船頭の話 第十話 「シーサーペントになった男」

船頭の話 第十話 「シーサーペントになった男」
                原作脚本:むらさきうに

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あー
サーペンツホールドであっしが出会った男の話をしましたっけ?
シーサーペントになったやつなんですぜ。
なに。つまらん話でさぁ。

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(酒場のにぎわい)

男「・・・なんだい爺さん。俺の顔になんかついてるかい?」

老船頭「お前さん、きれいな青い瞳じゃなぁ」

男「ああ・・ははは」「おかげで酒場の女たちにはモテモテさ」

老船頭「ほほほっ!」「まるでシーサーペントの瞳じゃな」

男「シーサーペントって・・・瞳が青いのか?」

老船頭「ああ、そうとも」「船乗りなら誰でも知ってることじゃよ」

(ハープの音)

男「爺さん、吟遊詩人かい?」

老船頭「いや、わしゃただの音楽好きの船頭じゃよ」「もっとも、吟遊詩人になれるくらい沢山

の物語に出会ってきたがの」

男「へえー」「それじゃなにかひとつ聞かせてくれよ」

老船頭「一杯おごってくれたらの」

男「ちゃっかりしてやがるぜ」

(酒を注ぐ音)

老船頭「そうじゃの・・・」「では、青い瞳にまつわる古い話をしてやろう」

(ハープの音)

(波の音)

青い瞳のセニック少年は、ブリティンの近郊の海辺に住んでおった。

家族は漁師の父親にお針子の母親、そして、幼いのにとても美しいと評判の妹、キャロン。

キャロンはやさしい兄セニックが大好きじゃった。
大好きといっても、大人が考えるような恋愛的なものではなく、子供の純粋な友情のようなものじゃて。

キャロンは海が好きで、いつも浜辺で遊んでおった。
健康的に焼けた小麦色の肌が、キャロンの美しさを引き立てておった。

セニックはというと、漁師の父親の仕事を手伝わされておって、あまり海が好きではなかったようじゃ。
自分の生れついた家の貧しさも、セニックには不満のようじゃった。

キャロンは大きくなったらさぞ美しい娘になるだろうと噂されておってな。
気の早い貴族たちが自分の息子と結婚させようと贈り物を持って家に押しかけるほどじゃった。

貧しかった両親は、なんとなくその贈り物を受け取っているうちに断り切れなくなり、とうとうある貴族の息子と婚約させられてしまったんじゃ。
キャロンはまだ11才だったそうじゃ。
相手がまた・・・底意地の悪いいじめっ子で有名なドラ息子じゃったんじや・・・

嫌がって泣き崩れる妹を見て、セニックは決意した。

妹を連れて逃げることにしたのじゃ。

ふたつの月が輝く夜、兄妹は窓から家を抜け出し、海辺に沿って走り続けた。
しかし、そこは子供の浅はかさで、どこへ逃げるかも決めておらんかった。
それでも、探しに来た大人たちから姿を隠し、浜辺で貝や海藻を拾って食べながら、10日近く逃げ回ったそうな。

(静かな波の音)

キャロン「お兄ちゃん、ごめんね。」「あたしのためにこんなことになって・・・」

長い逃亡劇のせいで、衣服も顔も汚れてしまったが、それでもキャロンは美しかった。
セニックはそんな妹を愛おしく思っておった。

セニック「お前が悪いんじゃないよ。父さんと母さんがいけないんだ。」

セニックは顔を曇らせてつぶやいた。

セニック「貧乏に負けてお前を貴族に売り渡そうとするなんて、親のすることじゃないよ!」

キャロン「そんなこと・・・ないと思うな」「父さんも母さんも、家族みんなが幸せになること

を考えたんだと思う・・・」

自分の境遇を悲しんでも、人を恨むことを知らないキャロンじゃった・・・

キャロン「もし、みんなが幸せになれるのなら・・・あたしは・・・」

そう言ってキャロンは物憂げに月を見上げた

キャロン「・・・あ!」

(神秘的な音)

セニックも思わず月を見上げた。

二つの月が、今まさに重なってひとつになろうとしておった。

神秘的な光景に圧倒されて、ふたりはただ茫然と月を見つめた。

一つになった月は、モンスターの充血した眼玉のように赤みを帯びていた

(草をかき分ける音)(足音)

ふと、セニックは気配を感じて我に返った。


村人「おーい!キャローン!セニックー!」

村人「出ておいで―!!」

セニック「キャロン!行こう!」

(走る音)

