではなかった。
確か城壁の外にも、小さな酒場や宿屋があったのを思い出し、そちらの方向へ向かってみた。
軍馬の一団は、さっきのが最後だったのか、もうすれ違うこともなかった。もう戦闘が始まっているのかもしれないが、男にはどうでもいいことだった。
記憶にあった酒場も宿屋も、明かりが消えてしんとしていた。
中の明かりは外にもれないように、そして余計な音を立てないように気を使っているのだろう。戦争という嵐は、隠れてやり過ごすのが一番なのだ。
霧のような雨は、男を不快にさせるどころか、むしろなにかに包まれているような、ほっとしたような感覚にさせていた。
思い当たる場所をしばらく歩いて、あきらめようかと思った頃、集落の一番はずれに明かりがついている窓をみつけた。
看板らしき板が入り口にかかっているので、宿屋か酒場だろうと、男は近寄っていった。
以前に来た覚えは無いが、窓から中をのぞくと、酒場のようなつくりだった。
背の低い娘がひとり、後姿で立っているのがみえた。客はひとりもいないようだった。
あるいはここも、すでに客を追い出して閉めるところなのだろうかと男は思ったが、ためしに声をかけてみようと入り口に手を伸ばした。
ドアは内側から開けられた。
「おかえりなさい、遅かったのね」
窓越しにみた背の低い娘がドアを開けたのだった。
娘は目の前に男が立っているのを見て、うれしそうに見上げて顔を見て、そしてがっかりしたようだった。
「待ち人じゃなくて悪いな」
男がいうと、
「ううん、いいの」
と、微笑んだ。
年のころは17,8というところだろうか。
女というよりは、まだまだ少女らしい愛らしい娘だ。
「ここは酒場かい?」
「ううん、酒場はだいぶまえにやめてしまったの。でも人を待っているので、明かりはともしているのよ」
男が店内をみまわすと、今にも営業できそうなくらいこぎれいにされていたし、カウンターのむこうには酒瓶も並んでいた。
「せっかくきたんだから、飲ませてもらえないかね」
娘は一瞬きょとんとして、それからくすくすと笑った。
「お酒がすきなのね。いいわ、ひとりで待っているのも暇だし、話相手をしてくれるなら飲ませてあげるわ」
つまみは何もないけれど、といってついでくれた酒は、すっきりとした飲み口で、なかなかいいものらしかった。
「この酒はうまいな」
娘はにっこりと笑った。
「お父さんはお酒の銘柄にはこだわっていたから。わたしはお酒は飲めないけれど、きっと美味しいわよ」
「おやじさんがいるのかい。今日はでてこないのかい?」
「お父さんは、でかけているの。もう何日も帰ってこないの」
娘はくったくなく笑顔で言うのだが、男は不安を感じた。
この街では、たまに戦争にまきこまれたり、または戦士に面白がってもてあそばれたあげくに、殺される市民がいたという噂も先の酒場で聞いたのだ。
こんな若い娘をひとり残して、何日も戻らないというのが不吉なことがあったのではないかと男は思った。
「何日もひとりで待っているのはあぶなかろう。身を寄せられる親戚は近くにいないのか」
娘はむっとした顔をした。
「子供あつかいしないで。私は一人前よ」
男は素直な娘に可笑しくなった。ぷっとほほを膨らませて不満げにしている娘は、子供にしか見えなかったからだ。
「そうか、あんたは一人前の女だって言いたいんだな」
「そうよ、ちゃんと恋人もいるんですからね」
かわいい娘だと男は思った。あくまでもかわいいのであって、男にとってはまだまだ子供であったのだが。
「あんたの恋人というのはどんな男なんだ」
娘はうれしそうに話し始めた。
「彼はね、腕のいい漁師なの。お父さんの酒場に魚をおろしていたのよ。それでね、この街は物騒になったから、よその島にいこうって、私とお父さんを連れていってくれるって約束してくれたの。お父さんと彼は、私たちを乗せてくれる船を捜しにいったのよ。こんなご時勢だから、乗せてくれる船がなかなか見つからないのかもしれないわ」
変な話だな、と男は思った。
こんなご時勢だからこそ、島を脱出する客を断る船は少ない。いくらでも高値を請求できるから、そういった客は美味しいのだ。
船に客を乗せる余裕が無い限りは受け入れるはずだ。
ましてやこの島は、生産物がほとんどないので、帰りの荷はほとんどない。
ぼったくれる客を断る船はまずないはずだ。客がよほどの貧乏人であっても、いくばくかの乗船料と船での労働を条件に運んでやったほうが、あがりになる。
「お父さんたち、早く帰ってこないかなあ」
娘は父親と恋人の帰宅を信じて疑わないようだったが、男は彼らはもう戻ってこないのではないかと思った。

酒瓶を5,6本空けると、男も酒に満足してきた。いつもならひとりで3本も飲めばいいくらいなのだが、いい酒というのはいくらでも飲めるらしい。
男の航海での与太話を、面白そうに娘は聞いていた。いい気持ちになって辞するときに、男が娘を抱きしめようとすると、娘はするりとよけて笑った。
「いやよ、おじさんたらものすごくお酒臭いんだもの」
「そうか、俺はおじさんか」
男は笑い、まだ小雨が降っている外へ出た。
「おじさん、港にお父さんか彼みたいな人がいたら、一度戻るように伝えてね」
「ああ、わかったよ」
男は軽く手を振って、娘の酒場をあとにしたものの、娘の父親も恋人も、もう生きてはいないだろうと思っていた。
なんといっても、小一時間歩けば港には着くのだ。
たとえ乗せてくれる船が見つからないとしても、何日も帰らないはずがない。
「気の毒にな」
まだ消えない窓の明かりを振り返って男はつぶやいた。
しかし、そんな不幸な娘はどこにでもいる。男にはどうしてやることもできなかったし、どうにかしてやる気もなかった。

船に戻ると、案の定酒は飲みつくされていた。船に残された船員たちには到底足りない量だったので、いつもの倍は飲んだという男は仲間にうらやましがられた。
男は、翌日の夜には仲間を案内するからといって落ち着かせたのだった。
「飲みすぎで二日酔いになりやがれ」
船員は嫌味がましく責めたのだが、翌日男はすっきりとした気分で目がさめた。上等の酒は悪酔いも二日酔いもしないのだろと、男はとても得をした気分だった。
翌朝、前日に男が手配した物資が運び込まれると、数日滞在の予定を変えて、船長は早々に出航をきめた。
戦争の様子がかなり危険だと判断したからだった。
出港準備であわただしくしながらも、男は港に娘の父親や恋人らしい男を探してはみたのだが、やはりみつからなかった。

男の船は次の寄港地に到着した。
潮の良い航海のあとだったので、船員はみんなで機嫌よく酒場に繰り出した。
「そういえば、サーペンツホールドでは約束を反故にされたな」
ひとりの船員が男にいった。
「仕方ないだろう、船長が出航をきめちまったんだから。次に寄ったら連れて行ってやるよ。もっともそのときにその娘がいるとは限らないがな」
男は娘が島をでるつもりで父親と恋人を待っているのだと話した。
「でもお前の考えだと、父親と恋人はもう死んでいるんだろう。だったらいつまでもその娘は待っているんじゃないのか」
「そうかもしれないな、でもだったらなおさら、俺はあの娘には会いたくないなあ」
「お前がいかなくても俺はいってみたいな。場所はどこになるんだい」
仕方なく男が娘の酒場の場所への道順を説明していると、グラスと酒瓶が床におちて割れる音が響いた。
男たちの後ろのテーブルのかたづけをしていた給仕ががたがたと震えながらひさまずいていた。
「どうしたんだ、なにかの発作か」
男たちが給仕を支えて椅子に座らせた。
中年の給仕の左腕は、肘のしたで切断されていて、義手がついていた。
給仕は義手で、男をさすと、青ざめた顔をむけた。
「その娘、自分の名は名乗ったか」
「いや、名は聞かなかったな」
給仕は、娘のなりを詳しく話せと、つかみかかった。
「落ち着けよ、あんたあの娘を知っているのか」
娘の背が低かったことや、髪の色、目の色、覚えている限りを男が話すと、給仕はがっくりと椅子に倒れこむように腰をかけた。
給仕はぶつぶつと、同じ言葉を繰り返していた。
「死んだはずだ。死んだはずだ。死んだはずだ・・・・」
「なにを言っているんだ」
男が給仕の両肩に手をかけると、給仕は男に顔をむけた。その目はかっと見開かれていた。
「その娘は俺の目の前で死んだはずだ」
男はもしや、と思いついた。
この給仕は、娘を残してあの島から抜け出した父親なのではないかと思ったのだ。
だが、給仕はさらにつぶやいたのだ。
「あれから30年経っているというのに、あの娘はまだ、自分が死んだことに気がついていないのだな」
急に給仕が笑い出した。狂気にみちた笑い声だった。
酒場の客が全員、なにごとかと集まってきた。
酒場のおやじが慌てて、給仕を裏に連れて行ってしまった。
「なんだったんだ」
「わからん、あいつは頭がおかしいんじゃないのか」
客たちはそれぞれに元のテーブルに戻って、また飲み始めた。

酒場の親父が戻ってきて、給仕が粗相したあとをかたずけはじめたので、男は声をかけた。
「おやじ、あいつはどうしちまったんだ」
「ああ、お客さん、気分を壊してしまってすみませんでした」
「いや、いいよ、あいつのことを教えてくれないか」
男も他の船員も、おやじを責めないどころか興味深々だったので、おやじも気をよくしたようだった。
「いえね、あの男は、サーペンツホールドの出身なんですよ。30年ほど前にでてきたって話なんですけどね。なんでも、恋人とその父親と一緒に、こっちへ渡ってくるはずだったそうで。あんたたちは若いから知らないでしょうけど、30年前のあそこの戦争もひどいもんだったんですよ。なにしろ街のなかだろうが港だろうがお構いなしに荒れてましてね、船を港の桟橋につけられないほどだったそうですよ。
あいつは連れと一緒に小船を出して、沖に泊めた船に向かったそうなんですが、途中で恋人が揺れた小船から海に落ちましてね。海蛇に飲まれちまったそうなんですよ。娘の父親は、娘を助けようと海に飛び込んでやはり海蛇に食われてしまったそうで。
あいつは海蛇に半分食われた娘に、左腕にしがみつかれたそうでね。そりゃね、引っ張ったって、娘は半分食われちまってたんだから、助けることはできないどころか、やつ自身も一緒に飲み込まれちまったろうってのは、わかりますよ。
あの男は恋人を見捨てたわけなんですよ。このままじゃ自分も引きずり込まれちまうってね、自分で腕を叩き切って逃げてきたそうですよ。
ひどい痛みに耐えながらも、あいつは目当ての船にたどり着き、こっちに渡ってきたんですよ」

「それが30年も前の話だって言うのか」
男はおやじに言った。
「俺が会った娘は、17、8の若い娘だったぞ。話もしたし、酒も飲ませてもらった」
船員のひとりがむっとして親父にいった。
「いくらなんでもひどい作り話だ。気がそがれたわ」
他の船員も言った。
「そうだな、おおよそあいつに捨てられた娘が、よく似た娘を産んだんじゃないのか」
客の機嫌が悪くなってきたと見て、親父が慌ててとりなそうとした。
「まあまあ、あの男はちっと頭がおかしいのかもしれませんね。もとは漁師だって聞きましたけど、船に乗るともどすようになっちまってね。それでおいらの店で給仕をしてるってわけなんですよ。きっと心のどっかが壊れてるんですよ。なにしろいつも夢の中にその恋人があらわれて、早く帰ってきてと訴えるとおびえるんですからね。」
騒ぎのお詫びにと、酒代をだいぶんまけてもらって男たちは酒場を後にした。

船に戻ってしまえば、一度会っただけの娘や給仕のことなどはどうでもよくなるもので、男もそんなことはすっかり忘れて日々を過ごしていた。
思い出したのは10年も経って、やっと戦争が落ち着いたサーペントホールドに立ち寄ったときだった。
真冬だったので、話を覚えていたほかの船員はいたものの、わざわざ遠い場所までは行きたがらなかった。
男は、娘がもういなくなっているか、もしまだ居るのなら所帯を持って子供の何人かも生んでいることだろうと、どちらにせよ軽い好奇心で娘の酒場に向かった。
寒い夜だったが、雪が降るほどではなかった。ほろ酔いの気分で、頬に当たる冷気を楽しみながら男は歩いた。
道のりは覚えていたので、目当ての窓の明かりはすぐにみつかった。
10年前と変わらないように見える窓の向こうに、後姿の女が立っているのが見えた。
背格好は、あの娘のように思えた。
男はドアを開けようと、入り口に回った。
ドアは中から開けられ、女が顔を出して言った。
「おかえりなさい、遅かったのね」
男は全身が、魔法にかけられたかのように動けなくなるのを感じた。
娘は10年前と同じ、17,8の幼い姿だったのだ。その顔も着ている服も、そして何よりも涼やかな声が、10年前の記憶とまったく同じだったのだ。
男はからからに乾いた喉に、なんとか生唾を飲み込むと「すまんが家をまちがったようだ」と言うと逃げるように背をむけた。
そして振り返ることなど怖くてできないままに、船に戻って震えながら、寝付けないままに朝を迎えたのだ。

朝になり、ひどい顔色の男をみて船員たちがびっくりして聞いた。
「どうしたっていうんだ。まるで生気を抜かれたようじゃないか」
男は昨夜の出来事と、10年前のあの給仕の話をした。
船員の中にはそのとき一緒に飲んでいたものもいたので、これからその娘の酒場にいってみようということになった。

男は寝不足で、おまけに昨夜の寒さのせいかあちこち痛む身体で、仲間を案内した。
娘の酒場、いやたぶん酒場だった場所は、もはや家とはいえない廃屋が残っているだけだった。
何本かの柱と傾いた屋根、半分崩れ落ちた壁、かつてここには建築物があったのだとわかるだけの囲いのなかに、テーブルと椅子らしきものがあった。
テーブルの上には、かけたグラスが置いてあり、たまった雨水が凍って、朝の光に輝いていた。
男たちは唖然とし、しばらくお互いに顔を見合わせたあとに笑い出した。
「おまえ、雨水を酒だと思って飲んだのかよ」
「どうやらそうらしい、どうりで二日酔いにもならないはずだ」
「次の日に腹を壊さなかったか」
「特にそんなことはなかったな」

船員たちは笑いながら船に戻り、雨水を酒といつわって幽霊娘に飲まされた間抜けな男を、しばらくは酒場の与太話として楽しんだ。

                                                    (了)


*************************************
(あとがき)

こちらは脚本版のあとに、こうだったほうが良かった、と思いながら書いてみたものです。
読んでいただきありがとうございます。
暇つぶしになったでしょうか?

