船頭の話第十一話 「忍者に襲われた男」

船頭の話第十一話 「忍者に襲われた男」
            原作:しば
            脚本:ジニー

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あー!
ベスパーであっしが会った男の話をしましたっけ?
忍者に襲われた奴の話を。なにつまらん話でさ。

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ベスパーでは船頭が暇ってことはまずはない。

ゴンドラで水路をゆっくり進みながら街をめぐる観光が人気だからだ。

特にニジェルムで結婚式をあげたあとに、新婚旅行で訪れるカップルも多いですしね。

わしがその日に乗せていたのも、結婚式のためにニジェルムに向かう途中でベスパーに寄ったというカップルだった。

ただいつもと違ったのは、結婚式直前のカップルというのは幸せそうにべったりくっついてくつろいでいるのが普通なのに、そのふたりはいやに緊張した面持ちだった。


特にだんなのほうが顔色が悪いのが気になった。

嫁さんのほうは、そんなだんなを気遣いつつ、あたりに気を配ってきつい目をしていた。

だんなは、ブリティンで働いている学者さんという話で、なるほど、あまり外を歩かないのか日に焼けていない顔色で、体の線も細くって、そのかわりといってはなんですが、えらいあたまのよさそうな、インテリっぽい顔つきでした。

一方の嫁さんは、だんなよりかっぷくがよいくらいで、子供を何人でも埋めそうな、健康そうな女でした。

ふたりはムーングロウ出身で、結婚式をあげたら、故郷のムーングロウへ帰るという話でした。

ふたりの会話を聞き耳をたてて聞いていたわけではないのですが、ときおり嫁さんが声を大きくしているのがいやでも聞こえました。


「だいじょうぶよ、あなた。いくらなんでも船にちかづいてくればすぐわかるもの。」

だんな

「でも、・・・・・今までのことを考えるともう恐ろしくて・・・・・」


「わたしが守るから絶対に大丈夫よ」

およそ恋人同士とは思えない会話にびっくりはしましたけどね。

だからといってこちらから事情を聞くのもはばかれましたので黙って船を操っていましたよ。

効果音:船ぶつかる

水路から街並みを観光するいつものコースですが、橋の下をぬけようとしたら、船がなにかに引っかったようで動かなくなりました。

丁度大きな橋の下で、陸にいる人間からは見えないので助けも呼べません。

船頭
「お客さん、ちょっと待ってください。船がなにかにひっかかったようなんで。障害物をはずしますんで、ちょっと船が揺れるかもしれません。動かないで待っていてくださいよ。」