セニックはキャロンの手を引いて、ひとつに重なった月のうすら赤い光に照らされながら、海辺を走り続けた。
じゃが・・・

セニック「しまった!」

ふたりは最果ての岬に追い詰められてしまったんじゃ。
岬の崖は高く、下にはごつごとした岩礁が白波を立てておった。

左右の海岸線に沿って、松明の明かりがだんだん近づいてくるのが見えた。

キャロン「お兄ちゃん。もういいよ。」「迷子になったふりをして出ていこうよ」

セニック「あきらめちゃダメだっ!」「お前を貴族のところへなんかやるもんかっ!」

キャロン「でも・・・このままじゃ、お兄ちゃんが・・・」

(迫ってくる足音)

その時じゃった

海の女神「キャロン・・・美しき人間の子」

ふたりが振り向くと、一つになった月を背負うように、細身の美しい女性が立っていた。
・・・いや、立っていたのではなく、その女性は宙に浮かんでいたんじゃ
緑色の長い髪をしたその女性は、きらきらと輝く水色のドレスを纏っていた
とても美しいが、どこか恐ろしげな威厳に満ちあふれておった・・・・

伝説の、海の女神じゃよ。

セニック「お前は・・・誰だ!!」

海の女神は、セニックの問いかけに答えず、目を細めてキャロンをじっと見つめておった。
口元は微かに微笑んでいるように見えた。

海の女神「お前が海を愛したように、海もお前を愛している・・・」

キャロンの表情から恐怖が消え、夕凪の海のようにおだやかになった。

海の女神「さあ・・・おいで」

女神がそういうと、キャロンは静かに目を閉じて、何かに取り憑かれたように、ふらふらと女神の方に歩き出した。

セニック「だめだ!キャロン!」

キャロンの腕を掴もうとしたセニックの手は空を切った。
キャロンの体は淡い光に包まれ、引き寄せられるように宙に浮かぶ女神の元へ向かった。
キャロンもまた、宙を歩いておった。
女神がキャロンの手を取ると、キャロンの体はまぶしい光を放ち、光は形を変えていったんじゃ。

(イルカの声)

セニック「キャロン!!」

なんと、キャロンは白いイルカの姿になった。
イルカは一鳴きすると、女神の元から勢いよく海に飛び込んでいったんじゃ。

(海に飛び込む音)

女神はイルカになったキャロンを見送ると、またうっすらと微笑みを浮かべて、霞のように消えていった。
セニックは、あまりのことになにも出来ずに立ちすくんでおった・・・

・・・・それからのセニックの境遇は悲惨じゃった。

妹を連れ去ったことを大人たちに咎められ、挙句の果てには殺したのではないかと疑われた。
事の次第を説明しても、嘘つきとののしられ、村人からも嫌われるようになった。
婚約がご破算になったことを貴族に責められた父親は酒に溺れ、母親は心労のあまり病に倒れた。

そして・・・・

(戦乱の音)

(悲鳴)

(火災の音)

暗黒の魔女が起こしたブリティン侵攻の戦乱に巻き込まれて、家は焼け落ち、両親も、貴族も、村人もみな死んでしまったのじゃ・・・

(波の音)

セニック「キャロン・・・・」

セニックはひとりぼっちになった。
唯一の肉親は、白いイルカになったキャロンだけじゃった。

セニックはブリタニアの港町を渡り歩いた。
そして、船員や荷役の仕事をしながら、海の女神に会う方法を聞いて回ったんじゃ。

じゃが、その方法を知るものなどおらんかった・・・。
時にはバカにされ、時には騙されて金品を巻き上げられた。

セニック「なぜ・・・、なぜ俺だけがこんな目に遭わなければならないんだ・・・」

セニックの心は大人たちへの不信感であふれだした。
セニックは働くのをやめ、盗みを働くようになった。
稚拙じゃが、大人への反逆だったのかもしれんのう・・・

・・・数年が過ぎた。
セニックは青年になった。
そして、お尋ね者にもなっておった。
あちこちで盗みを働き、人を危めた結果じゃった。


(酒場の喧騒)