ラジオドラマの脚本は、時間に追われることがあったり、放送時間が何分くらいになるかとか、声優は何人確保できるとかで作っていくので、とにかく登場人物の制限がっ、きっつっ、という事情があるんです。

そのストレスをこのような形で発散するんですね。

全部ではありませんが、こういった形で別バージョンもお楽しみいただければと(え?楽しくない? あっ、石投げないでっw)思います。

つか、趣味、ただの趣味だから。またジニーがなんかやってるよ・・・・・と、生暖かく見守っていただけるとありがたいです。

皆様の忍耐に感謝します^^ノ

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船頭の話 第九話 「歌って恋して」

船頭の話 第九話 「歌って恋して」
               原作脚本:ジニー
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「あー!徳之島であっしが出会った女の話をしましたっけ?
極上のアップルパイを作る人ですぜ。なに、つまらん話でさ」

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徳之島のゼントに、すばらしいアップルパイを出す店があるんですよ。

それはもう何度も食べたくなる味でね。

アップルパイを作っているのがまた可愛い娘でね。

娘はいつも歌を歌いながらアップルパイを作っていました。

<ボカロ>アップルパイの歌
 

アップルパイおいしいおいしいアップルパイ
生地がふわさくリンゴにカラメルたっぷりと
外はカリッと中はジューシークリームそえて
何度も食べたいアップルパイを召し上がれ!


 
明るい歌声も評判で、娘目当ての男客も多くて、店は大繁盛でした。

ところがね、甘いものを食べ過ぎると虫歯になるじゃないですか。

ブリタニアでは、腕のいい歯医者を探すのが大変だというのは有名な話ですけれど、ゼントにはとても良い腕の歯医者がいるんです。

わたしは女だてらに、船頭をしていたんですけど、女だっていうとあぶなかっしいとかいわれたりして信用を得るのが難しくて、商売にならないんですよ。

しょうがないのでお客さんをまちながら、ボーっとしているうちに、釣りが趣味という歯医者の先生と知り合いました。

最近ではアップルパイを食べ過ぎてひどい虫歯がなかなか治らない患者たちが通院して忙しいんだという先生の話があって、受付などの雑用で、やとってもらったのです。

先生は、しばらくアップルパイを食べるのをやめるように伝えるのですが、男たちは娘に会いたいものだから、ちっともいうことを聞かないのです。



忙しくなったせいで、先生の逃避ぐせがでましてね。

ええ、仕事をサボって釣りにいったままなかなか帰らないことがが多くなってしまって。

戻らない先生を待って、待合室で男たちが騒いでいるんですよ。

男1
「イタイ、歯が痛いよ。先生はまだ戻らないんですか?」

男2
「もどったら、俺の治療が先だからな。俺のほうが先に待っているんだし、痛みも俺のほうがひどいんだ」

男3
「虫歯のひどさなら俺のほうが上だよ。おまえらよりたくさんアップルパイを食べているんだからさ」


なんでしょうね、この虫歯自慢。

「あなたたちね、アップルパイを食べるのをやめれば、痛みだってなくなるのよ。いい加減にしなさいよ」

男1
「だってあの娘が作るアップルパイは最高なんだよ」

男2
「そうそう、あの娘の歌も最高にいい」

男3
「あの娘、かわいいよなあ・・・・」


恋をした男というものはなんとも表現しずらいといいますかなんといいますか、どうしようもありませんね。

そこで私はいいことを思いついたのです。

「ねえ、アップルパイ以外のパイを作ってもらえばいいんじゃないの? 甘くないパイだったら、食べても虫歯にならないんじゃない?」

男1
「甘くないパイなんてあるのか」

男2
「洋ナシのパイとかか?」

男3
「他の果物で作っても甘いんじゃないのか」


「くだもので作るんじゃないわ。魚を材料にした魔法のフィッシュパイっていうのがあるわよ。甘くないうえに、特別な力を与えてくれるパイだって話だわ」

男たちはそんなパイがあるならと、娘にお願いにいったんですよ。






「なんて素敵!私も魔法のフィッシュパイを作ってみたいと思っていたのよ!

でもね、魔法のフィッシュパイを作るには、特別なお魚が必要なの。

必要なお魚を釣ってきてくれたら、すぐにでも作ってあげるわ」

<ボカロ>フィッシュパイの歌



魔法のパイを作るなら魔法のお魚集めてきて
サマードラゴンフィッシュとブルフィッシュ
ユニコーンフィッシュパイも作ってみたいわ
美味しいフィッシュパイ食べさせてあげるわ


娘は極上の笑顔で男たちに特別な魚がどこでとれるのか、魔法のフィッシュパイにどんな特別な力があるのかを説明しました。


サマードラゴンフィッシュは、トラメルとフェルッカのダスタードという洞窟の水場に住んでいて、パイにすると魔法のダメージが強くだせるということでした。

男1
「俺は魔法使いだからな。ぜひそのパイを食べてみたい。サマードラゴンフィッシュは俺がとってこよう」

ブルフィッシュは、マラスのラビリンスという洞窟の水場に住んでいて、パイにすると武器のダメージが強くなるということです。

男2
「俺は戦士だからな。ぜひそのパイを食べてみたい。ブルフィッシュは俺がとってこよう」


そしてユニコーンフィッシュは、イルシェナーのトゥイスティッドウィールドという洞窟の水場に住んでいて、パイにするとスタミナがつくそうです。

男3
「俺は元気だけがとりえだからな。ぜひそのパイを食べてみたい。ユニコーンフィッシュは俺がとってこよう」


「うれしいわ、たのしみにまっているわね」

娘の笑顔に3人の男たちは鼻の下を伸ばしっぱなしでした。


歯医者の待合室でも、男たちは誰が一番さきに魚を届けることができるかと、わいわいとはしゃいでいました。

そして一番先に魚を届けた男が、娘に告白するという約束になったようです。

先生
「おもしろい話だが、おまえたち大事なことを忘れているぞ?」

先生がいうには、3種類の魚は、どれも腕のたつ釣り人でないと絶対に釣ることができないそうなのです。

先生
「まあ、わしくらいの伝説級の釣り人なら、わけもなる釣れるだろうがね。」

伝説級の釣り人になるには、相当の時間がかかるということで、困った男たちは先生に釣ってもらう約束をとりつけました。

先生
「洞窟で釣りをしたことはないので、楽しみだな」

先生も乗り気でした。

そこで問題になったのは、どの洞窟にどの順番で行くかということでした。

なにしろ、一番最初に魚を届けた男が、娘に告白する権利を得るのですから、男たちは必死です。

結局サイコロを振って順番を決めたのでした。




先生
「虫歯の治療はおわったけれど、治療費はいつ払ってくれんだ?」

男たちは、釣りの約束が全部すんだら、すぐにでも払うからと、先生を連れ出したのでした。





男1
「一番は俺だ。ダスタードの洞窟は、トラメルとフェルッカにあるが、水場でモンスターがいないのはフェルッカのほうだ。案内するからさくっと釣ってくれ」

入り口近くのドラゴンを魔法で華麗にさばいて、男は先生を奥の水場に案内しました。

先生
「ほうほう、これがダスタードのダンジョンの奥か。それでは早速釣るとしよう」

ところが、目当ての魚はすぐには釣れませんでした。

男1
「先生、まだかな。すぐに釣れるんじゃなかったのか」

先生
「そうせかすな。わしは伝説級の釣り人だが、サマードラゴンフィッシュもただの魚ではないのでな。しかしちょっと飽きたな。少し近くを見学してきてもいいかね」

男1
「かまわないよ、気分転換して次はかならず釣ってくれ・・・・て、何をしてるんだ、先生!」

先生
「いやほらここにある骸骨の置物、なんだかそそられないか?」

男1
「それにさわったらだめ・・・・あああ。さわっちまった」

先生が骸骨に触ると、大量の蛇とリザードマンが現れました。先生は、魔物を呼び出す祭壇の骸骨に触ってしまったのです。


先生
「なんじゃこれは。すまないな、出直すかい?」

男1
「一度引き上げたら、順番が最後になってしまう。俺が先生を守るから、急いで釣ってくれ」

男は先生を守って、よってくるモンスターをかたっぱしから魔法の炎で焼き殺しました。

モンスターの数は一向に減らず、あとからあとから押し寄せてきます。おまけにだんだんと強いモンスターが現れてくるのです。

男1
「先生まだか、まだ釣れないのか」

先生
「む、手ごたえがあるぞ・・・・・よし! これぞまさしくサマードラゴンフィッシュだ」

男1
「よし、いそいで帰ろう。ああ、まずい、グレータードラゴンの群れが現れた、先生早く逃げろ」

先生
「逃げろといっても、この魚かなりの大物でな、重いったらないわ」

男は重い魚をかかえてよろよろと洞窟の入り口に向かう先生をかばいながら、なんとか洞窟から抜け出しましたが、ドラゴンが吐くブレスで、ひどいやけどを負っていました。

先生
「やれやれ、だいじょうぶか」

男1
「こんな情けない姿をあの娘に見せるわけには行かない、先生、俺は傷を治したらいくから、先に魚を届けてくれ」

男は一刻でもはやく直すために、魔法の治療をうけるといってウインドへとむかいました。



先生はサマードラゴンフィッシュを娘に届けると、次の男と一緒にラビリンスに向かいました。



男2
「俺は戦士だからな、たいていのモンスターにはやられはしないさ」


ラビリンスの水場には、凶悪なモンスターが大量にいましたが、男はゆうゆうと倒しながら

男2
「先生、大物を釣ってくれよ」

と、声をかけるのでした。

戦士の三日月剣は、群がるモンスターを一瞬に切り刻み、その雄姿は先生でもほれぼれするものでした。

先生
「お、手ごたえがあるぞ、よし、これがまさしくブルフィッシュだ」

戦士は5,6匹のレプタロンに囲まれながらも涼しい顔でこたえました。。

男2
「そうか、こいつらを倒したら、戻ろう」

そのときでした。なにもないところから矢が複数飛んできて、男を貫いたのです。

矢が放たれたと思われた場所に、複数の人影が現れました。



男2
「ちくしょう、PKか。先生逃げろ」

ダンジョンには、戦士の高級な装備を狙って、PKと呼ばれる追いはぎが時々現れるのです。

先生は魚を抱えて必死に外へと逃げ出しました。後ろには、男とPKたちとの戦いの喧騒が聞こえます。

男2
「なめるなよ。おまえらごときにやられる俺ではないわ!」

ダンジョンの外で先生が心配していると、男が深い傷をおってふらふらと現れました。

男2
「Pkたちは撃退したが、無駄な傷を負ってしまった。こんな情けない姿では娘の前にはいけない。俺のかわりに魚を届けてくれ。あの男よりも先に傷を治して、俺が娘に告白をするんだ」

男は温泉で療養するといってブリティン郊外に向かいました。


先生は、ブルフィッシュを娘に届けると、最後の男とトゥイスティッドウィールドに向かいました。




ここにモンスターがたくさんいました。特にチェインリングという名の蝶々は、かわいい姿をしているのに、近寄ると魔法で攻撃してくるたちが悪いモンスターでした。

男3
「俺は脚が早いからな。蝶々は俺がおとりになって先生から引き離すから、その間にユニコーンフィッシュを釣ってくれ」

元気がとりえといっただけあって、男はモンスターをひきつれてはなれては、すばらしい俊足でまいて戻ってを繰り返し、先生の安全を守りました。それを何回となく繰り返すのです。

先生
「たいしたスタミナだな。ぜんぜん息をきらしていないわ。お、この手ごたえは・・・・これはまさしくユニコーンフィッシュだ」

男3
「よし、急いで帰ろう」


先生
「おい、あそこにいる蝶々は、金色できれいだの」

男3
「なんてこった、あれはパラゴン蝶々だ。先生あれの姿が見えなくなってから逃げるんだ。パラゴン蝶々は、動いているものを見境なくおっかけるし、特別に飛ぶのが速いんだ」

男はパラゴン蝶々をひきつけると、ものすごい勢いで走り出しました。パラゴン蝶々は男に追いつく勢いで追いかけていきます。他の蝶々にくらべて、とても早く飛ぶ蝶々から、男はぎりぎりで逃げていました。

いままで涼しい顔をしていたのに、さすがに汗をかいているようでした。

先生は魚をかかえて、必死に洞窟の外へと向かいました。

洞窟の外で、先生は待っていましたが、一向に男が洞窟からでてきません。

心配になってもう一度洞窟の中をのぞくと、男がパラゴン蝶々を振り切れないまま、走り回っているのが見えました。

男3
「先生、先に帰って魚を届けてくれ。俺はもう少しかかりそうだ。汗だくでひどい格好だからな。着替えてから娘のところにいくよ」




「がんばれよー」

と、一声かけると、先生は先にゼントにもどって魚を娘に届けました。





全部の魚を受け取った娘はとても喜んで、歌を歌いながら魔法のフィッシュパイを作りました。

<ボカロ>魔法のフィッシュパイの歌

素敵な不思議なお魚でパイをつくりましょう
サマードラゴンフィッシュとブルフィッシュ
ユニコーンフィッシュ貴重なお魚で作るのよ
味はまかせてとっても美味しく作りましょう