「船頭さん、こういうことってよくあるの?」

船頭
「めったに無いですね、ベスパーの水路はいつもきれいにされてますからね。」

嫁さんの表情が、さらにきつく緊張するのがわかったが、船が揺れるのがこわいのだろうくらいに思っていた。

船先の水面をのぞくと、なにやら流木のようなものが浮かんでいて、そのために前に進めなくなっているようだった。

船頭
「お客さんに頼むのは申し訳ないんですが、これはひとりではムリですわ。だんなさん、手伝ってもらえますか?」

うなずくだんなを制して、嫁さんがすっと立ち上がった。



「わたしが手伝うわ。あなたはじっとしていてね」

だんなは顔色をさらに悪くして、こくんと一度うなずいた。

姉さん女房かな、とわしは思いましたよ。

嫁「流木かしら。船を後退させることはできるかしら?」

船頭
「はい、そりゃ簡単なことです。」


「少し船をさげてちょうだい。障害物はわたしが消してあげるわ。」

船を後ろに進めると、水面に浮かぶ障害物にむかって、嫁さんが呪文と共に炎を発射しました。

効果音:FA1発

障害物は強い炎をうけてこなごなになり、みなもへ沈んでいきました。。

船頭
「こりゃまた驚いた。嫁様は魔法使いでしたか。」


「ムーングロウの女のたしなみよ。

嫁さんはにっこりと笑った。

そう美人でもないと思っていたが、笑うと存外愛らしい。

効果音:船揺れる



だんな
「た、たすけ・・・・!!」

だんなのくぐもった悲鳴が聞こた。

効果音:だんな暴れる

船がたいそう揺れて、必死に船べりにつかまってだんなのほうを見てみると、複数の男がだんなを押さえ込んでいた。


「あなた、目をつぶって!」

嫁は叫ぶと、すごいはやさで呪文を唱えて、小さな魔法の炎を不埒者たちに順番に発射した。

効果音:MA6発+消える音5発

炎にあたると男たちの姿は煙のように消えていき、最後に残った男は、炎があたった瞬間にまゆをひそめると、無言のまま水面に落ちてそのまま見えなくなった。

効果音:水に落ちる

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「あなた、だいじょうぶ?」

嫁はますます青ざめて震えているだんなを、豊満な胸にしっかりと抱いた。



だんな
「こんな船の上で襲ってくるなんて・・・もうむりだよ。ニジェルムでの結婚式ははあきらめて、ムーングロウに帰ろう。僕はもう一歩も家の外にはでたくない。」


怖い思いをしたのはわしも一緒ですからね、事情を聞く権利もあるってものです。

船頭
「いったいなにごとなんです。あの男はなにものなんです」



「迷惑をかけて悪かったわ。夫はあの忍者に狙われているの。」


船頭

「忍者なんてものは、旅人に聞いたことはありましたが、実物は初めてみましたよ。上から下まで真っ黒な服装で、頭巾から見えた目が、妙にぎらぎらしてたのが怖ろしかったですよ。それが6人もいるなんて、なんておっかない。」


「そのうち5人は忍者の分身よ。炎をぶつけたら消えてしまったでしょう?」

嫁さんがいうには、結婚式の資金を稼ぐために、ゼントへ講師として出向していただんなが戻ってから、おかしなことが続いたそうなんです。

ゼントでの仕事が終わっていないからもどれという手紙が、だんなが住んでいる家のポストに届いたり、夜遅くに同僚と一緒にだんなが帰宅途中に、誰かにつけられている気配をよく感じたりしたそうです。


ニジェルムパレスで結婚式をあげるために、ブリティンからベスパーへ、陸路で旅をしている間も、なんどかこういった襲撃があったそうです。


「わたしが全部、撃退したけれどね。」

嫁さんはなかなかの魔法の使い手のようでした。

だんな
「じかに襲ってきたとなっては、君まで危険だよ。いくら君が腕のいい魔法使いだといっても、女なんだから・・・・・。怪我でもしたら僕は一生後悔するよ。ムーングロウにひきかえそう。」