男「ふーん。」

老船頭「なにがふーんじゃ!」

男「まあ、よくあるおとぎ話だよな」

老船頭「おとぎ話じゃないぞ」「わしは、そのセニックとやらに遭ったことがあるんじゃ」

男「ホントか?!」

老船頭「サーペンツホールドでな」「わしを後ろからこん棒で殴って、財布を奪って行きおった・・・」

男「そりゃ、ひどい目に遭ったの間違いだろ・・・」

老船頭「逃げながらあやつが振り向いた時、わしゃ確かにあの青い瞳を見たんじゃ」「いや・・・見たような気がする」

男「おいおい・・・」


(街の賑わい)

セニックは、他の無法者と同じく、バッカニアーズ・デンに流れ着いていた。
無法者が集まる街には、賞金稼ぎもやってくる。
ここもセニックにとって安住の地ではなかった。
夜の闇にまぎれ、すり切れたアンブラローブのフードを深々とかぶり、目立たぬように桟橋の隅の木箱の間に身を隠した。

(波の音)

セニックは海を見つめた。
今やキャロンとの再会だけが、セニックの唯一の希望じゃった。
妹の笑いさざめく声と、幸せそうな笑顔が思い浮かぶ瞬間だけが、セニックの幸福な時間じゃった。

ふと、人の気配を感じ、セニックは隠し持ったダガーに手をかけた。

謎の老人「・・・おぬし、海の女神に会いたいのか」

灰色のローブを着た老人がセニックの前に立っておった。

セニック「なに?!知ってるのか!?」

謎の老人「会ってどうする?」

セニック「妹を返してもらう!」

謎の老人「無駄なことだ」

セニック「無駄だとっ!?」「俺は・・・」

謎の老人「お前の妹は自ら望んで海に還ったのだ」「海の女神は、それを助けたに過ぎぬ」

セニック「お前・・・何者だ!」

謎の老人「命はみな、海で生まれて海に還る」

老人はそういうと、桟橋の先に向かって歩き始めた。

セニック「まっ、待て!!」

セニックは老人を捕まえようと転がるように木箱の間から飛び出した。
老人はどんどん桟橋の先へと歩いて行く。
その先は、海じゃった。

老人はそのまま歩き続けた。
そう、老人は海の上を歩いておったんじゃ。
10メートルほど海の上を歩いた老人は、呆然として見つめるセニックの方へ向き直った。

謎の老人「明日の夜、あの夜と同じく月が一つになる」「あの岬に行ってみるがよい」

老人はそういうと、ゆっくりと海の中に沈んでいった。

セニックは走った。
明日の夜までに、あの岬にたどり着かねばならん。
魔法も使えず、ムーンゲートを通ることも出来ない犯罪者のセニックにとって、ブリティン近郊のあの岬はあまりにも遠すぎる。
セニックは港で小舟を奪った。
そこでまた、何人かの人を危めてしまったが、気にしている暇はなかった。
一晩中オールをこぎ続けてセニックはやっとの思いで大陸へと渡った。
そして、ひたすら走った。
女神が現れたあの岬。
キャロンが白いイルカになったあの岬へ・・・