男たちが、傷を癒して、こぎれいな格好で娘の店を訪れると、魔法のフィッシュパイができあがり、にぎやかな宴会が行われていました。

魚は順番どおりに届けられていましたが、娘のもとに男たちが戻ったのは一緒だったものですから、誰が一番に告白するかと少々もめたすえ、娘が一番美味しいといったパイの魚を担当した男が権利を得るとなったようです。

男1
「俺のサマードラゴンフィッシュパイが一番うまいな」

男2
「なにをいうか、俺のブルフィッシュパイのほうがうまいぞ」

男3
「ユニコーンフィッシュパイは味もいいが見た目も美しいぞ」

どのパイが一番美味しいかと、男たちは娘に聞きました。


「どのパイも上手に焼けたわ。これもあなたたちのおかげよ。ほんとうにありがとう。3人とも大好きよ」


・・・・・大好きよ<エコーリフレイン>

男たちの鼻の下がこれ以上はもう伸びないだろうというくらい伸びきったとき、娘がいいました。


「だいすきなあなたたちにも、祝福して欲しいの。わたし結婚しました」




男1
「え」

男2
「え?」

男3
「ええええええ?」

男1,2,3 はもり

「誰と!」

先生
「わしじゃw」

なんと先生がすっと現れて、娘の肩をしっかりと抱いたのです。

娘は先生の胸にそっとあたまを傾けて、これ以上はないだろうという可愛い笑顔を先生に向けました。

それはもう、祖父と孫娘のようなカップルですよ・・・・・・ふたりの結婚を聞いたときは、わたしも本当におどろきましたよ。

男1,2,3 はもり

「ありえない!」




娘は先生の手をにぎにぎしながら、にこにこと言いました。



「だってお魚を釣ってくれたのはこの人なんですもの。ちゃんとお魚に名前がついていたわよ?」


そういえば、伝説級の釣り人が釣った特別な魚には、釣り人の名前が刻まれるんですよね。


「聞けば聞くほど怖ろしいダンジョンへ、わたしのために釣りにいってくれるなんて、わたし、感動しちゃったの。三人ともこの人を守ってくれてありがとう。三人ともとっても大切なお友達だわ」

先生
「そうとも、三人とも身体をはってわしを守ってくれた、立派な若者たちだ。そうそう、お礼に、君たちの虫歯の治療費の払いは、いつでもいいからね」

先生、そこは、治療費はいらないじゃないんですね・・・・・・。

年が離れた夫婦ですが、娘がとても幸せそうなので、男たちは祝福するしかありませんでした。

泣きながら食べたフィッシュパイは、さぞかししょっぱかったことでしょう。


「ねえ、あなた。わたしもっといろいろな種類の魔法のフィッシュパイを作ってみたいわ」

先生
「まかしとけ、お前の友人たちがいつでも協力してくれるだろう」

先生は男たちをちらっとみると・・・・・・にやっと笑いました。

男たちは泣き笑いの顔になり、魔法のフィッシュパイを無理やり口に押し込んでいました。

女1
「あらあ、知的な魔法使いさんに、たくましい戦士さん、こっちの人はずいぶんスマートでイケメンじゃない」

女2
「あらほんと、あなたたちみたいな立派な男は、パイなんて食べてないで、あたしの娼婦館に女をたべに、い・ら・っしゃい♪」

あー、なんか娼婦館のマダムたちが、男たちに目をつけちゃったわ。

失恋を癒すには、新しい女性との出会いが一番だというし、これもひとつの出会いよね。

マダムたちにちやほやされて、男たちにも少し笑顔がもどったみたい。

男1
「はっはっは、そりゃあ魔法使いは研究を怠ったらだめだからな」

女1
「知的な男ってクールだわ」

男2
「はっはっは、そりゃあ戦士は身体の鍛錬を怠ったらだめだからな」

女2
「立派な筋肉だわ、すてきねえ」

男3
「はっはっは、・・・あれ、俺の相手はなし?」
 
オカマ
「あたしがお相手よ。おにいさん線が細くてきれいな顔ですっごい好みよ。スタミナ自慢なんですって?す・て・き! 期待しちゃうわあ」

男3
「うわあ・・・・」

ちょっと避けたい出会いもあったようですが、まったく出会いがないよりはいいってことで・・・・。

わたしはそんな男たちを見ながら、彼らはもう虫歯にはならないだろうなと思ったものです。


案の定、娘のアップルパイで虫歯になる男の患者はさっぱりいなくなり、先生は今度は本当に暇になって、のんびりと小船に乗って釣りを楽しむようになりました。

徳之島の海で釣れるコイも、魔法のフィッシュパイの材料なんですって。

娘は最近ではアップルパイではなく、コイのパイの歌をよく歌うようになりましたよ。

<ボカロ>コイのパイ


コイ恋してるコイ大好きコイのパイも大好き
素敵なダーリンのコイでパイを作りましょう
甘くないけど甘いお魚パイ味の秘訣は秘密よ
あなたも食べて恋をして素敵な恋をしてね

たくさんの人々が住まうこの世界で、人々は冒険をして恋をする。

娘は歌を歌いながらパイを作り、娘の夫はあくびをしながら釣りをする。

男たちは冒険にいそしみ、たまに女にちょっかいをかけたり、かけられたりしながら楽しく生きています。

わたしは、そうね、歯医者の助手も暇になってしまったから、船に乗って世界の海を旅してみよかしら。どこかで素敵な男に出会って、私も恋をしてみたいわ。



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(あとがき)
船頭の話 第一シーズン最終話です。

最終話ということで、いままでに参加していただいた方、また、ゲストもふくめて、可能な限り参加していただきました。

最後なので楽しい話をと思って、ボカロの曲も挿入してみました。

そういえば、回を重ねるごとに、ドラマの所要時間が長くなる傾向になってしまってね。

長い時間、リスナーのみなさんが飽きなければいいなと、どきどきしていましたよ。




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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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船頭の話 第八話 「月光」

船頭の話 第八話 「月光」

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「あー! ジェロームであっしが出会った女の話をしましたっけ?
月の光が大好きだからって、昼間に寝るんですぜ。なに、つまらん話でさ」

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わしの乗った船は嵐にあい、ジェローム沖で沈没した。

生き残ったのはわしひとりだった。

船を失い、仲間を失い、これからどう生きていっていいのか、悲しみと不安でいたたまれなくなっていた時期だった。

夜も眠れずに、寝静まったジェロームの街を徘徊していたときだった。

ひとりの娘が、宿屋の中庭にいるのをみつけたのだ。

月がきれいな夜だった。



娘は、いくつかの大きな銀の盆に水を張って、中庭に並べていた。

なにかの儀式をしているようにもみえる姿は、人ではないように見えた。




「あんた、魔女かい?」

声をかけると、ゆっくりとわしを振り返った。


「・・・・・いいえ、私は魔女ではないわ」

娘はえらく抑揚の無い声で応えた。

深夜に男に声をかけられたというのに、びっくりするでもおそれるでもなく、その瞳にはなんの感情もこめられてはいなかった。

月明かりに浮かび上がった娘の顔は、透けるように白く美しかった。


「あんた・・・・・幽霊かい?」


「・・・・いいえ、私は幽霊ではないわ」


妙な娘だ。

しかしなんとも美しい。


「あんた、女神か?」

わしは少しおかしくなっていたんだろう。この娘に何かしらの救いを求めていたのかもしれない。


「・・・・いいえ、わたしは・・・違うわ」

娘が薄く笑った。


「あんた、なにをしてるんだい」


「月の光を集めているの。ほら、この水盤に映った月を見て。なんてきれいなんでしょう」

水盤に映った月は確かに美しかったが、光を集めるとはどういうことだろう。

わけがわからず黙っていると、なんと娘が衣服を脱ぎ始めた。


「ななな、なにをしているんだ?」

娘はかまわず裸になってしまった。顔と同じにすけるように白い肢体が月光に照らされてあらわになった。


「月の光を浴びるの。私には必要なことだから。」

恥じらいも戸惑いも無く、娘は両手を広げて面を月に向けると目をつぶった。

その姿は神々しくもあり、キチガイじみてもいた。

どれほどの時間をそうしていただろう。

娘は両手を胸のまえで祈るように組むと、異国の言葉をつぶやいた。

すると、水盤から光がたちのぼり、娘の胸に吸い込まれていった。

夜明けが近いようだった。

娘は呆然とするわしが、まるでいないかのように衣服をまとうと、水盤をかたずけはじめた。


「あんた、本当に魔女じゃないのか?」


「・・・・・いいえ、私は魔女ではないわ。もう、休まなくては。さようなら」

娘は無感動にそう応えると、水盤をかかえて宿屋に入っていった。





不思議な娘がいなくなっても、わしはなんとなくその場所にとどまっていた。

朝日が昇る頃に、宿屋に朝餉の煮炊きの気配がしはじめた。

宿屋のおかみが、中庭にでてきて、こんな朝早くに何をしているのかとわしを問いただすので、さっきまでここにいた娘と話をしていたというと、おかみは興味深々でどんな話をしたのかと聞いてきた。