「怪我なんかしないわ。ニジェルムパレスで結婚式をするのが、ずっと夢だったのに、引き返すなんて絶対にイヤよ」


だんな
「でも僕は本当に、君の安全が心配なんだよ。」

ひょろっとしてまったく弱そうなだんなだが、嫁さんの心配だけをしているあたりなかなかに良い男だと思ったものだ。

嫁さんも、だんなの気遣いをとてもうれしく思っているように表情をやわらげた。


「わかったわ。じゃあ、わたしが危なくないように、解決しましょう。船頭のおじさん、迷惑ついでに協力してもらえるかしら。」

わしはこのカップルにかなり好感をもってしまったので、危ないことはしないという条件で手伝うことにした。


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効果音:人ごみ、ざわざわ


数日後に、ふたりが泊まる宿屋に人だかりができた。

宿屋の中から、激しく言い争う声が聞こえている。


「もうイヤ!あなたなんかと結婚なんかできない!」

だんな
「ぼ、ボクだってごめんだ。君は気が強すぎるんだ!ボクのほうだって結婚なんかできないよ!」


結婚式直前のカップルの大喧嘩を宿屋の人間も、近所の住人も、ひやかすように聞いていたのだ。


「あなたなんか大嫌い!もうこんなところいられない。ムーングロウに帰るわ!」

効果音:ドアが乱暴にしまる

しばらく言い合ったあとで、嫁さんのほうは宿を飛び出していってしまった。


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嫁さんにでていかれただんなは、ひとり部屋で泣いていた。

効果音:ノック、ドアがあくわしは騒ぎを聞いて、だんなの部屋を訪れてだんなを慰めた。

犬の散歩の途中だったので、犬も一緒に慰めるように、だんなの頬を流れる涙をなめとっていた。

犬:きゅーん


船頭
「だんな、だいじょうぶですか?」

だんな
「だいじょうぶじゃないよ。でもしょうがないんだ・・・・・・」


猫:鳴き声

船頭
「おや、宿屋で飼っている猫でしょうかね?」

猫はドアの隙間から、部屋に入ってくると、だんなの足元にすりよった。

猫:鳴き声

犬がいるというのに、まったく気にする様子もない。

犬のほうも、猫を無視していた。

船頭
「だんなさん、いきなり一人寝もさびしいでしょう。猫でも抱いて、今日は寝るといいですよ」

だんなは猫を抱き上げて膝にのせた。

だんな
「猫は好きだよ。暖かくて、やわらかくて、まるで彼女のようだ・・・・・」

猫はだんなの顔をまじまじと見上げると、だんなの両肩に前足を伸ばしてつかまった。

そして男の声でしゃべった。

忍者
「われと一緒にこい。」




だんながびっくりして猫を掘り投げようとしたが、猫はつめをだしてだんなにしがみついた。

だんな
「イタイイタイ!」

忍者
「じっとしていれば怪我はしない」

わしはびっくりして腰を抜かしてしまったわ。

効果音:変身解除

猫は白い煙と共に、黒装束の忍者の姿になった。

手に持った短剣が、だんなの首筋にあてられていた。

わしの犬は、腰を抜かしたわしの後ろに隠れて、尻尾をまいて震えていた。

船頭
「あんた、なんのためにそんなことを・・・・」

忍者
「おやかたさまの勅命だ」

男は冷酷な声で言うと、だんなを立たせた。

忍者
「一緒に来い」

だんなは恐ろしさからまともに経っていられないようだった。

船頭
「まってくれ、縁あってその人の嫁になる人も知っている。その人がどうにかなるのなら、わしは顛末をおしえてやりたい。」

だんなは震える声で忍者に聞いた。

だんな
「ボク、殺されちゃうの?」

忍者はだんなとわしを交互にみると、一瞬思案したようだったがこたえた。

忍者
「殺しはせん。よかろう、おまえも一緒に来い。

あの女がこいつを完全にあきらめられるように、どうなったかを教えてやれ。」

男は、ふらつくだんなを手早く縛り上げると、丸めたじゅうたんを担ぐように背にのせた。

忍者
「このほうが早い。おまえは歩けるな?」

わしはなんとか立ち上がると、尻尾をまいて震えている犬を抱き上げた。

忍者
「犬も連れて行く気か」

船頭
「おいていったら宿屋が迷惑だろう」

忍者
「そいつは犬としては使い物にならんな」

忍者の目が笑ったような気がした。

人目につかないような路地を選んで忍者が目指したのは、ベスパーで一番高級な宿屋だった。

その宿屋でも一番いい部屋に、忍者は入っていった。

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忍者
「高貴な方がおられる。そそうの無いようにせよ。」

部屋の中には、香水とは違うお香の香りが漂っていた。

忍者はだんなを丁寧に椅子に座らせると、拘束をといた。

わしも犬を床におろしたが、犬はあいかわらず尻尾を丸めたまま、わしの後ろに隠れてしまった



部屋の奥のカーテンに仕切られた向こうから、ゆったりとした女の声がした。


「だれぞ、もどったのかえ?」

忍者は床に膝と、右手のこぶしをつき、頭を下げていった。。

忍者
「おやかたさま、わたくしにございます。

おいいつけの人物、ともなってまいりました。」


「ようやった。仕切りをあけよ。顔を見たい。」

仕切りのカーテンがしずしずと開いた。

開ききる前に、カーテンをひるがえして、若く小柄な娘が飛び出してきた。


「先生!やっとお会いできたのね」


着ている服装も装飾品も、高貴な人が身につける上等なものだった。

奥には娘の母親と思われる女性が、数名の次女を従えて座しいた。

奥に座っている娘とよく似た、母親と思われる女性は、背筋をぴんと伸ばし、りんとしていた。

手には煙が一筋のぼるキセルを構えていた。



「ひかえよ!なんとはしたない!」



効果音:キセルを叩く音

母親はキセルをキセル箱にあてて音をたてた。

母親の一喝で、だんなに駆け寄って抱きつかんばかりの勢いだった娘がびくっとたちどまり、おずおずと母親を振り返った。



「娘よ、まだまだ思慮が足りないようですね。」

母親は、視線を娘からだんなにうつした。



「ゼントでは娘が世話になったようですね。思ったよりも頼りない風体の男だこと。さて先生、聞かせていただきましょうか。娘と約束をしながら、いっこうにゼントにもどらぬとは、どういう了見なのです」