セニックが岬にたどり着いたのは、夕暮れ時じゃった。

セニック「月は・・・」

薄暗くなり始めた空に、少しずつ近づくふたつの月が浮かんでおった。
セニックはじっと月を見つめ続けた。

どのくらいの時間が流れたのじゃろう。
ふたつの月はついにひとつに重なり合った。

薄赤く染まった月の光の中に、ぼんやりと霞がかかったかと思うと、やがて人の形が現れてきた。

セニック「海の・・・女神」

女神はセニックに目をやった。
じゃが、その目はキャロンを見た時のやさしげな目ではなかった。

海の女神「醜き人間。汚れた魂のけもの・・・」

セニック「妹を・・・妹を返せ!!」

海の女神「あの子は海に還ることを望んだ」「だから迎え入れた」

セニック「そんなはずはない!」

海の女神「わからぬのか」「あの子はお前に迷惑をかけまいと海に還る道を選んだのだ」

セニック「でたらめを言うな!」「それで俺がどんな目に遭ったか・・・」「妹を返せ!」「返せーっ!!」

セニックはわめき散らしてダガーを振り回した。

海の女神「愚かなけものよ・・・」「あの子を追い詰めたのは己自身だというのがわからんのか・・・」

女神は眉をひそめて目線をそらしたが、なにかに気づいたらしく、また、セニックを見つめ始めた。

海の女神「けものの魂に・・・・一筋の光が見える」

セニック「なっ・・なに?」

女神は目を細めた。

海の女神「妹を愛する兄の心の、やさしさの光・・・」

女神は、そっとセニックを指さした。

海の女神「機会を与えようぞ」「お前も海に還るがよい」「そして自分で探すがよかろう」

セニック「俺を・・・イルカにするのか?」

海の女神「お前の心は醜い」「その汚れた魂では美しき姿で海には還れぬ」

セニック「・・・それでも」「キャロンを探せるのなら・・・」

女神は一瞬の笑みを浮かべると、セニックを招き寄せた。
セニックの体は淡い光に包まれ、女神の元へと歩み寄った。
女神はセニックに触れた。
その瞬間・・・

セニック「うわぁぁぁ1!」

セニックの体は黒ずみ、何度も歪んで変形していった。
やがて醜いシルエットを浮かび上がらせ、吠えた。

ぐぉぉぉー(シーサーペントの吠え声)

海の女神「なんと醜いけものであろう・・・」

セニックはシーサーペントに姿を変えた。
そして、女神の元から海へと落下していった。

(重量物が海に落下した音)

シーサーペントはしばらくあたりを狂ったように泳ぎ回っていたが、やがて沖の方へと去って行った。

女神は空しげにうつむくと、霞が散るように次第に姿を消していった・・・


(シーサーペントの吠え声)

シーサーペントになったセニックは、喜んでおった。

醜い姿でも構わない。
自由に海を泳ぎ回れる。
これでキャロンを探すことができる。

じゃが、広い海原で二人が出会うのは奇跡に近かった。
セニックはそれでも必死で白いイルカの姿を求めて彷徨った。

どすっ(矢の刺さる音)

セニックは背中に痛みを感じた。
水上に目をやると、そこには一艘の船が浮かんでいた。
船の上にはふたりの男が立ち、弓を構えてこちらを狙っていた。

ぐぉぉぉー(シーサーペントの吠え声)

セニックの怒りの炎は燃え上がった。
矢を射られたことへの怒りではなく、妹を探すのを邪魔された怒りじゃった。
人間はいつも彼の邪魔をする。彼の言うことに耳を貸さず、彼を疑い、彼を騙し、彼をバカにした。
人間は彼の敵以外の何者でもなかった。

(シーサーペントの吠え声)
(船の破壊音)
(悲鳴)

セニックは、身も心もモンスターになってしまった。
セニックは行く先々で船に襲い掛かり、殺りくを繰り返した・・・

(神秘的な音)

桟橋でセニックが出会った老人と海の女神は、空の上からその惨劇を見つめておった。

謎の老人「・・・やはりこのようなことになりもうした」

海の女神「一筋の光の輝きに希望を託したが・・・やはりけものであったか」

謎の老人「このまま闇の底に落ち込めば、あやつは妹までも食い殺すでしょうな」

海の女神「あの子は肉体も魂も清らか」「だから美しい姿で海に還ることができたのだ」

謎の老人「御意」

海の女神「その兄は、あらゆる怨念と確執を腹に溜め込んで魂を腐敗させた」「生きていれば楽

しいこともあったはずなのに・・・」

謎の老人「生きるものにとって最大の不幸は、自分を不幸だと決めつけることに他なりませぬ」


(イルカの鳴き声)

・・・それからまもなく、ニュジェルムパレスの池に、白く美しいイルカが現れた。
愛を成就させる不思議な力を持つイルカじゃった。
言うまでもなく、セニックの妹キャロンじゃ。

一方、シーサーペントになったセニックは、女神の力で引き離されたとも知らず、いまでも妹キャロンを探して海を彷徨っているそうな・・・・


(酒場の喧騒)

老船頭「・・・どうじゃ」「悲しい物語じゃろ?」

男「ぐー・・・」

老船頭「なんじゃい!寝とるんかい!!」「・・・それじゃ、残りの酒はもらって行くぞ」「うへへへへ」


(ドアの開閉音)

(波の音)

(足音)

遠くから(シーサーペントの鳴き声)

老船頭「・・・お?」

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(あとがき)

船頭の話第二シーズンは、投稿作品を提供していただくことになり、その1作目となります。

作者はUO漫画界でもっとも有名といえるあの方。切なくも無情な物語となっています。

今回は、子供役の女性の声を思いっきり加工し、幼女の声として表現しています。この声には萌えファンが多くついたという噂も・・・・・・もちろん一回限りではもったいないので、後日この幼女声は復活するのですが。

尚、この記事の掲載に関しては、作者の許可を頂いております。

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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