娘は半月ほども逗留していて、昼間は寝ていて、夜になるとおきだして中庭で過ごしているということだった。

ほとんど会話もないが、宿に迷惑をかけるでもなく、払いも前払いでもらっているので問題はないのだが、とおかみはいった。

ただ、宿でだす食事を断るので、夜中に食べていたのかと心配をしていた。

娘はなにをしていたかと聞かれたが、まさか素っ裸になっていたともいいずらくて、月の光を楽しんでいたとだけ言っておいた。





次の日の夜も、月がきれいに出ている夜だった。

わしは娘に会いにいった。

娘はやはり、水盤を広げて、裸になって月の光を浴びていた。



「宿屋のおかみが、あんたが飯を食わないと心配していたよ」


「私には食事は必要ないの。月の光があれば十分なの」



娘からはなしてくることはなかったが、問いかければ応えは返ってきた。


「なんのためにそんなことをしているんだ?」


「しなくてはいけないことをするため。月の光は私に力をくれる」



「なにをしなくちゃいけなんだ?」


「・・・・・罪をつぐなうのに必要なこと・・・・・」



「どんな罪をおかしたんだ」


「妹たちを見殺しにした罪」

わしはそれ以上は聞けなかった。

ひとり生き残ったわしは、それを自分の罪のように感じていたからだ。

船が難破した嵐の夜が、わしの脳裏になんども浮かんで、眠れない日々を繰り返していた。

嵐も難破も、わしの責任ではないのはわかっていたが、誰一人として救うことができなかったわしは、そのことが罪のように感じる日々を送っていたのだ。

この娘もそうなのだろうか。

女だてらに、どんな責任を感じているのだろうかと思うと、わしは娘にさらに興味がわいた。

わしは毎夜、娘のもとに通うようになった。

ぽつぽつと、わしが自分が罪と感じていることを話しても、娘からなにかをいってくることはなかった。

問われない限りは、娘は無言で、ひたすらに月の光を浴びていた。

ピクリとも動かない娘の姿は、女神の彫像のようにも見えた。

わしはその姿にむかって、ざんげしていたのだ。

失った仲間に、先に逝かせてすまなかったと、わびて泣いて、それでも娘はただじっと、神々しい姿でたっているだけだった。




数日後の新月の晩だった。

その晩は、月がでていないからだろう。
娘は水盤を並べていなかった。



娘は中庭をでて、どこかに出かけようとしていた。


どこにいくのかと問うと、娘は応えた。


「今夜は新月。約束の夜だから」

娘が飛ぶように走り出した方向には、ジェロームの墓場があった。

ジェロームの墓場は、夜になるとゾンビやスケルトンの姿になった亡者がうろつくので、丈夫な鉄格子でかこまれて、入り口には鍵をかけられている。

<効果音>鉄の扉が開く

入り口に手をかけると、鉄の扉がやすやすと開いた。

娘はすでに墓場に入り込んでいて、亡者の群れにかこまれていた。

<効果音>ゾンビ

娘は、胸元で祈るように手を組み、異国の言葉を唱えていた。

このままでは娘が亡者たちに殺されてしまう、むりやりにでも墓場からもどらせなければ、と、墓場に踏み込んだわしにも、亡者たちもむかってきた。

そのときはじめて、聞かれても無いのに娘が口をきいた。


「なぜきたの。私の姿をみてはいけないのに」



娘のからだが、いきなり光り輝き始めた。

月の光とおなじ、あわく輝く娘の姿が、小さく、小さく縮まっていき、そこに現れたのは・・・・・・背中の透明な羽ではばたく小さな妖精だった。


小さな妖精は、両手を広げると小さく息を吐いた。



妖精の体から月と同じあわい光が勢いよく飛び出したかと思うと、光を浴びた亡者たちの体が土くれとなり崩れていった。

<効果音>光が発射される&くずれる

わしを襲おうとしていた亡者も、すっかり崩れてしまい、まもなく妖精の輝きがきえると静寂と闇が訪れた。




<効果音>人が倒れる音

なにかが倒れる音がした。

闇の中で目をこらすと、娘が倒れていた。

助け起こすと娘が弱々しくつぶやいた。


「まだ・・・・・まだ足りないのですね、お姉さま・・・・・」

そのまま気を失った娘をかき抱いて、わしは墓場を後にした。

娘はからだは死人のように冷え切っていた。

墓場の扉を閉めたとき、あらたな亡者が生まれた不気味な声が聞こえていた。

<効果音>ゾンビの声




娘を宿屋に担ぎこんだころには夜が明けていた。

すでに起きていたおかみたのみ、わしは娘に付き添って昼を過ごした。

娘はこんこんと眠り続け、夜になると目を覚ました。


「あなたはなぜここにいるの?」


「墓場にあんたをおいてくるわけにはいかないだろう。亡者に食われてしまう」


「わたしを助けたの?」

娘はしばらく黙ったあとで、いつものように無表情にではなく、申し訳なさそうな顔をした。



「あなたは私の本当の姿をみてしまった。あなたの運命は私とつながってしまったわ」


「それならあんたのことを話してくれ。あんたと運命がつながったのなら、俺には知る権利があるだろう」


「わたしを知ったら、あなたは私を嫌いになるかもしれない」

それは、はじめてきいた、人間らしい言葉だったと思う。


「わたしはイルシェナーの霊性の森の妖精。

霊性の森はとても清浄で穏やかで・・・・・・そして退屈だったわ。

わたしは妹たちを、冒険に誘ったの。

亡者が巣くうダンジョンへの、ちょっとした遠足のつもりだったわ。

妹たちも、はじめてみる闇の世界を、おそれることもなく悠々と進んでいったわ。

でも、私もいったことがない闇の奥にとんでもない悪魔がいたのよ。

黒閣下とおそれられている悪魔に、みんな殺されてしまった。

私はたったひとりで、まだ生きていたかもしれない妹たちをみすてて逃げ帰ったの。

そしてお姉さまに・・・・・・罰を与えられたの。

ジェロームの墓場を浄化するまでは、もどってはいけないの。

妖精にとって、月の光は力の源だから、毎晩月の光を浴びて、集めて、新月の夜に、闇に集う亡者を倒さなくてはいけないの」




娘は苦悩に満ちた顔をしていた。

月の光を浴びていたときの神々しい姿とはちがい、か弱い娘の顔をしていた。


「お姉さまは、わたしの本当の姿をみた人間がいたら、その人も一緒に亡者を倒さなければいけない、といったわ。

そうしなければ、わたしが浄化を果たせずに死んだときに、一緒に死んでしまう呪いをかけたのよ」

娘が妖精になった姿をみたあとでは、わしは娘の言葉を信じるしかなかった。

それに、いつもよりも弱く、はかなげに見える娘の、しなければならない試練を思うと、見捨てるわけにはいかなかった。



次の新月にむけて、毎晩娘は月の光を集め浴びた。

娘はよく、自分のことを語るようになった。


「霊性の森には、自然しかないの。樹齢を重ねた大木。露にぬれた下草。動物たちもおだやかで、悪いものはいっさいいないの。私たちは、木々のてっぺんまで飛んで、思う存分月の光を浴びたわ。ここは人間の街だから、どうしても光の効果が薄れてしまう。早くふるさとに帰りたいわ」

わしは人がほとんど住んでいない場所へ、娘を連れ出そうと考えた。

ジェロームは三つの島で形成されていて、そのひとつには放牧場があり、ほとんど人間がいない。

ところが娘は、放牧場いきのテレポーターを通ることができなかった。


「お姉さまの呪いなの。わたしはテレポーターもゲートも使えない」


「だったら船でいこう」

わしが小船をかりてきて、娘をのせて海をわたった。

夜の航海だが、島を渡るくらいなら船乗りのわしには造作もないことだ。

イルシェナーには船がないという。


「私たち妖精は、水の上は飛べないの。船に乗るのはすてきね。海の上の風はとても気持ちがいいわ」

海かぜにあおられて広がる髪が月明かりに輝いて、羽のようにみえた。


放牧場につくと娘はいつものように衣服を脱ぎ、月の光を浴びた。


「ここは街のなかよりも清浄だわ」

いつもと違うのは、月に向けた顔に笑顔が浮かんでいることだった。

娘はもはや彫像ではなく、生きた娘としてたたずんでいた。



「なあ、もし俺が死んだら、あんたはどうなるんだ?」


「どうにもならない。私の運命はあなたの死とは関係しない」


「俺はまきこまれ損ってことか」


「ええ、そうなるわね。ほんとうに ごめんなさい」

娘のほほがうっすらと紅色に染まっているように見えた。

娘はびっくりするようなことを言った。


「恥ずかしいわ。あっちを向いていて」

わしはあわてて目をそらし、娘が服を着て声をかけてくるまで、夜空の月を眺めていた。

それからは、わしは娘の隣で、裸の娘をみることはせずに、一緒に月だけを見る夜を過ごした。

それまでひんやりと冷たく感じていた月の光が、ほんわりと暖かく感じるようになっていた。






次の新月の夜がやってきた。

娘とわしは、墓場に向かった。わしも亡者と戦うために、武器をもっていった。


「力が十分ではないかもしれない。でもいかなければならない」


「わかっている。今度は俺も戦う。きっと大丈夫だ」

墓場の敷地に入ると、亡者たちがわらわらと、娘とわしにむかってきた。

<効果音>ゾンビとの戦闘

娘は小さな妖精の姿になり、光を放ち始めた。

次々と亡者が土くれになっていくなかで、わしに向かってくるゾンビが、腐った息をはきながら声を発した。

その声は「アニキ」と聞こえた。

ゾンビがまとった服と背格好に見覚えがあった。

嵐で死んだわしの弟分だったのだ。

妖精の光が弟分のゾンビにむかったとき、わしはゾンビをかばってしまった。


「だめだ、こいつを殺すな」


「なぜ?もう死んでいるわ」


「こいつを2度も殺したくないんだ!」

しかしそれは無駄でバカな行いだった。弟分のゾンビはわしに噛み付いて食おうとしてきたのだ。

<効果音>ゾンビがかみつく


「だめ!」

妖精は光をはなち、ゾンビを土くれにした。

わしは傷から暖かい血がどくどくと流れていくのを感じていた。たぶんもう助からない。


「俺も死んだらゾンビになって、あんたに浄化されるのかな」


「だめ、死んではだめ」

<効果音>光

妖精が強い光をはなった。

わしが出血と痛みが消えるのを感じた。

すると妖精は娘の姿にもどって、わしに覆いかぶさった。その瞳には涙が浮かんでいた。


「俺のために力を使い果たしてしまったのか?なぜ?」


「あなたがいなくなるなんてダメ、だめなの」

<効果音>ゾンビ


倒れているわしと、覆いかぶさっている娘を亡者の群れが囲み、いまにも引き裂こうとしていた。


<効果音>光

新月で闇夜のはずなのに、巨大な月が天空に現れた。

<効果音>ゾンビの断末魔

強い月の光を浴びた亡者の群れが一瞬で土くれとなり崩れていった。


<効果音>妖精の羽音







娘とわしが、月をみあげると、その中心には薄い羽を羽ばたかせて宙に浮く巨大な妖精がいたのだ。


「お姉さま・・・・」


「あなたの思いが私を呼んだ。あなたがその男を助けたいと思ったように、わたしもあなたを助けたい」


「わたしの罪は消えません。妹たちは死んでしまった」


「そう、罪は消えない。あなたは森にかえりたい?」


「かえりたい・・・・でもこの人のそばにもいたいのです」


「つぐないのために、あなたは、まだ、森には帰れない。でも私は、あなたに人間の命を与えましょう。人間としての命をまっとうしたときに、あなたは許されるでしょう。」

<効果音>妖精の羽音


「あなたの幸せを祈っているわ」

姉と名乗る妖精が光り輝くと、天空の月とともに消えて、闇がおとずれた。





わしと娘は墓場をあとにしたが、支えた娘の体が熱く火照っているがわかった。

娘はそのあと熱をだして長いこと寝込み、熱が下がったのは次の新月の夜だった。

娘は記憶を失っていた。

わしは宿屋から娘をひきとりやがて所帯をもった。



妻となった娘は、人間らしく、昼間に起きていて夜は眠る生活をするようになった。

あいにく子供はできなかったが、人間として新月の夜に生まれ変わった妻をささえて生きるのが、わしの生きがいとなった。

妻は眠る前に月をみあげては、両手を祈るように胸元で組んではうっとりとしていることはあっても、異国の言葉をつぶやくこともなく、ただ、お日様よりもお月様のほうが光がやさしいから好きとだけ言っていた。


「なぜかしら。月をみると、とても懐かしい気持ちになるの」

透き通るようだった白い肌も、日の光にあたるようになって健康的な肌色になり、普通に食事もするようになったので、年老いてふっくらとしたりしましたが、ほどほどに生きて、わしよりも先に、亡くなりました。


埋葬した晩に、墓場に目をやると、淡く輝く光の玉が、月に向かってゆっくりと昇っていくのがみえた。

妻は人間としての命をまっとうし、やっと妖精の森にかえっていったのでしょう。

わしが幸せであったように、妻も幸せであったのだと、わしは信じたいのです。

妻との穏やかな思い出と共に、わしは余生も幸せに過ごすことができるでしょう。


<効果音>妖精の羽音



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(あとがき)
第八話は暗めのお話です。でも個人的には好きだったりします。

今回は、月の光を音で表現していただきまして、音響効果担当にはたいへんお世話になりました。

ただ・・・・・・ゾンビの効果音があるじゃないですか。

なんかこれで、音響効果担当がなにかに目覚めてしまい、あとあと大変なことになるのでしたが、それはまたあとのお話。


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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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船頭の話 第七話 「しゃべる犬」

船頭の話 第七話 「しゃべる犬」
             原作脚本:ジニー

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「あー!スカラブレイであっしが出会った男の話をしましたっけ?
「自分の犬は頭がいいからしゃべるんだ」ですとさ!」

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その男は、街で雑貨屋を営んでいました。
堅実な商売をして、裕福だということでしたが、独り身で、黒い犬をつれあいのように可愛がっていました。


男はいつも、決まった定食屋で夕飯をとってましてね。

そこのおやじにも気に入られて、よく一品サービスされたりしてました。

おやじ
「あんた、はやくいいお嫁さんをもらいなさいよ。

いつまでもおいらの飯じゃあね。

それに不自由なこともいろいろあるだろうよ」


「いい娘がいたら紹介しておくれよ。

そうさな、おやじみたいに、うまい飯を作ってくれる娘がいいな」

おやじ
「料理だったらおいらが仕込んであげるよ。

ああそうだ、あんたのつれはまた外かい?」


「ああ、外で待っているよ。

いつものあれ、頼めるかい?」

おやじ
「ああ、ちゃんと作ってあるよ、ほら、もっていってやりな。」

男はおやじから皿を受け取ると、店の外にでました。

店の外には、黒い犬がおとなしく待っていました。


「ほら、おまえの飯だぞ」

犬は尻尾をふって、男の、よし、という合図があると静かにあたえられた飯を食べるのでした。

おやじ
「ほんとうに行儀のいい子だな」


「ああ、こいつは頭がいいからな。

時々言葉もしゃべるんだよ。

もっとも、聞き取れないがね。」

男がいうには、おかえり、とか、がんばれ、と不自由な犬の舌でしぼりだすように話そうとしているのだそうです。

犬や猫には、たまにそういうことができる器用な子がいますからね。

男がやさしく犬の頭をなでると、犬は食べているのを中断して、男をじっとみてまたしっぽを振るのでした。





ある日、定食屋に、おやじの娘が帰ってきました。

菓子職人になるといってよその町に修行にでていた娘が、修行を終えて戻ってきたのでした。


おやじ
「娘は、定食屋より菓子屋のほうをやりたいっていうんだがね。

おいらが元気なうちは、定食屋はやめないよっていってるんだがねえ。

菓子より飯のほうが大事に決まってるからねえ」




「おとうさんの料理は最高だから、わたしはお菓子で最高のものをめざすのよ」

おやじ
「生意気いいやがって。まだ娘のくせにおやじのおいらとはりあうとはね」

そういいながらも、おはじは娘をほこらしく思っているようでした。


「うちの雑貨屋で、菓子を売ってみるかい?」

男の申し出があって、娘は焼き菓子などを男の雑貨屋で売るようになりました。

これが評判がよく、男の雑貨屋はますます繁盛するようになりました。

雑貨屋が忙しくなったので、娘は男の手伝いをして、店に通う日が多くなりました。

素直でよく働く娘と、堅実でやさしい男は、当然惹かれあうようになりました。


その頃から、男の犬が、定食屋の中に入りたがるようになりました。


「だめだよ、おまえ。」

男が外で待つようにいいきかせても、がんとして入りたがります。

おやじ
「いいよいいよ、その子は行儀がいいからね。

かまわないから入れてやりな。」

おやじの許しを得て、店に入った犬は、男の傍らでおとなしく座っているのですが、ずっとおやじの娘を目で追っているのでした。

おやじ
「おやおや、うちのむすめが気になるんだね」

すると娘がいいました。


「わたし、その子嫌われているのかしら」

娘がいうには、雑貨屋を手伝っていても、ずっと目で追われているそうなのです。

その目が娘を品定めしているようでこわいと。

そういえば、娘が犬の頭をなでても、尻尾をふるわけでもない、かといって、うなることもないのですが、目線をそらすことがないのでした。


「わたし、その子がちょっと怖いの」


「ちょっとやきもちをやいているだけさ。

こいつはあたまがいいから、あんたを傷つけるようなことはしないよ」




ある日のこと、男と娘が雑貨屋で仕事をしていると、強盗が入りました。

男に殴りかかった強盗に、犬が襲い掛かりましたが、強盗がもつこんぼうで逆に殴られてしましました。

なおも犬を打とうとする強盗から、犬を守るように娘が覆いかぶさりました。

男が強盗に突進して、なんとか押さえ込むことができて、娘と男はかすり傷ですみました。

しかし、犬の傷は深く、獣医にみせて安静にして栄養のあるものを与えるようにと、男と娘で、かいがいしく看病をしました。


男と娘の結婚が決まったのはそのすぐあとでした。

すると、まだ傷がいえきっていないというのに、男の犬がいなくなってしまったのです。

男はほうぼう探し回りましたが、みつかりません。


「あの犬は、俺をひとりで育ててくれたおふくろが死んだあとに迷い込んできたんだ。

天涯孤独になった俺に、いつも付き添ってくれた相棒なんだ」

男が動揺する姿を見て娘も一緒に、必死で犬を探しましたが、とうとう見つからないまま婚礼の日がきました。


「あの子がもどってこないなら、婚礼を伸ばしてもいいのよ?」


「いや、これからは、俺の相棒はお前だからな。そのかわり、黙って俺のところからいなくなるなよ」

ふたりは予定通り、婚礼をあげることになりました。

祭壇の前で、永遠の愛を誓うそのときに、やつれて汚れた男の犬が、ふたりの前によろよろと近寄ってきました。

そして二人の前でぱたっと倒れたのです。

男は、あわてて犬を抱き上げました。

犬は半目を開けて、男をじっとみると、はっきりと、人間の言葉を話したのです。


「その娘の修行先で調べてきたよ。

その娘はほんとうにいい娘だ、一生大事にしてあげなさい」

女の声でそう言うと、犬は静かに目を閉じて、動かなくなりました。

男は犬を抱いたまま、つぶやきました。


「おふくろの声だ・・・・・」

祭司が祭壇からおりて、そっと犬の頭に手をおいていいました。

祭司
「安心されたのですね。あなたのお母様は、今やっと安らかになれたのです」

娘は婚礼の衣装が汚れるのもかまわず、男と一緒に犬を抱きしめました。

すると犬が息を吹き返し、弱弱しいながらも男と娘の顔を交互にみると甘えるようにきゅんきゅんと鳴きました。


それが魔法だったのか、ほかのなにかの力だったのかはわかりませんが、男の犬には、死んだ母親が、宿っていたのです。


男と娘は、犬を抱いて婚礼を終え、弱った犬の看病をふたりで勤めました。
元気になった犬は、若夫婦と一緒に暮らしていましたが、以前のように行儀がいいというということはなく、普通の犬として、夫婦に可愛がられました。