忍者の目も怖ろしいと思ったが、この母親の眼光はもっと怖ろしかった。

だんなはびくっとしたものの、母親から目をそらすことなく、震える声ではっきりといった。

だんな
「ゼント滞在中は、お世話になりました。しかしお嬢さんとはなんの約束もありません。」

母親は眉間にしわをよせて、不快感をあらわした。

キセルを口にあてると、ゆっくりと吸い込み、すーっと一筋の煙をはいた。

それをみただんながまた、びくっと身体を震わせた。



忍者
「このもの、他の女と結婚しようとしておりました。

姫様にふさわしき人物とは到底思えませぬ。」

忍者が顔を伏せたまま言った。


「うそよ!」

娘が、叫んだ。

母親の目がさらにつりあがったが、娘は気がつかずにだんなに駆け寄ると抱きついた。

どうやら、母親の厳しいしつけにもかかわらず、はしたないことをしてしまう娘のようだ。


「婚約者がいるなんて、うそよね、先生。お母様がこわいから、うそをいって私から去ったのでしょう?」

娘の言葉を聞いた母親が、さらに目をつり上げたが、なにもいわずにキセルを口にあてた。

ゆっくりと上品に、観察をしているようだった。

だんな
「ボクはもうすぐ、大好きな人と結婚するんだよ。君の気持ちにはこたえられないよ。」

だんながよわよわしく、娘を遠ざけようとしたが、娘が抱きつく力のほうが強かったようでどうにもできない。

娘は興奮して涙を流しながらだんなを抱きしめた。


「もう、うそはいわなくていいのよ。わたしに優しくしてくれるのは先生しかいないの。先生はわたしのそばにいなくちゃだめなのよ。」

わしはなんとなく事情がわかってきた。

だんなは娘をふりほどけないまでも、自分は幼馴染と結婚するんだと、力ないながらも繰り返していた。

母親は、キセルをふかしながら、無表情にふたりのやり取りを見ていた。

やがてだんなが抗議するのをあきらめたのか黙ったために、娘の、だんなの言葉を無視した、うれし泣きの声だけが室内に静かに響いていた。

そのとき、忍者が言った。

忍者
「姫様、そのもの姫様に相応しいとは思えませぬ」

その声が、さっきよりも若干弱弱しく、懇願しているように聞こえたのは気のせいではなかったろう。

忍者の気持ちに娘はまったく気がついていないようだった。


「うるさい!おまえに何がわかるの!たかが、やとわれの忍者のくせに!」

効果音:犬一声吼える

わしの後ろに隠れていた犬が、一声吼えると娘にむかって突進した。

だが、たどり着く前に、だんなが精一杯腕を突っぱねて娘を引き剥がした。

だんなの背筋が、しゃんと伸びていた。

だんなに拒絶されたと感じた娘が、すがるようにだんなを見つめていた。

だんな
「ボクもやとわれの講師にすぎません。あなたには、ひとにはやさしく、上下無く接するべきだと、ボクは教えたはずです。あなたはそれを、ありがたい教えですと、受け入れたのではなかったのですか。」

大きな声ではなかったが、しっかりとした口調でだんなはいった。

それは生徒を教え諭す、教師の口調だった。

犬がだんなの顔をみあげて激しく尻尾を振った。

諭された娘は、ひるむことなく、むしろうれしそうに言った。


「先生、先生だけが、やさしくわたしを叱ってくれる。もっとわたしに教えてください。わたしの夫になってください。」


「だめよ」

しゃべったのは犬だった。

効果音:変身解除

犬は魔法の呪文をとなえると、嫁さんの姿に戻っていった。




「おやかたさま、おわかりになったでしょう?あなたの娘の狂言に、私たちは迷惑しています。」

嫁さまは娘にキっと視線を合わせた。

娘は大柄な嫁の姿に驚き、嫁さんのきついまなざしにたえかね、助けを求めるように母親に視線を送った。

しかし、母親もまた、娘をにらみつけていたのだった。

母親をだまして、横恋慕した男を手に入れようとした娘が、へなへなと床に座り込もうとしたところを支えたのは忍者だった。

忍者
「姫様、じかにお座りになるなどなりません。」

その手を払いのけようとした娘の手は、空を切って、忍者の頬に強くあたった。

効果音:ビンタの音

忍者は動じることなく、むしろかなしそうは目で、そっと娘を支えていた。

効果音:キセルを叩く音



「娘を退出させよ。」

母は冷たく侍女に命じた。

ふたりの侍女が母親の側をはなれ、忍者が支える娘を流れるような動作で受け取ると、静かに退出していった。


忍者
「おやかたさまはごぞんじだったのですか」

忍者が意外そうにたずねると、母は嫁さんをじっとみつめて淡々といった。



「そこな にょしょう が、わらわをたずねて進言したのじゃ。真実を知ってほしいとな。」

忍者があらわれたということは、ゼントでなにかがあったのだろうというのが嫁さんの推理だった。

わしは嫁さんに頼まれて、ベスパーの宿屋をあたり、ゼントからの客を洗い出したのだ。

そして、だんながゼントで滞在していたという武家の母子が宿泊していると聞き、あたりをつけてみたのだ。

娘はだんなを物陰からこっそりと見るために外出してばかりだったので、嫁さんは宿に残っている母親に事情を話した。

娘の話と違うという母親を納得させるために、嫁さんはわざと、忍者にだんなを捕まえさせたのだ。

力なくうなだれる娘が連れ出されたあと、静かになった部屋で母親がいった。



「ふさわしきしつけようとしても、ままならず、ましてや娘の言葉を鵜呑みにする親ばかであったとは、われながらふがいないことじゃ。なんともわびのしようもない。」


眼光は鋭いままだし、あたまも下げなかったが、謝罪はしているようだった。


「お嬢さんには、まだまだおやかたさまの教育が必要なようですね。」

丁寧に話しているが、嫌味をいっているのだろうなとはわかった。

おやかた様とやらもおっかないが、この嫁さんもなかなかにおっかないわ。





「そのものたちを宿まで安全に送るがよい。そなたからのわびも忘れずにな。」

忍者
「御意」


母親は立ちあがり、さらに奥の部屋に移ろうとするのを、嫁さんがひきとめた。


「まってください。わたしの夫になる人は、頼りなくなんてありません。やさしくて芯が強いんです。訂正してください。」

母親は振り返り、嫁さんとだんなの顔を交互にみると、ふっと笑った。

そして、嫁さんにむかってまっすぐに向き直り、黙って一礼すると、無言のまま侍女を従えて、さらに奥の部屋に去っていった。

なんとも優雅なお辞儀であった。

高貴な女性というのはそういうしぐさが違うのだろうなと、感心したものだ。


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忍者は無言のまま、わしらと宿まで歩いていった。

忍者の黒装束の頭巾姿は、道行く人をびっくりさせたようだが、本人は気にしていないようだった。

宿に着くと、忍者はやはり、かた膝と右こぶしを地につけて目を伏せると謝罪の言葉をのべた。

忍者
「命じられたこととはいえ、理不尽な襲撃であった。もうしわけない。」

おやかたさまの無言の一礼にはなにも言わなかった嫁さんが言った。


「おかしいと思った命令とか、きいちゃうから、あの子がどんどんわがままになるのよ。だいたいあなた、謝るのに顔もみせないってどういうこと?」

だんな
「かわいそうだよ。この人にだっていろいろ立場があるんだよ。」


「あなたがやさしいのはうれしいけど、これはけじめよ」

忍者
「もっともだ。失礼をした。」

忍者は立ち上がり頭巾をとった。

その顔をみて、嫁さんがふきだし笑い出し、だんなとわしはあぜんとした。

忍者はわけがわからず、むっとしている。

忍者
「われの顔はそんなにもおかしいだろうか・・・・・」

それなりに傷ついたのだろう、素顔の忍者が、気まずそうに目線を泳がせた。


「頭巾をとって、あの子を叱ればきっということを聞くわよ」