とまあ、それで終わればいい話なんですけどね。




どうやら男の母親はまだ成仏していないみたいなんですよ。

なんでも今度は、しゃべるカラスが住み着いているそうで・・・・・・。

これがもう、自由自在にしゃべりまくっているそうですわ。


カラスの舌は、犬よりは自由に動くらしいですね。

<効果音>カラスの鳴き声

カラス
「ちょっと、息子はその料理はきらいなんだよ!

もっとましなものを作りなさいよ!」


「いーえ、お母様。わ・た・し・が・作れば美味しいっていってくれてますから!」

カラス
「なんだい、嫁のクセに生意気だね!」


「カラスの嫁になった覚えはございません!」

カラス
「なんてこと言うんだいこの子は!」


「なんだい、またおふくろともめているのかい」


「あなたからも言ってくださいよ、お母さんたら・・・」


「おふくろ・・・・」

<効果音>飛ぶ音



「あ、にげた・・・・」


<効果音>カラスの鳴き声

<効果音>飛ぶ音

おやじ
「おや、からすのおっかさん、また逃げてきたのかい?」

カラス
「違うよ、たまには若夫婦の親どおし、仲良くしようと思っただけですよ」

おやじ
「まあまあ、うちの娘もいたらんところはあるだろうが、大目にみてくださいな。」

カラス
「いや、あんたの娘はいい子だよ、でもねえ、ついねえ・・・・・」

おやじ
「わかる、わかるよ、あんたの息子もいいやつだがやっぱり娘をとられたと思うとねえ・・・・・」

カラス
「おやってのいつまでも子供が心配なものだよねえ」

まあ、これはこれでいい話と言えなくはないですね。

なに、つまらん話でしたわ。





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(あとがき)
第7話くらいになるとあ、スタッフの皆さんがいろいろといいアイデアを出してくれます。

セリフをいいやすいようにご自分の方言に書き直したり、追加でエピソードが増えていたり、いっちゃなんですが「やりたい放題」ですw

結果として、面白いものができればいいので大歓迎です。

わたしは標準語に近い地方の言葉しかしらないのですが、本場の方の方言はとても味があって素晴しいですね。

完成版が予想を超えるのが楽しくて、この頃からは、曲の指定も音響効果担当に丸投げとなっていきます。(むりやり、やれ、といったわけではないですよ?w)



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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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船頭の話 第六話 「旅立ち」

船頭の話 第六話 「旅立ち」

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「あー! ニューマジンシアであっしが出会った女の話をしましたっけ?
正体は海賊だったんですぜ。なに、つまらん話でさ」


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今はニューマジンシアって、呼ばれているけどね。

昔はただの、マジンシア だったのよ。


そうよ、あたしはこの島で育ったの。戻ったのは久しぶりだわ。あちこち旅をしていて、やっと戻ってこれたのよ。

この花はね、お父さんのお墓にそなえようと思ったのよ。

でも、マジンシアは一度、たいへんなさいやくにみまわれて、昔の面影がまったく残っていないの。

お父さんのお墓も、どこにあったか、わからなくなっちゃった。

たぶんここいらへんが、あたしが育った、お父さんの家があった場所だわ。

せめてここに、花を供えていこうと思うのよ。

あなたは?

ニューマジンシアになってから越してきたのね?

何かの縁と思って、お父さんの供養代わりに、あたしの思い出話につきあってくれるかしら?


(回想)**************************************************


物心ついたときから、あたしにはお母さんがいなかった。

お父さんは宿屋を経営していて、なにからなにまで、ひとりできりもりしていたわ。

あたしはお父さんを手伝って、家事を覚えたの。

いつかお婿さんをもらって、お父さんの宿屋を継ぐのが夢だったわ。

宿屋のお客さんは、旅の女の人が多かったわ。

お客さんたちは、みんな幼いあたしを可愛がってくれた。


「お客さんにはあんまり甘えてはいけないよ。別れがつらくなるからね」

お父さんはいつもそう言っていたわ。

でも、何度も立ち寄ってくれるお客さんもいたから、あたしは別れがつらいと思ったことはなかったの。


何度も再婚話があったけど、お父さんは、お母さんを忘れられないからといって、全部断っていたわ。

お父さんにお母さんって、どんな人だったのって聞いたことがあるの。


「やさしくて強い女性だったよ。

彼女と過ごした短いときは、一生に変えてもいいくらい幸せな時間だった。

もちろん、お前と過ごす毎日も幸せだけどね」

お父さんはとても優しい目をしてそう教えてくれたわ。




あたしが16になったころ、お父さんが身体を壊したの。

だんだんと体が動かなくなって、その分あたしが宿屋の仕事をかわったわ。

なじみのお客さんが多かったので、あたしが至らなくても、宿屋がやっていけなくなることはなかったわ。

お父さんがやがて寝たきりになって、介護と宿屋の仕事で、忙しかったけれど、つらいとは思わなかったのは、やさしいお客さんたちのおかげだったわ。

あたしが18になったころに、お父さんは亡くなったの。

未婚のまま、あたしは宿屋のおかみになったので、お婿さん候補がわんさかやってきたわ。

誰かと結婚して、宿屋を続けるのが一番いいと、あたしも思っていたんだけどね。

誰とも決めかねているうちに、あの男がやってきたの。


親も無く、財産もなく、どこからか流れてきた無法者、というのが正しい表現だわ。

宿屋という財産もちの若い娘ひとり、脅せばどうにかなると思ったんでしょう。

求婚を断ったら、真夜中に押し入ってきたのよ。

宿泊していたのは、女客ばかりと調べて、刃物をもってあたしを脅したわ。


「おとなしくしな。言うことを聞けば、あんたも客も痛い思いをしないですむんだぜ?」


あたしは怖ろしくて、動くことも口をきくことも、できなかった。

でも男が、逃げようとしたお客さんに、切りかかろうとしたときに、当たり前のように体が動いて、もみあいになったの。

お客さんを守らなくちゃ! って一心だったわ。


<効果音>どたんばたん


女客
「やめな、チンピラ! お嬢を離しな!」



あっという間に、男は女性客たちにこてんぱんにされて、縄でしばられてしまったの。

あまりに手際がいいのに、あたしはびっくりしてしまったわ。

いつもはやさしく笑っているお客さんたちが、怖い顔をしていたわ。

女客
「お嬢をひとりでおくには、ここはもう危険だ。さあ、いきましょう」

ひとりのお客さんがそういうと、ほかのお客さんもみんなうなずいたわ。


「なんだてめえら、なにものだ!」

女客
「クズは黙ってな」

あたしも男も、口をふさがれて、担がれるように宿屋から連れ出されたの。

男に怖ろしい目に合わされたと思ったら、今度はお客さんに・・・・・・

あたしは涙が止まらなかったわ。

連れて行かれたのは、港に停泊している一隻の船だった。

そのまま船は出港してしまったの。そして外洋にでて掲げた旗には、海賊をしめす骸骨がそめられていたの。


<効果音>波音
女客
「おかしら! お嬢をお連れしましたよ」


「そうかい、ご苦労だったね」


その船は、船長から船員まで、全部女の人しか乗っていなかった。そして船員のほとんどが、宿屋の顔見知りのお客さんだったの。

女船長は、縛られたままの男を一瞥すると、手下にあごで合図をしたわ。

<効果音>剣を抜く音、切りつける音


「ぐうっ・・・」

<効果音>海に男が落ちる音


男は手下のカットラスでのどを裂かれ、海に捨てられた。


あたしは、男の血しぶきをみて、震えているしかなかったわ。



「立派になったね」

あなたは、だれ?


「あたしはお前の母親だよ」


おかあ・・・さん・・・・・?



海賊のおかあさんと、宿屋のおとうさんは恋をして、生まれたあたしは、おとうさんが育てた。

お尋ね者のおかあさんは、上陸することを控えて、手下に様子をみにいかせていたと・・・・・・・

あたしは泣き叫んだわ。

信じない、身勝手すぎる、あたしを宿屋に帰して!


「あの人が死んだからには、あんたを守ることができるのはあたしだけさ。

そしていつか、あたしが死んだら、この船と仲間たちを守ることができるのは、あんただけだ。

この船はね、海賊船といっても、女の味方なんだよ。

あちこちの港で、男にひどい目に合わされた女たちを、助けて仲間に加えているのさ」

女客
「お嬢。あたしらはずっと、お嬢を見守ってきました。

お嬢なら立派に、おかしらの後を継げます。」


「あたしとあのひとの娘だ。できないはずがないよ」

勝手に話を進めないでよ!

マジンシアに返して!



<効果音>爆音

すさまじい衝撃が船を襲ったわ。

大波に揺れる船から、マジンシアを見ると、島からたくさんの黒煙があがっていた。

風に乗って、大勢の悲鳴が聞こえていたわ。

<効果音>爆音&破壊音&遠くの悲鳴





その日にマジンシアが崩壊したのよ。

そのあとのマジンシアは、魔物が闊歩するおそろしい地になってしまった。

あたしは帰ることはかなわず、海賊船に乗って旅をするしかなかったの。

そしてお母さんが尊敬できる人だとわかり、船員たちの助けもあって、海賊船の一員となったの。

マジンシアが、ニューマジンシアとなって復興しても、あたしは戻らなかったわ。

世界のどこにでも、不幸な女たちがたくさんいて、あたしはお母さんを助けて、可愛そうな女たちを救ってきたの。


「あのひとはあたしの生き方を許してくれた。あんな心の大きい人はいないよ。」

船がマジンシアに近づくことがあると、おかあさんは島のほうへ向かって、さびしそうに視線をを送っていたわ。


先日、お母さんが亡くなったのよ。

ずっと離れていたけれど、お母さんもお父さんをずっと愛していたことを、あたしはお父さんに報告にきたのよ。

女客
「お嬢! そろそろ出航しないとやばいです!」

お迎えがきちゃったわね。

<音楽>移りゆく時代  終了




女客
「お嬢! 急いでください!」

あわてるんじゃないよ、それにね、おかしらとお呼び。

話を聞いてくれてありがとう。

ニューマジンシアは、あたしの故郷とはいえないわ。

きっともう、戻ることはないでしょうね。


<効果音>波の音かぶせ

女客
「お嬢! どっちの海へ向かいますかー?」

おかしらとお呼びったら! 風の吹くほうにいくのさ、さあ、帆をあげな!