だんな
「ど、どうだろうなあ。」

髪と目の色は違うが、双子かと思うくらい、だんなと忍者の素顔はそっくりだったのだ。

船頭
「あんたは鏡をみたことがないのかね?だんなさんに顔がそっくりだ。その顔であのお嬢さんにちゃんと必要なことをいってやれば、聞き入れてくれるかもしれないよ。」

忍者の表情が少し明るくなった。


「気持ちを伝えるなら、ありのままが一番よ。

この人も昔、大柄で醜いで、いじめられていたわたしに、ありのままで笑顔でいるのが大事なんだよっていつもいってくれたわ。」

だんな
「君は醜くなんかないよ。とっても、その、かわいいよ・・・・・。」

嫁さんはこれ以上はないという笑顔で、だんなを抱きしめると熱烈な口づけをした。

今度はわしと忍者があぜんとする番だった。

強烈な抱擁から、やっと開放されただんなの手をとって、忍者が言った。


忍者
「そこもとは一見なさけないほど弱そうだが、ほんとうは立派な男だ。

おやかた様と姫様に、はっきりものを言えるなど、そうそうできることではない。」

これには嫁さんはひとことありそうだったが、ひきぎみのだんなの手をしっかりと握る忍者の姿に、なにかいうのは控えた様子だった。


*********************************************



問題が解決したのもあり、ふたりは船に乗って、ニジェルムに向かうことになった。

港へいくと、新造船と思われるトクノ船の上から、手招きをするものがいる。

船員の格好をした男は、だんなと同じ顔の忍者だった。


忍者
「この船は、おやかた様からのわびの品だ。われ・・・じゃなくて、オレが操船をするので、好きにつかうがいい。」

ふたりは複雑な顔をしていたが、忍者しょんぼりと言ったので、ありがたく好意をうけることにした。

忍者
「ふたりを無事に送れと、おやかた様に命じられている。そのあとは、暇をやるから好きに生きろといわれてしまった。」



船頭
「それは・・・・・クビをきられたのか? 忍者は廃業か?」

やはりしょんぼりと、忍者は言った。

忍者
「おやかた様から、姫様のためにも、甘やかしてしまうオレは、しばらく離れていたほうが良いといわれてしまった。姫様の教育はおやかた様がするが、オレの教育はオレ自身でどうにかしろと、いわれてしまったのだ。」


嫁さまが、また笑い出した。

「よかったわね、未来は明るいわ。」

忍者

「よかった、のだろうか。」

だんな

「ボクも、よかった、だと思うよ。」

だんなも笑い出した。

忍者も慣れない様子で、笑おうと努力した結果、とても面白い顔をしていた。

そうして3人は、ニジェルムに向かった。

わしも結婚式に参列するように誘われたのだが、おやかた様は、わしにも船を用意してくれていた。

高貴な人というのは、おわびの感覚が庶民とはまったく違うようだ。

新しい船がまたすばらしくて、操船したくてたまらなかったので、一緒にいくのは断ったのだ。

結婚式が終わったら、またベスパーに立ち寄るといっていたので、そのときは新しい船でまた観光案内をしてやろう。

もちろん、あの忍者も一緒にだ。

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(あとがき)

第十一話は、恋愛小説に定評がある方からの投稿作品を元に脚本化しました。

想う男を手に入れるために、良家の娘が忍者を放つ、というコンセプトですが、残念ながら娘の恋心は実りません。なぜなら男には最愛の婚約者がいるからです。この婚約者は原作には登場しないのですが、失恋の理由つけのためにも活躍させることにしました。

襲われる男役からは、「ボクなんて言ったこと生涯一回もねえっ」と、抗議が届いていましたが、スルー。監督権限で全スルー。言っていただきましたともっ。ありがとうございましたっ。
ちなみに、甘いセリフは吹き出しそうになりながら演じていただいたようです。ムリを聞いていただいて、重ねて感謝です。

原作者の方にも、嫁役として声の参加をしていただきました。芯の強い、魅力的なキャラに出来上がりました。


娘役には「上目遣いで、思いっきり甘えてください」と、お願いしました。ウィスパーボイスで上目遣いチラッとか、最強じゃないですか?(^^)

そしておやかた様。「素ですよね?」と、にやにやしながらギルメンに言われたのは・・・・・素直に喜べない。喜べないが、にやにやしていただけたのならよしとしよう・・・・・。

尚、この記事の掲載に関しては、原作者の許可を頂いております。

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再放送をご希望のかたはコメントするか拍手をぽちっとしてください。

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