女客
「ヨーソロー!」

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(あとがき)

第六話あたりから、音響効果のこだわりがでてきました。

マジンシア倒壊のシーンなどは、いろいろな音を重ねて作っていただいています。

頼むとどんな効果音でも「ムリ」とはいわないので(言わせないわけではないですよ?)、つい期待していまい、どんどん要求がエスカレートしてくるのですがw

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船頭の話 第五話 「 海賊船沈没秘話 」

船頭の話 第五話 「 女海賊船秘話 」
               原作脚本:ジニー

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「あー!ブリティンであっしが出会った男の話をしましたっけ?
正体はシーフでしたぜ。なに、つまらん話でさ。」

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<アナウンス>
本編では、ストーリー上必要なため、派閥に関する仕様が、一部正確ではありません。ご了承ください。




<効果音>酒場のざわめき


「あっちへいけ、ジジイ! あんたにおごる酒なんざねえよ!」

老人(酔っ払い)
「わしをじゃけんにするたー、なにごとだー!わしはなー、海賊の一味だったんだぞ、ほれ、こわくなったろう? こわいじゃろうー? なにもせんから、一杯おごれ!」


男「だああ! 抱きつくな、ジジイ! あんたみたいにひょろひょろしたのが、海賊のわけがないだろうがああ!」


老人(酔っ払い)
「なにおいうかああ、いいからおごるんじゃああああ」

老人の孫娘
「ああ! おじいちゃん、またこんなところに! ごめんなさい、ごめんなさい、おじいちゃんがご迷惑を・・・・」


「あんたジジィの孫か、べっぴんさんじゃねえか。よし、あんたが勺をしてくれるなら、ジジイにも一杯おごってやろう」

老人
「孫を酒場女と一緒にするんじゃない! わしが海賊時代の大活躍の話をしてやるかわりに、一杯おごれ!」


「俺はジジイの話になんか興味ないわああ!」

老人
「いいから聞くんじゃ、若造がああああ」

老人の孫娘
「ああ、お願い、おじいちゃん、落ち着いて・・・・・」


(老人の回想語り)*****************************************

おかしらの名前も、船の名前もいえんな。ちょっとばかり、有名だったんでの。

おかしらは女でね。女だてらに海賊船の船長をやってるだけあって、すごい美人なんですが、おっかない女でしたよ。

手下もこわもてばっかりだ。


<効果音>酒場の喧騒と、外を走る馬の音MIX

ブリティンで、翌朝は出航するんで、上陸できるやつみんなで、酒場にいたのよ。

なんだか派閥のやつらが、やたらに街中を走り回っていたわ。

酒場のおやじの話じゃ、戦争中でぴりぴりしてるってことだった。

わしたちは、海賊だとはばれないように、上陸しているんで、大して気にもしていなかったがな。

ところが、蛇の道をみつける蛇はいるもんだ。

こそこそと話しかけてきた男がいた。

密航者
「もしもし、そこの海賊船の船長さん。よければあたしを仲間にいれてくれませんかね?」

女船長(酔っ払ってます)
「あんた、だれ?船員は募集してないよ」

密航者
「まあ、そういわずに、あたしはこれでも結構役に立ちますよ?」

女船長
「あたしの船に、得体の知れない奴は、のせないよ。あっちにいきな」

密航者
「はあ、そうですか・・・・・残念です」

男はそれであきらめたのか、いなくなった。

翌朝、波止場で出航の準備をしていると、桟橋にあの男がいる。

乗せて欲しそうにうろうろとしていたが、無視をされて、あきらめたのだろう、いつのまにかいなくなっていた。

ブリティンから船はニジェルムにむかった。あそこは金持ちのリゾート地だからな。

付近の金持ちの船を襲うってわけだ。

ところがたどり着く前に、大量のシーサーペントに襲われた。


船員「船長ー、なんすかね、ここらに海蛇の巣でもありましたっけかね」

女船長「今年は気候がよかったからねえ。

海蛇もしこたま卵を産んだんだろうさ。

やろうども、さっさとかたずけやがれ!」

船長「アイアイサー!」

あんなにすごい海蛇の群れはみたことがなかったわ。




一味は余裕で全滅はさせたものの、船の修理は必要だったので、ベスパーに寄ったんじゃ。

派閥戦争はベスパーでも火種があるようで、夜通し街中を駆けまわる、ひずめの音がやかましかったの。

<効果音>酒場とひずめ

上陸すれば、あたりまえのように、酒場に繰り出した。
飲んでいると、ブリティンにいた、あの男がすりよってきた。

密航者
「もしもし、船長さん、無事についてよかったですねえ」

女船長
「なんだ、あんた。別の船でここまできたのかい?」

密航者
「はい、親切な船に乗せてもらいました。

どうでしょう、ここから先は、船長さんの船に、乗せてもらえないですかねえ」

船長
「おことわりだね。また親切な船とやらを、みつけたらいいわ」

密航者
「そうですか・・・・・残念です・・・」

出航の朝、男は未練がましく桟橋にきていたが、誰も相手をしなかったので、いつの間にかいなくなってしまった。

ニジェルム方向はケチがついたってことで、ニューマジンシアに船は向かった。ニューマジンシアも、裕福なやつらが多く住んでいるからな。


<効果音>激しい水音


船員「スカリスがでたぞー!」

船長「なんだってー!? 逃げろ! 船を守れー!」

船員「ア、アイアイサー!」


明日にはニューマジンシアにつくだろうって時でしたよ。おそろしく巨大な魔物が現れた。

太い二本の腕で、船を叩き壊そうと追ってくるんですよ。


夜通し必死で、ニューマジンシアの港を目指しましたよ。


<効果音>桟橋の波の音

港の直前で、魔物は消えましてね、ほっとしたのもつかの間、桟橋にずらーっと派閥の奴らが、騎乗のまま、わしたちを待ち構えていたんですよ。



女船長(愛想よく)
「なにごとかしら。あたしの船は善良な商船ですよ」

派閥隊長
「だまれ、おまえが海賊だろうが知ったことではない。

たずねたいことがあるだけだ。ブリティンから男をのせなかったか」

女船長(開き直る)
「そういや、乗りたがった男はいたけどね、胡散臭いんで、のせなかったよ。」

派閥隊長
「それならいい。もし嘘をついていれば、お前の船は次の航海で海の藻屑となるだろう」

派閥一行はきびすを返すと、ひずめの音を響かせて、立ち去っていきました。

ニューマジンシアはすでに派閥都市ではなくなっていたんで、街は静かなものでした。

なんとか船の修理をして、次の航海にでたんですがね。

さすがにケチがつきまくりなんで、バッカニアーズデンに向かうことになったんですわ。

女船長
「あの島が一番くつろげるからね、なにしろ海賊と盗人しかいないからさ」

<効果音>激しい水音


船員
「せ・・・・船長!! か、カリュプディスが、あああ、津波がきますー!!」

女船長
「なんだってえええー!! ふ、ふざけるなー!!」

船員
「ふ、ふざけてませーん! 触手がー! 舵をやられましたー!」

女船長
「小船をだせー! にーげーろー!!」

船員
「アーイアーイサー!!」

ケチがつくなんてもんじゃないですわ。わしらは、船を捨てて、命からがら小船に乗り移ったんですよ。

そうしましたらね、小船に1匹のネズミが飛び乗ってきたんですよ。そいつは頭から着地しましてね。

密航者
「イテエ」

ネズミが喋ったんですよ。そこからの船長は早かった。ネズミをとっ捕まえましてね。

女船長
「おまえのせいかあああああああ!」


船長は、ねずみの尻尾をつかんでぶら下げると、腰から愛用のカットラスを抜いて、やつを真っ二つに切っちまったんですよ。

<効果音>切断音

ネズミの返り血を浴びた船長の怖ろしかったことったらもう・・・・。

ネズミの腹から、紫色に光る宝玉がころんと飛び出しましてね。船長はそれをつかむと、ネズミの死体と一緒に、魔物にむかって投げつけたんです。

受け損なった魔物が、海に落ちた宝玉を追って沈んでいきましてね。

船も魔物の触手にしっかりととらわれたまま、一緒に海に沈んでいきました。



<効果音>おだやかな波音


すべてが消えると、海は、あっというまに、すっかり、静かになりました。

あの宝玉は、みたことがありましたよ。派閥都市で、いつも戦争の元になっている、シギルでした。街を支配する力があるという、あれですわ。

あの男は、ネズミの姿に化けて、わしらの船に密航してた、派閥シーフだったんですわ。

やつを追って、派閥魔法使いが、シギルを追う魔物を放っていたんですわ。

えらい迷惑な話ですわー。

<効果音>おだやかな波音

女船長(絶叫お願いします)
「あ、た、し、の・・・・・あたしの船があああああ!!」

あのときの船長の泣き顔と叫び声が忘れられませんわ。

なにしろ船長がマジ泣きしたのをみたのは初めてでね。

意外とかわいいもんだとびっくりしましたわ。


(老人の昔語り)終了*************************************



<効果音>酒場

老人
「どうじゃ? 聞いたことがあるじゃろう? バッカニアーズデン沖で、なぞの遭難をしたあの女海賊船の話じゃよ」


「そんなわけがあったとは・・・・まて、ジジイが活躍した場面がないぞ」

老人
「実はな、密航者がいることは、わしにはわかっていたんじゃよ。人数分食事を出しても、なぜか毎回ひとり分足りなくなってな。おかーしいなーとは思っていたんじゃよ、どうじゃ? えらいだろう?」


「それのどこが、活躍なんだよ」


孫娘(割り込むように)
「だっておじいちゃんは、コックとして乗っていたんですもの。というか、誘拐されて、コックをやらされてたっていうのが正しいわ」



「なんじゃそりゃ。それは海賊の一味とはいわんな」

孫娘
「でしょー、おまけに船酔いがひどくて、かわりのコックが見つかるまでは、いないよりはマシだからって、連れまわされていたのよー。ないでしょー?」


「ないなー」

老人
「お、おい、ちょっと、それは、いわない約束・・・・」

孫娘
「あ、おじいちゃん。わたし、この人と気が合うみたいだから、もう少し遊んでいくわ。

おじいちゃんは先に帰ってね。

ほら、おばあちゃんも迎えにきたわよ」

老人
「なに!?」

女海賊
「あんたあああ! 

またこんなところで油売ってー!

明日のランチの仕込があるんだからさっさと帰ってきなさいよ!」

老人
「ひいい! 船長せっかんはやめてええええ!」

女海賊
「船長いうなってあれほどいってるだろうがあああ!」

<効果音>がたんばたん


「おい・・・・船長って・・・・」

孫娘
「うふふ、気にしちゃダメよ、さ、飲みましょ♪」

<効果音>グラスで乾杯


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(あとがき)

第五話は、離脱した初期スタッフに海賊役をお願いしていたので、役柄を女性にして、新期の方にお願いをしました。

某ラジオのパーソナリティーをされている方で、地元の言葉がいいということで、セリフは好きな風に語尾をかえたりしていただき、とてもいい味がでてます。

叫びが多くて、ご迷惑をおかけしたので申し訳なかったです。

他にも、彼女つながりで男性の方に参加していただきました。

さらにゲストとして、一回限り参加の方もいらっしゃいます。

いろいろな方の参加が増えて、うれしい限りでした。

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船頭の話 第四話 「たたずむ女」

船頭の話 第四話 「たたずむ女」
             原作脚本:ジニー

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「あー!ムーングロウであっしが出会った女の話をしましたっけ?
あっしより醜い奴は居ないって言うんですぜ。なに、つまらん話でさ」

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<効果音>波音

船頭
「わしの若い頃の話ですわ。その女は、真っ白なドレスを着てましてね、港の桟橋に毎日立っているんですわ。ずっと船がはいってくるのを待っているようですが、船が入っても、目当ての相手がいないのか動かないんですわ。ただ毎日ずっと、海のほうをみながら、立っているだけなんですわ。
気になりましてね、つい声をかけたんですわ」


あら、あなた、みない顔ね。最近ムーングロウにきたの?ふーん。
ああ、ここは狭い島だから、よそ者はめだつのよ。特にあなたのように顔が醜い船乗りさんはね。


「ここはおかしな街だな。女たちは、俺の顔には傷ひとつ無いって言うのに、口をそろえて、醜いといいやがる。それなのに、顔中やけどのあとが残っている男のことは、かっこいいとか、美男子とか、おかしいだろ?」



ここはムーングロウだもの。ほかとは違うのよ、ふふふ




ほかの島のことは知らないわ。わたしは生粋の、ムーングロウ生まれの、ムーングロウ育ち。

ムーングロウは気候が豊かな素敵なところよ。

シーマーケットあたりからくる、暖かい海流のおかげですごしやすく、ダガー島からの冷たい海流で、冬は少しだけ雪が降る。

ムーングロウ島は人口は少ないので、みんなそれなりに顔見知りよ。

本格的な魔法の修行なら、ウインドまでいくのでしょうけれど、その前にまずムーングロウで、魔法の基礎を学ぶのよ。

街の中を含めて、4箇所の魔法屋で、師匠になる魔法使いに出会えるはずだわ。
ライキュームまでいけば、書写を学ぶこともできるし、なによりも大切なのは、望遠鏡で星の運行をみることができるのは、ムーングロウだけってことよ。

環境がよいので、ここで生まれたものはみんな、ちょっとした魔法は使えるの。

島の外からくる、魔法使い志願者は、たいていはムーンゲートからやってくるの。
そしてすぐにどこかの魔法使いのところの住み込みとなり、見習い魔法使いのローブをまとうわ。

ムーングロウ島では、あなたみたいな船乗りの格好の人はね、見習い魔法使いとは扱いが違うのよ。


<音楽終了>森を流れる川


ふふふ、本当にあなた、醜いわねえ。


「そりゃあ、俺は美男子ってわけじゃないさ。だからって十人並みだろう?醜いっていわれるほど、ひどくはないだろう」


わかってないのねえ。

わたしが知っている、男らしい船乗りたちはみんな、顔にやけどのあとがあるわ。どうしてか、あなたにわかるかしら。


「知らないね。よっぽどへまばっかりしていたんじゃないのか」

ふふふ、ムーングロウの港を、あなた、ちゃんと知っているかしら。


「知っているも何も、ここは使えない港だ。入り口に水エレが群がっているからな。あんなところを通るなんてごめんだね。」

そうよ、だからまっとうに港に入ってくる船の船乗りはみんな、水エレを戦わなくてはならないの。立派に戦った船乗りほど、たくさんのやけどをおっているのよ。

水エレに受けた傷は、魔法でも治癒が遅いのよ。治る前に、次の傷を負ってしまうから、傷はどんどん増えてしまうの。

あなたみたいに、顔に傷ひとつない船乗りは、港ではないところから上陸した船乗りって、まるわかりだわ。

ムーングロウの女はね、船乗りに関しては、傷の多い男を大事にするのよ。


「どうしてわざわざ危険をおかさなくちゃならないんだ。水エレがいない場所で荷おろしすれば安全じゃないか」

ムーングロウ島はね、生産物が少ないのよ。
取れるのは綿花と鹿の皮と、農産物くらいしかないの。鉄も、特殊な皮も素材も、すべて島の外から届くのを待っているのよ。

港以外で荷おろしをして、陸路で届いた荷物には、経費が上乗せされるから、やっと届いた商品でも価格が高すぎて、手に入らない人も多いのよ。

だからね、港に直接届けてくれる船と船乗りは、大歓迎なの。

危険をおかして、傷を負ってもなお、港へ入ってくれる勇敢な船乗りが、ムーングロウの女たちの羨望のまとなのよ。

船乗りのくせに、あなたみたいに安全だけ求める男はね、この街ではまったくもてないのよ。


「高くなろうが荷物が届くんだからいいだろうが。だいたい、俺が醜いっていうなら、なんだってあんたは俺にかまうんだ。」


ふふふ、どうしてかしらね。あなたが、わたしの恋人に似ているからかしらね。


「なんだ、あんたのいい人は、俺みたいな醜い男だったのかよ」

誰だって最初は、身体に傷なんかないわ。幼馴染のあの人は、街のために、どんなにたくさんの水エレがいたって、勇敢に船を港につけてくれていたわ。私のつたない魔法では、傷がなかなか治らなくて・・・・・。しまいにはいつも頭巾をかぶらないといけないくらいに、顔に傷をおってしまったわ。


「それがあんたがいうところの、美男子なんだろう?」

ええ、そうよ。あんなに美しく、勇敢で、強い心の人はいなかったわ。あの人は死ぬまで勇敢だったわ・・・・。


(回想の海戦)

<効果音>破壊音

船員「船長!船長ー!今日の水エレは数が多すぎます!船が、船がもちません!!」

船長「泣き言をいうな!もうすぐ桟橋だ、街のみんなが、この荷物を待っているんだ!」

船員「左舷!被害甚大です!」

船長「こらえろ! もう少し、もう少しなんだ!」

船員「でも、でも!! うわあああ」


<効果音>破壊音


<効果音>波音




あなたは、傷を負う前のあの人に、ちょっとだけ似てるわ。


「死ぬくらいなら、生きて醜いといわれたほうが、賢いとおもうがね」




ええ、そうよね、あなたはあの人とは違う・・・・・

あの人は、愚かだったのかしら。

わたしには、わからないの。

あの人をとめたらよかったのかしら。

とめたらあの人の誇りが、傷ついてしまったのではないかしら。

わたしには、わからないの。

ただずっと、どうしたらよかったのだろうって、そればかりを思っているの。



船頭
「それっきり、女は海のほうをむいて、ひとっことも喋らなくなりましたわ。わしは黙って立ち去るしかありませんでしたわ。なに、つまらん話でしたわ。」



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(あとがき)

第四話は、放送は3回目に実施されました。

録音は先に行われていたの、初期スタッフのひとりの最後の声もはいっています。

メインMCのウィスパーボイスを堪能していただけるかと思います。

また、有名漫画家さんもドラマデビュー作ともなっており、最初から「叫び」という、過酷な要求に応えていただいて、大変ご迷惑をおかけしました。

こちらは後に、スピンオフも作成している題材です。

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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船頭の話 第三話 「死者の国へ」

船頭の話 第三話 「死者の国へ」
             原作脚本;ジニー


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「あー!ベスパーであっしが出会った男の話をしましたっけ?
西の海の果てには、死者の国があると確信してた奴でしたぜ。なに、つまらん話でさ」

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坊ちゃん、ほら、ベスパーの水神祭だっていうのに、いつまでも暗い顔をしているのはどうかと思いますよ。ゴンドラから水路越しに見る祭りの風景は、毎年絶景ですなあ。

坊ちゃん(すねてる、ふてくされている)
「うるさい、だまれジジイ、坊ちゃんとかやめろ。俺をいくつだと思ってるんだ」

ジジイにとっては、坊ちゃんはいつまでも坊ちゃんですよ。
南の商家のお嬢さんに振られたくらいで、いつまでもふさぎ込んで、ひきこもってるようじゃ、まっとうな男とはいえませんわ。

坊ちゃん
「うるさい、俺は振られてなんかいない」

あのお嬢さんは、ブリティンの船主の跡継ぎのところに、嫁にいっちまったんでしょう?

坊ちゃん
「あれは仕方なくだ。あいつは俺のことは好きでたまらないけどって泣いたんだ」

けど、っていいなすったんでしょう? そりゃあ振られたのと一緒ですわ。
あんまりだんな様に、心配かけるもんじゃあないですよ。

坊ちゃん
「うるさいな。こんな祭り、見飽きたよ。」

せっかく上等のゴンドラと、上等の船頭のこのジジイを手配した、だんな様のお気持ちがわからないようではねえ。

坊ちゃん
「おまえは本気で女と恋仲になったことがないから、俺の気持ちなんか、わからないんだ。」

おやおや、いってくれますねえ。坊ちゃんこそ、女のなにを知っているっていうんです。女ってものは、なめちゃいけませんわ。

坊ちゃん
「じゃあ、おまえは知ってるっていうのか。」

そうですねえ、あっしの知ってる女の話をしやしょうか?もっとも、女の話をする前に、男の話をせにゃぁなりませんが。

あっしがまだ、15,6の若造だった頃のことでさ。
あっしがだんな様の商船の甲板小僧をしてたことを、坊ちゃんはしっていなすったかね。

あちこち航海にでたもんですわ。こういっちゃなんだが、あっしはよく働きましたんでね、甲板長にかわいがられていたんですわ。

ベスパーに戻ると、甲板長はあっしに共をさせて、なじみの娼婦のところにいきましてな。

あっしにちょっとした酒代をくれて、近くの酒場で待たせていたんですわ。

<効果音>酒場

ある夜に、ちびちびと酒をなめながら時間をつぶしていると、やたら図体のでかい男が酒場にやってきたんですわ。

<効果音>どかっと座る音と酒を注ぐ音など

そいつは隣に座ると、一番強い酒を注文したんでさ。
潮と汗のすえたにおいのする男で、あっしはそいつを見るだけで恐ろしくてね。

目を合わせないようにしてたんですが、そいつがわしの頭をぽんぽんと叩きましてね。

こづかい銭をやるから、使いをしろというんですわ。


<効果音>お金

あっしは、そりゃあびっくりしましたよ。男があっしの前に、金貨を積み上げたんじゃ。

男は、金貨の半分はやるから、半分を、ある部屋で死んでいる女の葬式代として届けろというんじゃ。

男のシャツの袖口が、血でぬれてましてね。死んだ女ってのは、男が刺して殺したんだと、ピンときましたね。

逃げたらあっしも刺されるんじゃないかと思いましたわ。

それでも、目の前に詰まれた金貨は、無視するには惜しくってねえ。


頼まれてやってもいいけど、わけを教えてくれないならやらない、といったんですわ。

男は、またわしの頭をぽんぽんと叩きましてね。

ひとりくらい、わけを知っている奴がいてもよかろう、と話してくれたんですわ。





たいていの海の男には、兄貴分のような男がいましてね。一人前になるまでに、なにくれと同じ船で世話をやいてくれた、海の兄弟なんですわ。

一人前になると、違う船に乗り疎遠になりますが、会えばいつでも楽しく飲んだくれる兄弟ですわ。

それと、海の男は大抵そうなんですが、立ち寄る港には決まった女がいるもんでね。

男には、ベスパーに寄るたびにかわいがっていた娼婦と、いい仲になったそうで。男は本気になりましてね。娼婦と所帯をもとうと思ったそうでなんですわ。

娼婦をたずねるときは、先触れをするのが普通なんですが、この男舞い上がっちまって、いきなり、柄にもない花束なんぞをもって、娼婦のところへいっちまったんですわ。

まあ、ご想像通り、ほかの客が居たわけなんですが、これがねえ。兄貴分だったんですわ。しかも、兄貴分も本気で娼婦にほれてたそうで。

兄貴分がライバルってんで、男は身を引いて、しばらくベスパーを避けてたようなんですがね、忘れられなくて、もう一度娼婦を訪ねたんですわ。



娼婦は男をみるなり、しがみついて、泣き出しましての。

娼婦
「あいつ、行っちゃった。血を吐く病にかかったから、西の果ての死者の国に行くって、もう帰ってこないって。あんたと幸せになれって言って、あいつ、行っちゃった」

男は面食らいましたよ。男にとって兄貴分は、そりゃあ大切な海の兄弟だったんですから。

娼婦
「あいつを愛してるのに・・・・」


娼婦を支えた男の胸で、娼婦はまっすぐに顔をあげて、男に言ったそうですよ。




娼婦
「あたしはあんたも愛してる。あんたはあたしを愛してる?」


<効果音>ガラスが割れる音、破壊音、どかどかと足音、ドアが乱暴に開閉する音

そのときの娼婦の顔が、人生の中で一番怖ろしかったと男はいったんじゃ。

愛しているなんていわなければ、刺し殺したりしなかったのに、とも言っていましたわ。

男は、これから兄貴分を追って、死者の国へ向かうのだと言って席を立ったんじゃ。

兄貴分に、娼婦がどんなにひどい女だったかおしえてやるんだと。

兄貴分の情に免じて、葬式の手配はしてやったと報告するんだと。

あっちで兄貴分と酒を飲むのが楽しみだと言った男の顔は、晴れ晴れとしてましたよ。


<効果音>お金

男はもう何枚か金貨を放り投げると、グラスを空にして、でていきやした。

あっしはどうしたもんかと思いやしたが、とりあえず金貨を拾って、甲板長がことを終わらせて戻ってくるのを待ったんですわ。

甲板長は娼婦と飲みなおすつもりで、一緒に酒場にきやしてね、あっしがことの次第を話すと、場所をきいた娼婦が真っ青になりましてね。なんと娼婦同士が友達だったんですわ。

<効果音>ばたばたと走り回る音

それからはまあ、大変な騒ぎですよ。


ところが、刺された娼婦はムシの息ですが生きていましてね、女ってのは強いもんですなあ。びっくりするほど血が流れているのに、痛いやら苦しいやらより先に

娼婦
「あいつ・・・・・・許さない・・・・・」

と、きたもんだ。

傷がいえて来たと思ったら、

娼婦
「どっちの男も本気で愛してたわよ。なのにあいつら、ふたりそろって、あたしをじゃけんにしやがって・・・・・。絶対許してなんかやらないんだからね!」

と、こうですよ。まったく女ってのはねえ・・・・・。



坊ちゃん
「ひどい女だな。」

とんでもない、捨てられても刺されても、それでも待ってるとか、かわいいったらないでしょうが。さすが3人の男をとりこにするだけのことはありますわ。

坊ちゃん
「3人?だれだ3人目は」

へっへっへ・・・・・・あっしでさあ。

坊ちゃん
「ジジイ?!」

いやあ、あいつは10も年上なんですがね、つきあいで見舞いにいったりしているうちにですね、まあその、いろいろあったんですわ。

坊ちゃん
「ジジイより10歳も上なら、いい加減ババアじゃないか・・・・・おい、まて・・・・。まだ生きてるのか!?」


いやあ、それがますます元気で。

病気だからって面倒もみれない女だと思ってたのか、刺されたからっていつまでも恨む女だと思ってたのかって、思い出してはえらい剣幕でね。

死者の国に追っかけていくって、ぐずるんですわ。

まあ今はあっしがいますんでね、行くときは一緒にねって、手を握ってやると、おちつくんですわ。

ほんとにかわいいやつですわ。

坊ちゃん
「やめろ!! 気持ちが悪いぞ!!」

坊ちゃん、だから坊ちゃんはわかってないんですわ。

女は本当に愛したら、何人だろうが絶対に手放そうとしないんですよ。

だから、おいて行かれた坊ちゃんは振られたんだって、何度も申し上げているわけで・・・・・・・

坊ちゃん
「ジ、ジジイ、もしかしてそれ、慰めているつもりか・・・・・?」

あたらしいお相手をみつけたほうがいいですと、申し上げているんですよ。


坊ちゃん
「お・・・・・ま・・・・・、わ・・・・・わかった。考えてみる・・・・だからジジイはもう、しゃべるな。黙ってゴンドラを動かしていろ・・・・」

へいへい、あっしは上等な船頭ですからね、おっしゃるとおりにいたしますよ、上等なゴンドラは、上等な動きをしやすからね!ほら、あっちのきれいなお嬢さんたちのほうに、寄せますよ。手のひとつも、振ってごらんなさい、それが男ってもんですよ、坊ちゃん!

<効果音>若い女の子のきゃーきゃーうれしそうな声
 



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(あとがき)

第三話ですが、放送は4回目になっています。

初期スタッフが事情により参加でできなくなり、セリフを削除し脚本を書き直した都合です。

その代わりといってはなんですが、新しいスタッフに参加していただき、その演技力に旧スタッフがあわてふためいたという裏話があります。

新規スタッフは、UO黎明期からのプレイヤーで、その思い出を漫画で表現している有名な方です。

自分でもその方のHPで漫画を読んで、すばらしい話に感動していたので、このような形で知り合いになったことが運命の奇跡としか思えません。

実はこの話が、一番最初に思いついた作品なので、機会があれば本当にやりたかった形でやりたいという気持ちもあります。

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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船頭の話 第二話 「魔女の真珠」

船頭の話 第二話 「魔女の真珠」
          原作脚本:ジニー

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「あー!トリンシックであっしが出会った女の話をしましたっけ?
凄腕の魔法使いでしたぜ。なに、つまらん話でさ」

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<効果音>乱暴にドアが開く音

<効果音>鎧の音、どかどかと足音


なに?! なんなの!!

若い騎士さん、うちはパン屋よ、店のなかで剣を振り回すのはやめてよ!

魔女をだせですって? 呪いをとけですって? 一体何の話を・・・・・・あー・・・・・はあぁぁ・・・・・わかったわ、うちのおじいちゃんね?

船頭をしてるおじいちゃんが、またよけいなことをおしゃべりしたのね。

<効果音>がしゃーん


やめて、やめてよ! 嘘つきは叩き殺すなんて、物騒なことはいわないでよ。おじいちゃんは嘘はついてないわ、少し落ち着いて話を聞いてよ!


昔ある夫婦を知っていたわ。

だんなさんが、騎士になるために、トリンシックへ移り住んできたのだけれど、奥さんの体が弱くてね。だんなさんは、奥さんの薬代のために、剣や鎧は売ってしまい、鍛冶屋で働くようになったのよ。

どんなに高価な、良い薬を使っても、奥さんの具合はよくならなかったわ。

奥さんの身体には海風がよくないというので、ふたりは城壁の外の森の中に、小さな小屋をたてて住んでいたの。だんなさんはそこから、城壁の中の鍛冶屋に通っていたのよ。



だんなさんが鍛冶屋で、夜通しふいごを吹くときは、私がパンといっしょに食事を持って、泊まりにいってたの。

奥さんはそのときはもうほとんど寝たきりでね、私が訪ねると、話相手がいてうれしいと、いろいろ話してくれたわ。

夫婦は徳之島の出身だということや、だんなさんが武士ではなく、騎士になりたがったので、トリンシックにきたこと。
徳之島のミソスープが食べたいけれど、トリンシックでは材料が手にはいらなかったこと。
徳之島の海風と、トリンシックの海風は匂いが違うのだとも言っていたわ。


奥さんはいつも、ひとつぶ真珠のネックレスをしていたわ。

「これは徳之島の海で取れた真珠なのよ。真珠の中に、徳之島の海の一部があるような気がするの」

奥さんは徳之島へ帰りたがっているのだと、さびしそうに微笑む姿をみて思ったわ。でも、長い旅をするのはムリなほど弱っていたのよ。


あの夜も、だんなさんは鍛冶屋に泊まり仕事だったので、私は奥さんに付き添っていたの。でも、だんなさんが予定を代えて急に帰ってきたのよ。

「おまえをびっくりさせることがあるぞ!ミソスープだ!」


だんなさんは、旅の商人をひとり、連れてきていたわ。徳之島から来たという、その商人は、ミソスープの材料を持ち込んで、料理の腕も確かだったので、とても美味しいミソスープを作ってくれたわ。

初めて食べた異国の味は、かなりエキセントリックだったわね。

ミソスープを食べていつもより血色がよくなったおくさんをみて、だんなさんも嬉しそうでね。ふたりの馴れ初めを話してくれたわ。

「まだまだ若造だったころに、どうしても騎士になりたくて、家でして海にでたんだ。ところが嵐に会ってしまった。もうだめだと思ったが、陸に流れ着くことができた。その浜で出会ったのが妻だ。妻の献身的な看病で、俺は助かったんだ。」

おくさんは、だんなさんの話を、恥ずかしそうにほほを染めてに聞いていたわ。

「おまえをムリに、トリンシックに連れてきたのがいけなかった。元気になったら徳之島に帰ろうな」

「いいのよ、あなたの夢だったんだもの。私のために、騎士をあきらめてしまうことになって、ごめんなさい・・・・・・」

ふたりがとても愛し合っているのはわかりきったことだったわ。




「徳之島に帰りたいんだね?」

<効果音>こーん!(狐の鳴き声)


商人の姿が、一瞬で霧に包まれたわ。霧が消えるとそこには見たことのない獣の姿があったの。

「狐!?」

<効果音>割れる音

だんなさんが叫ぶと同時に、獣はおくさんに襲い掛かり、次の瞬間には窓を壊して外に飛び出していったの。

「大丈夫か!?」

「真珠を・・・・・返して・・・・・」

おくさんに怪我はないみたいだけれど、獣は真珠のネックレスを奪っていったのよ。

「取り返す!」

だんなさんは、たいまつをつかむと、獣を追いかけて飛び出したわ。

「お願い、あの人をひとりにしないで・・・・・」

奥さんをひとりにするほうが心配だったのだけど、必死に訴える目を見て、奥さんの言うとおりに、だんなさんを追ったの。

<効果音>草薮を進む音があれば。


先を走る、たいまつの赤い明かりを追いかけたわ。その先には、青白い光がゆらゆらと見えたの。森のくぼ地に、ちいさな池があったわ。獣はそこで止まったの。獣の目は、金色に怪しくひかり、尾は何本もにわかれて、その姿はぼんやりとしたつめたい光に包まれていたわ。

青白い光にうっすらと照らされて、女性が立っていたの。



みたこともない服装をしていたわ。後で知ったけれど、徳之島の民族衣装のキモノというものだったわ。

「わたしは、わたしのものを、返してもらいにきた」

「それは俺の妻のものだ!」

「真珠は、わたしの魔力の一部。おまえの妻は、わたしのよりしろ」

「・・・どういうことだ?」

「わたしは、徳之島の海で、おまえを気に入った。だが、私の魔力は、この地では衰えるばかり。徳之島にもどさなくてはいけない」



<効果音>こーん!(狐の鳴き声)

獣が一声鳴いたとたん、池も、獣も女性も消えていたわ。あとにはかすかに海の匂いがしていたの。

だんなさんとわたしが戻ると、奥さんは・・・・・・・・






奥さんはその姿のまま、砂になっていたの。かすかに、さっきと同じ海のにおいがする砂に。

「なんてことだ・・・・・」

だんなさんが震える手で触ると、砂は崩れてしまったわ・・・・・。

奥さんだった砂を拾い集めて、だんなさんは徳之島へ帰っていったわ。徳之島の海に撒くのですって。




あんなに素敵な夫婦だったのに、奥さんは魔力で作られた、人じゃないものだったのね。

どうしてそんなものを、あの女性は作ったのかしらね。

私のおじいちゃんが会ったことがあるのは、奥さんのほうよ。おじいちゃんはちょっとぼけちゃってるだけなんだから、許してちょうだい。

ところであなたが受けた呪いってなんなの?

ええ?一生恋人が出来ない呪いですって?それはあれね、あなたも魔女に気に入られてしまったのに違いないわ。ご愁傷さまね。

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(あとがき)

第二話も、第一話と同じスタッフで作成しました。

魔女の声には少々加工がほどこされています。

狐の鳴き声にこだわって、いろいろ探したのが良い思い出です。

なんでこだわるかって、そりゃ化け狐ですからね。こだわるしかないじゃないですか!w

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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船頭の話 第一話 「船乗は良い酒が好き」

船頭の話 第一話 「船乗は良い酒が好き」
                    原作脚本:ジニー
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 あー! サーペンツホールドで、あっしが出会った女の話をしましたっけ?
 自分がしんでることにまだ気づいてないんですぜ。
 なに、つまらん話でさ。

**********************************************************************
「きゃあっ」バチン


イタタタタ・・・・・・

あぁ?いい年して女の尻ばっかり触ってるからビンタはられるって?

若いの、あんたはまだ女の恐ろしさを知らんなあ。

まあまあ、呑みながらでいいから、、少しばかりこの年寄りの話を聞きなさいよ。



あれは、まあ、もうちょっとばかり、わしのおつむがふさふさで、肌もつるっつるしてた若い頃のことじゃ。

サーペンツホールドを、おまえさん知ってるかい?
派閥が活発な時代でな。よく小競り合いがあったんで、そういう時は早い時間に酒場から追い出されてしまうんじゃ。

わしは飲み足りなくてなあ。あいてる酒場はないものかと、ちょっと足を伸ばしたのよ。夏の最初の頃でな、酒で火照った身体に霧のような雨が気持ちよかったもんのじゃ。街灯がうっすらと霞んでみえてな、少々散歩したいくらい、しっとりとロマンチックな夜じゃったよ?




ほれ、西のほうに岬があるじゃろ、そこに明かりを見つけたんじゃよ。
近寄ってみると、酒場のようにもみえるし、ただの民家のようにも見える。
窓越しに若そうな女の影がみえたんでな、そーっとのぞいてみたんじゃよ。

いやいや、決してよこしまな気持ちじゃないぞ?
酒場だったらええのうと思ったんじゃが、違っていたら失礼だからの。確認のためじゃ。


そーっと明かりが漏れる窓に近寄って、そーっと見るつもりでそりゃあもう普通なら見つかるはずはなかったんじゃがな、その娘、勘がいいのか偶然なのが、扉を開けおったのじゃよ。



家の明かりに照らされた娘は、年のころ17,8くらいかのう。
別嬪さんというよりは、将来有望だがまだ幼さが残るというか、ほれ、あれじゃ、穢れていないとでも言うのかの、まあはっきり言って、女というよりまだ乳臭いガキという印象じゃったな。

わしは若い頃、といってもいい加減すてきな経験を済ませたあとでの。見てくれも航海の垢も落としていない赤ら顔でおまけに酒臭い。

それなのに恐れもせず娘はな。

「いらっしゃい、飲みにきたの?」

波止場あたりの年増のだみ声とは違って、なんとも心地のいい声でな。

「ここは酒場かい?」

「酒場はだいぶ前にやめてしまったの。でも人を待っているから、話し相手をしてくれるなら飲ませてあげるわ」

そう言われれば遠慮する必要はないじゃろう?

つまみも無く酒だけだったが、しこたま飲んで、わしの航海の与太話にころころとよく笑う娘のただこの娘、ガードが固い上にすばしっこくてのう。

ちょっと尻を・・・・・と思って手を伸ばしてもするりするりと、ころころと笑いながら逃げてしまうんじゃよ。わしのマジックハンドから逃れた女は他にいなかったじゃがのう。
まあ、わしとしても、本気でどうこうする気もなかったんでな、それほど意地にもならんかったんだがの。

娘が気に入ったので、次にサーペンツホールドにきたら、また寄らせてもらうと言ったんだがのう。

「私が待っているのは、ひとりだけなの。その人がもどってきたら、もうここにはいないわ」

女が待つといったらそりゃあ男に決まってるわな。

「あの人から、大切なものを預かっているのよ。だから寂しくないの」


「あの人は約束してくれたの。きっと私をこの島から連れ出してくれるって。約束があるから、私は待っていられるのよ」

娘の目がきらきらと、すこしうるんでいたような気はしたがの。

「そうかい、早く戻ってくるといいな」

わしは娘のところをあとにした。
待って待って待ちぼうけている女なんぞ、いくらでもいるからの。あっさりしたもんじゃよ。

次の朝、起きると気分がすっきりでなあ。よっぽどいい酒だったんだと思ってな、すぐに航海にでたんじゃが元気いっぱいじゃったな。



次に寄った港の酒場で、サーペンツホールドにそんな可愛い可哀想な娘がいた話を、飲みながら笑い話で話していたときじゃった。



盆をひっくり返した中年の給仕が、膝をついてがくがくと震えておるんじゃ。

給仕には左腕がなくてな、起用に右腕1本で仕事をしていたんじゃが、顔が真っ青を通り越して真っ白になっとったの。

これは心の臓でも悪いんじゃないかと椅子に座らせたんじゃが、震えながら、ぶつぶつとなにか言っておるんじゃ。

「そんな・・・まさか・・・・そんな・・・・まさか・・・」

よくよく見ると、やつれてはいるがいい男での。酒場なんぞで給仕のような下働きをしているのは似合わない男じゃったよ。

「どうしたんだ、どこが苦しいんだ?」

「その娘の家はどこいらへんにあった。どんな顔の娘だった。髪の色はなに色だった。」

「お前・・・・あの娘を知っているのか?」


「あの娘は17で・・・・・、死んだはずなんだ」

40にもなろうかという給仕が、あんな若い娘と恋仲だったのか思うとちょっとびっくりしたがの、波止場ではそう珍しい話でもないのう。

「そんなはずはないだろう。俺は話をしたし、酒も飲ませてもらったぞ」

「あの娘は船から海に落ちて、シーサーペントに飲まれた。最後に俺がみたのは、、シーサーペントの口の中の娘の上半身だけだった。あの娘は必死に俺の腕にしがみついた。俺は・・・・・・」



「俺は自分で左腕を叩き切ったんだ・・・・俺が18の時だった・・・・」




給仕は店主に付き添われて、奥へ引っ込んでしまい、わしらは興がさめてしまっての。飲みなおしたわ。

盆をひっくり返した給仕が、面白いと思って場をしらけさせたと、店主に文句をいったもんじゃよ。

大体40ほどの給仕が18の時に17だった娘と、同じ娘のはずがありえんじゃろう?


4.5年もたってから、サーペントホールドへ行く航海があっての。
ふと思い出して、娘の酒場を訪ねてみたのよ。
冬の寒い夜じゃったが、まだ男を待っているのか、もう島をでたのか気になっての。

明かりがついていて、窓越しに若い女の影が映ったんじゃよ。

誰かいるならと思って窓から様子をみようとすると、扉が開いたんじゃ。



「いらっしゃい、飲みにきたの?」




寒い夜じゃった。だがわしが氷の海に突き落とされたように凍えたのは娘の姿も声も、4,5年前とまったく変わっていないからだったんじゃ。

わしは「家を間違った」とあたふたと言い訳をして宿に帰って、いつまでも震えがおさまらないまま朝の迎えたんじゃ。




朝になってわしは、娘の酒場にいってみた。
そこは屋根がかろうじて落ちてないほどの廃屋じゃった。
わしが酒を飲んだテーブルには、雨水のたまった、欠けたグラスがあったんじゃ。

どおりで娘のところで飲んだ後、二日酔いにもならないはずだと、わしは笑ったものじゃよ。

それ以来じゃよ。わしは酒場の女の尻はかならず触るんじゃ。

死んだと気がつかずに男を待ってる女に、雨水を飲まされたくないからの。

なあ、若いの、触って初めて信用できるんじゃよ?ほっほっほっ・・・

「きゃあっ」バチン

ほっほっほっ・・・・・

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(あとがき)

記念すべき第1話は、男性2名、女性2名のスタッフで作成しました。

声優として参加したのは、男性2名と女性1名。

集まったスタッフが、ほんとうにたまたま、ラジオドラマを作成するのに必要なスキルを持ってたというすばらしい出会いのたまものです。

とは言っても、素人の集まりですから、気分は学芸会ですし、できも押してしかるべしw

このドラマを聴いてくださった無限民は、「無限のじいさま」が、なぜ *さわっ* と女性のおしりをさわっていくことにあれほどの情熱を傾けているのか、理由を知ったのでした。

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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